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恋の思い出

とても良くしていただいているのばらさんが紹介していた『#恋の思い出企画』に参加させていただきたいと思います!

のばらさんのページはとても素敵な記事が満載です。恋バナもとても素敵でした。

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「もし大丈夫なら今日ホタル見に行こうか」
建物内の別会社に勤めていた人からLINEで誘いを受けた。
彼とは特に何かあったわけではなかったけど、毎日のようにLINEをしたり職場ですれ違うと話をするような感じで、誕生日やバレンタインデー、どこか出張に行けばお土産をもらったりしていた。
ちょうど彼氏とも別れていたし、やましいこともなかったのでOKして、仕事の帰りにそのまま行くことになった。
職場の女子達からは「それ、デートでしょ!絶対何かあるよ!」と言われたけど、そんなロマンチックなことって本当にあるのかと半信半疑で当日を迎える。

車で30分もかからない場所にホタルの群生地があって、夜になると沢山のホタルが見られる。彼の車に乗って移動している最中、少しだけ期待する自分がいた。

駐車場に車を停めて山道を歩き始める。ホタルは光に弱いので懐中電灯は使わない。少し足場の悪い道を歩いていく。
ここで、手を繋いだ!とかのエピソードがあればいいのだけど…私達は前後1列になって歩いた。私は滑って転んだりしないように真剣だった。
ホタルは、本当に綺麗でその数と光具合に感動した。
この光はホタル同士の求愛行動らしいけど、思いっきり距離をとった人間2人はそれを何も言わずに見ていたからホタルにしてみればちょっと居心地が悪かったんじゃ無いかと思う。

家まで送ってもらい、そのまま私達は何事もなくホタル鑑賞会を終了した。
帰ってから「家ついたー」とLINEが来てまたいつものように他愛もない話をする。
翌朝職場では大騒ぎになっていたけれど、何もなかったと聞いて残念がる女子。
私も正直少しだけ残念だった。

彼はとても香水が好きで、私も香水集めが趣味だったこともあり何かのプレゼントはお互いほとんど香水。新しいものを買うとアトマイザーに小分けして分け合ったりしていた。女子。完全に女子の世界。

ある日彼が試供品でもらったと嗅がせてくれた香水に心を奪われた。
今まで嗅いだことのないような匂いで、嗅がせてもらってから何日経っても忘れられずついに買うことにした。結構な値段だってけどもうこれは一生ものだと思った。
「買ったのかよ」と笑っていた彼にそれを教えてくれたのがあなただったからということを私は最後まで言えることはなかった。
お互い相手がいたわけでもなかったけれど、ずっと近いようで遠い間柄。
進展することはなくても、その分壊れることもなかった関係。

カラオケに誘われて、私がTHE YELLOW MONKEYが好きだと覚えていたと歌ってくれた『JAM』。そりゃ吉井さんには敵わなくてもその気持ちが嬉しかったし、私の中で特別な曲になった。
髪型を変えればすぐに反応してくれて、褒めてくれた。

どうでもいいことを感情の浮き沈みなく話す彼の雰囲気は心地よく、このままずっと何だか分からない関係のままいられたらいいなと思っていたけれど、別れは私の転職であっという間訪れる。彼もタイミングで転勤になったり、私は当時辞めた会社のことを思い出す人や場所には極力近づきたくなかったので彼のことを避けるようになった。
そしていつの間にか連絡をすることはなくなった。
そのうちに一人暮らしをして夫と同棲して結婚して子供が産まれた。
もう前のように他愛もない話をすることもホタルを見に行くこともない。

知り合いのダンディおじさんにこのことを話すと
「そりゃ、お互い恋愛に疲れて恋愛ごっこをしたんだな」
と言われた。そうか、そうゆうことか。
恋愛をしてしまえば感情が波立って楽しいよりも苦しいが多くなってしまう。
確信をつくことなく曖昧な関係こそ一番楽しいのかもしれない。
彼とはそうゆう関係だった。

息子が去年「ホタルってどこにいるの?」と聞いてきた。
夫が「お前の実家辺りにあるよね」と言われてあの時のことを思い出す。
「あるよ。来年はみんなで見に行こうか」
苦しいくらい好きになり結婚した夫と見るホタルは、きっと綺麗だろう。
あの時の思い出が薄れて新しい思い出を上書きしていく。

ただ、あの時の気持ちは自分の中で大事に覚えておきたいなと思った。
あの時の香水は今も私の定番になっている。

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