好きを仕事に、するしないの世界
「好きなことを仕事にしろ」という提言と、「好きなことは趣味にして仕事は別にしろ」という提言、これは両方とも定期的に見る。
全然反対のことを言っているのに何で両方よく出てくるのかと言えば、両方にそれなりの理由があるからだ。
●好きなことを仕事にするメリット
・興味があることだから楽しい
・知識や技術も習得したくなる
・大変なことも好きだから乗り越えられる
●好きなことを仕事にするデメリット
・仕事なので嫌な方向に行ってもやらなければならない
・やりがい搾取のような状態に陥りやすい
・好きなものが好きじゃなくなる危険性がある
●好きなことを仕事にしないメリット
・割り切ってできる
・好きなことを趣味として個人的に楽しめる
・お金は趣味のためにと切り分けられる
●好きなことを仕事にしないデメリット
・仕事がつらいと救いがない
・興味がないことを続けないといけない危険性がある
・好きなことに触れられる時間が少なくなる
と、まあざっくり考えてみるとこんな感じ。もちろん、その「好きなこと」が何かによっても仕事にしやすさというのは異なる。例えば釣りが好きな人が釣具店に就職してお客さんと釣りの話が存分にできる、というのは仕事にするメリットとしてはわかりやすい。一方で発泡スチロールの触感が大好きという人が発泡スチロールメーカーに勤める、というとなかなか専門の会社も多くないだろうし釣具店よりは大変なのではないかと思う(マツコの知らない世界に呼ばれるレベルなど、本気のマニアであれば別だが)。
そういった一般性のほかに、その度合いの問題がある。「何となく音楽が好きだったので音楽マネジメント事務所に入ったけど、仕事にしたら大変だったので聞くだけのほうがよかった」みたいなこともあるだろう。もちろんそこで「新しい音楽が生まれる瞬間に立ち会えるだけで感動」と思う人もいるだろうが、つまりは「好きと言ってもどれくらいか」によって、つらさを感じる度合いも違うわけだ。別にライトな「好き」ならばやる資格はない!みたいな話でもないのだが。「そこそこに好き」だからこそうまくバランスをとって仕事できる人もいるだろうし。
このへん特に正解があるわけでもなく、じゃあこの文章の意味はなんだったのかと言われそうだが、結局「見極め」としか言えない。
自分がどれくらいそれを好きなのか、もし仕事にしたとしたらどれくらいまで踏み込めるのか、また大変なことがあっても耐えられるくらい好きなのか。などなど判断ポイントがいろいろあるが、若いころには情熱フィルターによって見えなくなってくる部分も多いと思う。体力的にも頑張れてしまうし。
「デザイン大好き→デザイナーになる→作業が多くて大変→でもデザイン好きだから頑張る」みたいな流れになっていつの間にか「もうデザインが嫌いになってきた」みたいな人も見てきた。
タクシーの運ちゃんから10年前くらいにこんな話を聞いたこともある。「忙しくしているデザイナーの若い女の子がいるんですけど、1時くらいに自宅まで送っていって、5時ごろまた来てくれと言われたことがあるんです。大変ですねぇ~」
さすがに今はここまでの状況はそんなにないかもしれないが、好きを仕事にするリスクの一つであろう。まあそんな時期を過ごしたからこそ成長したとかもあるだろうけど、ここが頑張りどころなのか、単に搾取されてるのか、見極めよのう。