昔見た変な夢の話1
【伝説のカレー】
橋の上に立っている。
こんなはずじゃなかったと頭を抱えた。
「カレー屋は何処だ。」
辺りは簡素な住宅街だ。
こんな場所にカレー屋があったら、毎日何処かの夕飯がカレーになる。
カレーの匂いはそれだけの魅力が詰まっているのだから。
匂い。カレーの匂いがした。
意識した途端にぶわっと鼻腔を膨らませる。
しかも、3日目の一番幸せな香り。
その匂いに導かれるように、私は歩き出していた。
歩いていると、道路の上に食堂のテーブルらしき物があった。
道路と行っても車の来る気配がまるでない変な場所だった。
回らない椅子に座ったおじいさんが手招きしている。
「たどり着いたのか…」
おじいさんは何も言わずにっこり笑って、隣の椅子をたたいた。
その姿が、何故か神々しくこの人はカレーの仙人なのだと思うのだ。
仙人がたどり着いた究極のカレーに私如きがスプーンを入れていい物なのかと早くも密かな葛藤が生まれていた。
「早く座んな。カレーが冷めるよ。」
気付いたら、おばちゃんが一つのカレー鍋を抱えて立っていた。
机の上には、美しく茶色なカレー。
「この輝は…」
あまりの眩しさに立ち慄いていると仙人が振り返った。
「ほう。このカレーの色がわかるか。
お主にはこのカレーを食す義務があるとわしは思うのだが。」
仙人は真剣な目をしていた。
おばちゃんが溜息をついて、椅子を引いてくれた。
私は、いつの間に溜まったつばを飲み込み慎重に椅子に座った。
「ぐっ…」
なんて気だ。重い重すぎる。
椅子に座った途端に、襲いかかる気配に飲み込まれそうになった。
仙人を見ると、美味そうにカレーにぱくついている。
私は、このカレーを前にして逃げるのか。
私は、逃げたくない。まだ、戦える。
スプーンを手に取り、カレーとご飯の絡み合う、まさに淡水と海水が混じり合う汽水域を見据えた。沢山の生物が生息するそこは楽園のような場所。
たまらなくなり、私はスプーンをおとした。
一口食べるたびに、広がるのはまさに夢。
カレーには夢があるのだ。
甘くもなく辛くもなく、不味くもなく美味くもない。
ただそこに無限の可能性があるとみた。
「ご馳走様。おばちゃんまた3日後に来るよ。」
おばちゃんは呆れたような顔してあいよと言った。
仙人は、驚いたような嬉しそうな顔をしていた。
ただ、二人とも優しい目をしていた気がする。
ただ、カレーが食べたかったのだ。
って、夢を見たことがある。