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家族との距離・物理的に気持ち的に
ー お父さんなぁ、年明けに入院がきまって・・・
ー うん、聞いた。頑張ってね。
ー そうか、聞いたか。まぁお父さんが頑張ることはないんだけど・・・
ー 麻酔がかかってるときは、ねぇ。でもさ、そうじゃなくて術後でしょ、術後が大事だし、そこ、頑張れるのはお父さんだけなんだからさ。
そんな、年の瀬に交わした父との会話。
最近は入院目前だから検査なんかで忙しいらしくて、年明けてから話せていない。
◈
父はもうすぐ90歳になる。そしてようやく、4月には「お仕事」から完全引退することにしたと去年聞いた。
おつかれさま、これからは主婦してる私と、ゆっくりすきなことする?
そんな風につい先日の一時帰国でそんな話を父としたばかりだった。電話連絡すら時差のせいにしてあまりしない私なので、反省、いや猛省して今回はアメリカに戻ってからちょこちょこLINE電話をかけていた。
お父さんにね、胃のまわりのリンパ節が腫れてるの、見つかったんだ。
今がんセンターの先生といろいろ相談してるみたい。
基本的にそちらの先生と一緒に相談するお父さんの方針を、私はサポートするよ。
私が帰米してから10日ほど経ったときだろうか、医者の長女からテキストがきた。
父には数年前に胃癌が見つかっており、ESDというちょっと深めの部分切除を受けている。そのフォローアップで見つかったことらしい。姉からのテキストには、行間に家族の気持ちだけじゃなく医療情報や担当医の姿勢とか、沢山の情報が詰まっている。
離れている家族には、聞くことしかできないけど。
数日後またテキストがきた。
手術するって。来年1月×日入院、△日手術。
おおっと、手術するんだ。・・・手術って、どこまで何するんだろ。腹腔鏡下にリンパ節切除(+生検)で・・・化学療法?
オットと私も、言葉と言葉の間にさらに沢山の言葉と思いの入った短い会話をする。もう90だしなぁ、そういう前提ももちろん共有しながら。
その後日本の姉との短いテキストのやり取りが続き、父が選んだのが「ロボット支援下腹腔鏡胃亜全摘」・・・と聞いてさすがにビックリした。標準術式とまではいかないまでも確かに日本では大分進んできている、最先端ともいえる胃癌手術法。そして確かに、患者さん本人への負担は小さめ。
・・・いや、負担が小さいっていったって、やっぱりメジャーな手術だ。なにより挿管・全身麻酔だ。オットと私はまたうーーーーーん、と唸るしかない。祈るしかない。
私の父は内科医だ。だから基本的に自身の治療のことは父自身に決めてもらっている。年齢相当に反応が鈍いことだってあるし耳はかなり遠い。それでもリスクとか利点、担当医に示される数字の意味を比較的間違うことなく理解できるし治療方針を自分で決める冷静さもあると思ってはいる。
でもなぁ・・・と遠くにいる私はやっぱり考えてしまう。
外科治療のポイントは、特に高齢では手術治療そのものよりその後本人がどれだけ元の生活に戻る努力ができるか、だ。
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私事ではあるが、昨日ちょっと大きめ?手術をうけた。歯のインプラントをするために、その根っこ部分を支える骨が薄くて弱いから副鼻腔というところに骨移植したのだ。わかりやすく例えれば、道路標識を立てようとする場所に土を充分に掘ってセメントをいれ、そこに標識のポスト(柱)部分をまず入れてセメントがちゃんと乾いた頃に標識をとりつける、みたいなもの。その「セメント」「柱固定」をやったわけね。
まぁやったことは「ただそれだけ」なんだけど、「セメント注入」のため骨を削ってはいるので単純な手技とはいえ骨からの感染とかには充分気をつけなきゃいけない。ついでに1時間ほど静脈麻酔で寝かされただけなのに昨日一日めっちゃくちゃ調子が出なかった。「出てなかった」と、今朝起きて気付いたという方が正しいか。
55歳の私の この程度の手術で、だ。
90歳目前の父の全身麻酔管理、いや、術後がやっぱり心配だ。心配なんて言うも書くもタダ、なんだけど。
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離れている(普段何もしてない)家族が 最後に一番文句を言う。
介護や医療の世界でよく聞く言葉だ。日常を支えられないという「申し訳なさ」の裏返しなのかもしれない。でもやっぱり、個人的に離れている家族は基本、何も言っちゃいけないと思っている。
術前術後の忙しさや苦労は 本人と面倒をみる近さにいる家族にしかわからない。心労も、コロナ禍以降なかなか会えないという面会制限も、そこにいるひとには日々気付かぬようで大きなストレスとなって溜まっていく。
術後に無事帰宅出来たとしても、いきなり大きな生活の制限がかかった病人を家庭に受け入れて日常リズムを取り戻すのには時間がかかる。
でもいつまでも「遠くに住む家族」でもなぁ・・・
ということで、少し術後時間をあけて実家にすこし帰ることにした。
姉が同居して面倒みてくれているので、その邪魔にならない程度にリハビリ強化要員として。そしてたまたま、フライトが安くなってた。便はかぎられるけれど。
私の親にとっては親不孝娘の代表みたいな私。多少でも役に立ちたい・・・という気持ちだけ空回ってるんじゃないか、という不安はあれど、動かないより動いたほうがいいだろうと思っている、というか思いたいのだ。
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