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アマンダと僕 Amanda/ミカエル・アース
ミカエル・アース監督のアマンダと僕を観てきた。サマーフィーリング同様、身近な人の死という喪失を描いているものの、こちらは近年パリで起こっていたテロが引き金になっているため、個人の視点と社会的な視点のバランスの上で描かれていた。冒頭の何気ない日々の中に突如現れる銃撃テロが大きな影を落とし込む。主人公のダヴィッドの陽気さや、姉とその娘との関係や、はなればなれに暮らす関わりのなかった母との繋がりをウィンブルドンの試合観戦という布石を打っている中で、全てが分断されていく。
銃撃の現場に居合わせてしまった恋人や友人は、外傷だけでなく心にも大きな影を落としていて、パリのテロに巻き込まれた人々の姿を炙り出していた。姉の死に直面するダヴィッドが、姪のアマンダを扶養することへの不安に苛まれていく様は24歳という年から考えれば、余りにも重い選択を迫られているのが分かる。
この映画は離婚した両親との関わり、テロリストによる犯罪(公園のシーンで人種間の問題も一瞬映る)、テロによって傷を負った人々、親を亡くした孤児、親権問題など様々な問題を湿っぽく描く事はせず、無理な感動を誘う事なくひとりひとりの身に起こっていることを描いていた。
これから関係を築いていこうとしていたレナが去っていった後の、駅のホームでひとり泣き崩れるダヴィッドの姿に心を打たれた。
ラストでウィンブルドンを鑑賞しながら、試合の動向に諦めを感じたアマンダが亡き母とのエルヴィス・プレスリーの下りを話しながら、まだ終わっていないと諦めない事を諭すシーンでのアマンダの表情は忘れられない。
パリに来ないかと誘ったけれど断りを入れたレナから試合直前に入ったメールには「早く会いたい」と書かれていたことから、諦めずに行こうという僅かながらの希望がそこにあった。
悲劇の中から抜け出そうとする人々の強さを感じることが出来る。そんな映画だったと思う。
少し話が逸れるが劇中Poomのポスターと、ブレードランナー2049のアド、インヴェーダーのグラフィティが映っていた。
個人的には前作サマーフィーリングの方が、作品としては好みだったけれど、今作も心に残る良作だったと思う。