もぐら本の内容を試し読みできます。今日は「二度と戻らない薄暗い部屋、わたしたちの楽園。」をお届け
こんにちは。本日も『もぐらの鉱物採集 2020.01.22~2020.03.29 あの人今、泣こうとしたのかな』に収録されている35本のエッセイの中から1本、成瀬 郁 さんによる記事の試し読みをお届けします。本書では、1人の記事は袋とじの外面2ページ、中面2ページ、全4ページで構成されます。ぜひ、実際に本を手にとったところを思い浮かべながらご一読ください。
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【1ページ目 袋とじの外側】
【2、3ページ目 袋とじの内側】
二度と戻らない薄暗い部屋、わたしたちの楽園。
3月12日の木曜日。午前3時。
わたしはいまベッドの中にいる。オレンジ色の常夜灯の光が、いつもどおり眠りにつこうとするわたしを見守ってくれている。
ここ数日は少し暖かかったけれど、夜はやっぱり少し冷える。くすんだピンクのパーカーを羽織って、キッチンに行きお湯を沸かす。一週間ぶりくらいに湯たんぽの準備をしよう。20㎝くらいの赤色の湯たんぽは、いつかのクリスマスプレゼントに当時の恋人がくれたものだ。この冬はとてもお世話になった。けれど、あの頃はこんなに頻繁に湯たんぽを使う日々がくるなんて思ってもみなかった。だってわたしを暖めるのは彼の役目だったから。
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彼と一緒にいくつもの夜を乗りこなしてきた。二人でいれば寒い日なんてないと思っていた。
大学3年生のたしか11月頃だった。わたしは大学に行けなくなった。もっと正確にいうと、夏休みにはもう部活動に行けなくなっていたし、掛け持ちしていたゼミには9月の終わりに行けなくなった。そうしてついに授業にも出られなくなったのだ。
大学に行かなくなって、それまで起床時間だった朝5時半は就寝時間に変わった。
その頃には付き合って1年数ヶ月だった恋人も、わたしと同じように部活と研究室に行けなくなっていた。そうして半同棲していたわたしたちは24時間ずっと一緒にいた。本当にずぅっと。
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