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005. 価値観が合わなかった元カップルの話
ありのままの事実をもとにこの関係を言い表すのであれば、その男と私は確かにお付き合いをしていた。が、私は彼との交際した経歴を抹消している。それほどまでに薄っぺらくて学びのない恋愛だった。
私が社会人3年目の秋頃、大学時代の友人と食事に行くと、彼女は数年ぶりに彼氏ができたと報告してくれた。出会いはマッチングアプリ。結婚願望がない彼女がマッチングアプリをやっていて不思議だなあと思いながら見守っていたのだが、なんとも喜ばしい報告である。
その頃の私は絶賛オタ活満喫期、ただそれまでも何度かお付き合いしてそれなりに恋愛経験を積んできており、久々に彼氏が欲しいと思い立ち、帰宅後すぐにマッチングアプリを始めた。
過去の恋愛遍歴は、中学時代に1人、大学時代に3人とお付き合いをしたことがある。毎度長続きはせず最長で8か月ほど、基本的に私から振るも1度は浮気されて振られた経験がある。自分で言うのもなんだが私の顔面は中の下レベル、本当に優しくて良い両親に育てられて友人にも恵まれたため、性格は割といい方だと自負している。「将来いいママになりそうな人ランキング」に選ばれたり、「学年の中で付き合うなら絶対にnoiちゃん」と太鼓判を押してもらえる、といった感じだ。
また、以前の記事に出てきたA子(この当時はA子と仲良くオタ活をしている)の影響でメイクの研究をしていたので、メイクをすると大分マシな狸顔オンナが出来上がる。そんなこんなで顔写真に若干の加工とモザイクを入れ、プロフィールを完成させると、様々な男性から『イイネ』をいただいた。
一人一人プロフィールや写真を見ては右にスワイプ、左にスワイプ…。最初こそ手こずったものの、3日ほどすればもうお手のものだ。男性とマッチすると基本的にお相手からメッセージを送ってくれた。しかし、連絡を取ることを極端に嫌う私は、何人、何十人もの方とやり取りしては、一方的に止めてしまっていた。あぁ面倒くさい。でも電話は苦手なので極力避けたい。なるべくメッセージをしあわずに会えないものか、そう思いながらイイネしてくれた男性を捌いていた時、とある男性のプロフィールが目に留まった。
ぱっちり二重の大きな目に185センチのスラッとしたスタイル、住んでいるところは若干遠く年収も高くはないが、アニメなどの趣味が合いそうな2つ上の男性だ。
私がイイネを返してマッチすると彼から当たり障りのないメッセージが送られてきて、やり取りが始まった。途中でLINEに切り替えたが、彼とのフランクなやり取りが楽しく、マッチしてから1週間ほどして「仕事終わりに会おう」という話になった。
私がマッチングアプリにもつ鍋の写真を登録していたこともあり、彼がもつ鍋屋を予約していてくれた。実際に会うとそのスタイルの良さが引き立ち、少し緊張しているようだったが物腰が柔らかく良い方だった。私は初対面の方とでもかなり話ができるタイプなので、自分の話を織り交ぜつつ彼の人物像を掘り下げていった。
「元カノは一人、ずっとスポーツに打ち込んできたからこれといった浮いた話もなくて人見知りだけど、moiちゃんはすごく喋りやすくて良いね。」少し記憶が曖昧だが、そう言ってくれたと思う。私も彼との時間が楽しく、それから数日間LINEでやりとりしつつたまに電話もした。一度彼から「アプリで知り合った人でもう一人気になっている子がいる、こんな話して申し訳ないけど嘘はつきなくないから。」と電話口で言われた際、「正直に話してくれて嬉しい、ありがとうございます。〇〇くんが後悔しない方を選んでほしいけど、私と付き合ったら絶対楽しいよ。」と返した。(今となってはもう片方の女性を選んだほうが良かったね!陳謝!の気持ち。)
そんなこんなで2回目のデートに漕ぎ着け、イルミネーションを見ながら彼から告白してもらったのだが、そこで私は違和感を覚えた。
告白台詞………サッッッッム!!!!!!!!
途中から聞くのも嫌すぎて耳を塞いでしまったのでイマイチ覚えてないが、そんな台詞どこから仕入れてきたんだ…アニメか…?もしかしたら生粋のロマンチスト女なら刺さるのかもしれないが、私にはちょっとキツすぎる。鳥肌が止まらない。申し訳ないが気持ち悪い。
一気に気持ちが冷めたこの時にお断りしておけば良かったものの、それ以前に彼に好意を匂わせていたり、彼氏が欲しかったこともあり、私は二つ返事でOKし、晴れて彼と恋人同士になった。
それから1日2、3回ほどのLINEをしながら、2週に1、2回のペースでデートをした。彼が実家暮らしで私が一人暮らしなこともあり、うちに泊まりに来ることも稀にあった。なんでも彼は転職したてらしく(前職はいわゆるブラック企業)、メンタルをやられて職場を変え、新しい職種のため日々忙しく、給料面も平均より低いくらいだった。そのためデートは基本割り勘、贅沢はしない質素なプランで楽しんだ。
そんな彼に対して、価値観の違いか別れが過ぎる出来事が2つあった。
①クリスマスプレゼント交換
付き合って2か月ほど経った頃の話。お互い常時金欠のため、クリスマスディナーは食べに行かず、クリスマスマーケットを楽しみながら私の家でパーティーをすることになった。その際、クリスマスプレゼントを交換したいので予算を決めよう、と提案すると
”いいね!500円くらいでどう?”
