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今週の日記|幸運のニシンがあるのなら、たとえ口に押し込まれてもかまわない

9月26日 日記の密かな愉しみ

先日のこと、バズる文章の秘訣みたいなものを読んでいたら、もっとも「バズらない」文章の一例として挙げられていたのが「日記」だった。芸能人とかならともかく、たんなる一般人にすぎないオマエの日記など誰が読みたいものか、というわけである。まあ、わからないでもない。じっさい、このnoteにしてもバズったためしがない。

とはいえ、日記、とりわけあらかじめ他人の目に触れることを前提に書かれたもの(これもまさしくそうだけれど)の場合、何を書いて何を書かなかったかを推察するのが読み手としてはじつは面白かったりする。

日記というのは、書き手がみずから書き残したいと思ったことだけが書かれているものである。たとえば「断腸亭日乗」がある。永井荷風が肌身はなさず持ち歩き、亡くなるまで書きつづけた日記だ。しかし、もちろんそこには荷風の日常がつぶさに書かれているわけではない。いや、むしろなんでこんな大きな出来事が書かかれていないのか、思わず首をひねりたくなることさえある。

しかしそこに、荷風が意図的に書かなかったことの方に、永井荷風という酔狂な人間の素顔がより感じられるのが面白かったりする。書かなかったことは、あえて書くほどまでもないと判断した事柄ばかりでなく、書かないことで「なかったことに」しようと目論んだ事柄も含まれるからである。

たしかに、たいがいの日記はバズらない。だが、バズらないからといって詰まらないと思うのは大きなまちがいである。

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