自虐という武器を手に。
「陰キャ」「モブ」「オタク」「コミュ障」といったワードが一般的になった。一見、そういった存在を非難するワードとして使われそうだが、実際の使用シーンはむしろ真逆ではないだろうか。
「こちとら陰キャなんだからコミュニケーション求めんな」
「我々モブがディズニーシーなんか行ったら目が焼ける」
「オタクにはオタクの流儀がある」
「コミュ障なんで飲み会は速攻離脱したい」
使用例はこんなイメージである。「あいつらはオタクだから」といった攻撃的な使い方でなく、むしろ本人たちが「開き直るための武器」として使用している印象が強いのである。たまに漫画とかでわかりやすい悪役が「モブどもがイキがったんじゃねぇぞ~コラァ~!」みたいにわめくこともあるけども(そしてすぐやられる)。
オタクという言葉が一般化したのは80年代くらいだったと記憶している。この頃は思い切り「蔑みの対象」としてのワードだった。暗くてブサイクでコミュニケーションが取れない存在として、「そうでない自分たちから遠ざけるための言葉」だった。
いつしかアニメやゲームの地位が上がり、声優が普通にバラエティなどに呼ばれるようになり、アイドルが「私オタクなんですよ~」と言えるようになった。まあ単純にファミコン世代・マンガ世代などが現在いい大人であり世間的に主流派になったからだが、最近はジャニーズでさえもオタクキャラだったりもするので時代の移り変わりを強く感じる。
あと、自分を貶める「自虐ネタ」が芸人によって一般化したのも大きい。ダメなように見せて笑いを取ることは、誰でも比較的カンタンだというのもある。自分でいえば存在感が薄く、人に気づかれないことがよくあるのだが、これも「気づいてもらえない」と落ち込むのではなく、むしろ「暗殺者に向いてる」などと変換して笑いのネタにできるのはそういったネタをたくさん見てきたからだと思う。
まあ最近は一般化しすぎて「オタクといってもライトかディープか」みたいに細かくカテゴリ分けが進んでいたりするわけだが。
いずれにしても、こういった自虐ワードに暗さはない。冒頭のワードでも「陰キャ」はむしろ陽キャに対抗する手段として使われているし、むしろ陰キャが誇りのような感じだ。しかし同時にそれは「こっちで認めているんだからもう入ってくるなよ」というバリアでもある。陰キャだと認める人に対して「なんで陰キャなの?どのへんが陰キャ?暗いの?週末は部屋から出ないの?」などと聞きまくったら、嫌がられることは間違いない。
オタクが主人公の漫画やアニメが増えたり、それが人気を博すことで一般的になった側面はあるが、「近頃〇〇の影響でオタクを軽々しく名乗るやつが増えた」みたいな話が出てくるとまたややこしいことにはなる。古参ファンとにわかファンの争いのように。
でも実際、認識の違いというのは確かにあるし、そのジャンルに詳しい人から見たら「〇〇好きとか言っても■■も知らないのかよ」といったことも普通にあるだろう。でもそのへんも外野の人から見たら全部一緒だったりするものだ。
ここで唐突に自分の例を振り返る。
かなり昔に参加した飲み会で、初めて会う若い女性がいた。飲み会に呼んでくれた人に紹介され、
「そういえば漫画好きだったよね?彼女も漫画好きなんだって。漫画の話とかできるじゃん」
みたいなことを言われたので、その時は
(わざわざ漫画好きと言われるということは詳しいのかなあ)
と思った。そのころ好きだったのは「無限の住人」とか「プラネテス」などアフタヌーン系が多かったが、話がしやすいのはアニメ化もされていたプラネテスか?いやまず相手の話を聞いてみよう、と考えた。
「へ~、漫画好きなんだ」
「ええ、結構」
「好きな漫画って?何読んでるの?」
「あ、ワンピースとか」
「あ、あぁ~、面白いよね。最近展開も盛り上がってるしね。ちなみに他には」
「他はあんまり…」
「あ、あぁ~、そう」
沈黙。いやこれは漫画好きじゃなくてワンピースが少し好きな人だろ?と思ったが紹介した人からしたらそういう区別がないのだ。
なんか自虐云々とは離れてしまったが、まあそういうものであるということを改めて認識していきたい。
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