という返信が返ってきた。
まてまてまて、私は今社会人と付き合っているんだよね?しかも相手は二歳年上の実家住みで、プレゼントの値段が500円?どういうこと?500円で何が買えるの?駄菓子か何かか????
これまでも若干のケチな一面はあったが浪費癖がある男よりはマシだし、好きなゲームやイベントなどにお金を使っていると言っていたので期待はしていなかったが、24歳の彼女へのクリスマスプレゼントがまさかの500円。
私の感覚がズレているのかと不安になり友人何人かに相談をすると、みな口を揃えて500円はありえないというので胸をなでおろした。そして、彼に申し訳ないけど500円ではさすがにあげたいプレゼントが見つからないので、上限2000円にしないか?と再度提案したところ、すぐに彼から謝罪と了承を得た。
私の価値は500円、そう悲観しながらも、これが彼の価値観なんだと無理やり納得し、これから少しづつ擦り合わせていこうと心に誓った。
②ホワイトデーのお返し
バレンタインの日、私は彼に3000円しないくらいのチョコレートを渡した。まだ付き合って4か月だし、バレンタインのお返しは同額以上がマナーのイメージがあるため、彼のお財布事情を鑑みて高すぎないギリギリのラインを攻めたつもりだ。彼は喜んでそれを受け取り、帰宅後のLINEで味の感想を送ってきてくれた。私も嬉しくなった。
お返しは何がいいかと聞かれたので、クッキーが欲しいと答えると美味しいクッキーを探して買ってくるね、との連絡が。サプライズ等にこだわりのない私は大喜びで、ホワイトデー付近にデートの予定を立てた。
デート当日、急に彼から体調不良が続いてるのでリスケしたいとの連絡がきた。その日の夜は泊りにくる予定だったので部屋を片付け、オシャレをし、楽しみに待っていたのに。落ち込んだが無理はしてほしくなかったので了承、体調がよくなったらまたデートの予定を立てようと約束した。
2週間後、横浜みなとみらいでデートをすることになった。桜木町駅に着き彼に連絡すると、彼は私より先に来ていたようだった。そして持っている紙袋を手渡された。その紙袋には見覚えがある、みなとみらいを代表する洋菓子屋さんのものだ。
”これ、ホワイトデーのお返し。食べてね。"
私は悲しい気持ちになった。彼の真後ろに、その洋菓子屋さんがあったから。みなとみらいにしか店舗がないその洋菓子屋、あなたの住んでる地域にはまず無いよね?今日ついてその場で調達したんだ。ホワイトデーは2週間も前なのに、前もって準備してくれてなかったんだ。
かなり不満だったがそのままデートし帰宅。貰ったお菓子の箱を開けると中はパイ菓子などの詰め合わせ手、私の希望したものではなかった。また、そのお菓子をの値段を調べてみると、税込み1100円。どこまでケチなんだ。3倍返ししてほしいとは言わないが、私はそこまでお金をかけたくない人間なのか?仮にも彼女だぞ?せめて一言、「クッキーじゃなくてごめんね」の言葉があればよかったのに。
きっと私が求めすぎなだけなのだと思う。友人にこのエピソードを話すと、お返しをもらえるだけマシだと言われた。しかし私は、大切な人へのプレゼント代をケチるのはご法度だと思っている。色々な意見があるとは思うが、これが私の価値観。彼の価値観はどうしても納得できないんだと悟った。
それからすったもんだあり、彼とは半年を迎えずに破局。色々あったが、この価値観の違いは別れる原因の1つとなった。付き合っていけば段々と擦り合わせていけたのだろうか、今となっては知る由もない。
いつか親しい友人に言われた、「自分の幸せのハードルを、自ら下げる必要はない」という言葉、すごく救われた。無理する必要はない、もっと自由に、自分の気持ちや価値観を大切に、ピッタリ合う人を見つけた方が、もっともっと幸せになれるもんね。
冒頭に書いた『学びのない』恋愛という言葉は撤回しよう。人間だれしも、深い関係を築こうとしてそれが失敗すれば、何かしらの学びはある。今回のように。ただ、思えば私は最初から彼への気持ちが離れていたため、これはお付き合いにカウントされないのでは、と思い申し訳ないが私の恋愛遍歴から抹消させてもらった。ありがとう、幸せになってね。
価値観が合わなかった元カップルの話