超個人的「ウイルスと世界」紀行②
紀行文とは
旅行の行程をたどるように、体験した内容を記した文。 紀行文・旅行記・道中記ともいう。
日曜の夕方だから、5時くらいでも道は空いている。
空の雲は一部薄くなって、東側のエッジには夕焼けの始まった色が映っている。
「道、空いてるねぇ。」
「・・・今日、日曜だよ」
「あ、何曜日か分かんなくなってた。それでも、少なくない?」
会話はここで終わる。日本の受験のため(結局アメリカの大学にいくことになったが)早く卒業資格を得た娘は連日家に居るから、曜日の感覚がないらしい。
娘はJ-popのヒットチャートをかけて歌いながら運転している。なんだったら踊ってもいる。もともと私に似て楽観的に物事を捉える子だけれど、こんなに「面白い子」をやったり、なにかをして(今は車の運転)忙しそうにするのは落ち着かないからだ。自分ではどうしようもないことで、慌てるとかプレッシャーを感じるとかそういうことが無駄だとわかっているから「なにかをしていたい」のだろう。喋り続けるか場を明るくしたくなるのだろう。そんなところは教えていないのに私そっくりだ。
すんなりとゲストハウスに着いて、荷物を運び込む。小さい炊飯器と米も。オットは殆ど自炊をしない。出来るらしいが私の前ではしない。したら負け、とでも思っているのだろうか。こんなときは自分でカレーでもつくってくれていいのだが。でもまぁ、夕飯を運び込みながら、オットが息をしているのは確認できるからいいか。
冷蔵庫や冷凍庫(オットのために、冷凍の枝豆とか、数本のアイスクリームバーを持ってきた)にモノをいれ、使うかもしれない(というか間違いなく使う)ワインオープナーやエアタイトの栓(飲みかけのワインを保存するのに使う)を引き出しに入れる。すぐ分かるところへシリアルなどを仕舞う。そして再度、今触ったところ全部を消毒ワイプで拭いておしまい。(私はここのところずっと、ゲストが使った後の掃除で全ての表面を消毒して終えている)
娘は時々私の手伝いで掃除をしてくれていたので、なにがどこにある、というのが大体わかっている。まだ歌を歌っている。今は緊張というより、「たのしく片付け」の目的っぽい。面白いのでいつかこっそりビデオを撮りたい。
持ってきたものをセットし終えた頃、テイクアウトをオーダーした店から「できてるよ」と電話が入る。
「すみません、10分で行きます!」
本当は15分かかるけれど。娘がまだ運転する気らしいので
「急がなくて良いよ」と伝える。
道中、どうでもいいことを娘は話している。
私はメールやテキストを確認しながら適当に相槌をうつ。
「かーちゃん、聞いてる?」
「あ、ごめん。ちょっと急ぎで返信」
この一言をきくと娘は黙る。怒っているのではない、ただ「どんなことにも優先順位があって、’急ぐ’ ’待って’といわれたら待つしかない」と、我が家の暗黙のルールをよく知っているだけだ。
夕ご飯をとりにいった店についたのが午後6時。この10年ちかくよく行っている店なので、顔をみたらおかみさんがアゴで既にできているオーダーの袋を示す。お互い目を合わせてにこりとし、私はそこに置かれたレシートにサインをする。予めクレジットカード番号をつたえてあるから。
「Stay safe! 身体に気をつけてね」
と言って店を後にするまで、おかみさんと私の距離は常に2mは空いていた。
GPSを確認すると、オットはまだ職場から出られていない。