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マンガの表紙に金が出ない件についての雑談
◉大童澄瞳先生が、『マンガの表紙に金が出ない件の話』をpixivに無料公開されました。正確には、表紙は単行本のカバーを取った状態の、やや厚めの紙の表面(専門的には表1と呼びます)のことです。大童先生が言ってるのは、主にカバー用のイラストのことでしょう。カバーイラストをグレースケールにして、表紙に流用することもありますが、そうでないレーベルも、多数あります。1993年生まれの大童先生には、出版事業について知らないことも多いでしょうから、1993年にはもう編集者だったジジイの自分が、ちょっと補足を加えつつ、雑感をツラツラと書きます。
だいぶ遅くなりましたが、一旦書き上げました。無料記事です。
— 大童 澄瞳/Sumito Oowara (@dennou319) November 16, 2024
pixivFANBOXで『マンガの表紙に金が出ない件の話』を公開しました! https://t.co/EFZVVuyqVn
だいぶ遅くなりましたが、一旦書き上げました。無料記事です。
pixivFANBOXで『マンガの表紙に金が出ない件の話』を公開しました!
ヘッダーは『映像研には手を出すな!』の単行本のショットです。
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■単行本の歴史■
詳しくは、下記リンク先の全文を、ぜひお読みいただくとして。𝕏(旧Twitter)でも書きましたが、ハードカバーの本はともかく、文庫・新書などの並製本にはカバーはなかったのですが、薄い半透明のグラシン(蝋引き紙)のカバーみたいな物が付いていました。1950年代に光文社カッパブックスが、現在のカバーを付けたとされます。書店で売れずに返本された本は、汚れていたり傷がついたり。でも、カバーを付け替えれば新品同然というメリットや、各種キャンペーンでカバーだけ変える、という手法の普及もあり、多くの漫画単行本でも採用されています。
そもそもマンガの単行本というのは、小学館や朝日新聞に勤務した経験を持つ秋田貞夫が、それまで読み捨てだった雑誌の連載作品を、小説のようにまとめたら売れるのではと、自身の興した出版社で発売したのが始まり。1966年7月から、秋田書店よりサンデーコミックスが刊行開始になりました。サンデーコミックスに小学館や講談社、光文社の雑誌の連載作品が含まれる理由です。そう、TVアニメの『鉄腕アトム』が1963年のスタートですから、漫画単行本はTVアニメよりも歴史が短いのです。当時は、単行本のデザインはテンプレート化されたもので、タイトルロゴも写植(写真植字)とかが普通で、カバーの絵は雑誌連載時の、有り物の原稿を流用するのが、当たり前でした。
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やがて、単行本用に新規イラストを描き下ろしたい、という作家側の要望があり、サービスとして描き下ろすのが一般化しました。ページ調整のための、オマケページも同様。ただ、コレはあくまでも自主的なサービス。大友克洋先生の出世作『童夢』のように、カラー原稿どころか作中のモノクロカットを流用したり、絵を使わないカバー、あるいは別のイラストレーターが描き下ろすこともあります。今回の件は単純に、そういう単行本の歴史を知らない担当編集者と、月刊スピリッツ編集部の人間が、編集部側から仕事を依頼しておきながら、慣例で原稿料は出ないという、間違った認識で混乱を招いたに過ぎません。
■製作原価とは■
それを、出版業界の歴史に詳しくない作家や外野や、搾取だなんだと騒いで議論を混乱させ。この件で森川ジョージ先生は、かなり言葉を選んで説明されていたのに、基礎知識がない外野の人間と、経験豊富なベテラン作家とでは、議論が噛み合うはずもなく。見かねて、元出版社勤務経験がある自分が、補足説明を勝手にした感じです。作家の側からは、編集者の仕事って、見えているようで見えていませんし、かなり専門的な部分がありますしね。出版書籍(特に文庫)がメインのいわゆる文庫屋さんの、くじらのおじさんアカウントが、こんなポストをされていました。直接の引用は避けておられますが、大童澄瞳先生の、上記の文章に対する疑義でしょうね。
出版社が9割持っていく、たとえそこからモロモロ引かれるとしても著者1割よりは貰えてるはず……っていうのを見て、まずその出発点があのそのってなるので、どんなにわかりやすくても例え方ってムズカシイネってなる(出版社の利益率って平均で5%ないんですよ…
— くじらのおじさん (@kujira_binder) November 18, 2024
出版社が9割持っていく、たとえそこからモロモロ引かれるとしても著者1割よりは貰えてるはず……っていうのを見て、まずその出発点があのそのってなるので、どんなにわかりやすくても例え方ってムズカシイネってなる(出版社の利益率って平均で5%ないんですよ…
出版社の製作原価(販売額から利益を除いた金額)は、ほとんど表には出てきませんが。いちおう出版社に10年勤務し、この業界に30年以上関わっている身としては、大まかな部分は把握しています。出版社が1冊の本を出すのに、以下の出費があります。これらがいわゆる、製作原価です。著者印税分以外の90%が丸々、出版社の儲けになるはずもなく。書店と取次会社が30%弱を持っていき、もうこの時点で原価は著者印税を合わせると40%を超えています。飲食店では一般に、原価率が30%を超えると経営がきつい、とされますね。「あの小料理屋は原価300円のものを1000円で売ってる、暴利だ!」なんて話にはならないのですよ。ちなみに、原価率が高いとされるアパレル業界の原価率の平均は25%前後とか。 大手アパレルブランドの中には、原価率50%の企業もありますが。出版社がいかに薄利多売か。でも、他の商売をやっていないと、そこが解らんのです。
・書店の取り分(22%)
・取次会社の取り分(7-8%)
・著者の取り分(10%)
・紙代
・印刷代
・製本代(電子化の作業を含む)
・デザイナー代
・宣伝広告費(販促グッズの制作費を含む)
・運送代(取次会社の輸送費とは別途)
・倉庫保管費
・人件費
さらに、本を作るには紙代・印刷代・製本代・デザイナー代・運送代・倉庫保管費などで、けっこうな額が出ていきます。埼玉県の戸田などには、出版社の大型倉庫が立ち並びますが、1000人以上入れる高校の体育館の、さらに数倍の規模の倉庫が、いくつもあります。1万冊のだと、畳半畳ほどのパレットにまとめられ、それがフォークリフトで運搬されます。そういう建物の、土地代や建設費や維持管理費や人件費なども、出版社は捻出しないといけないわけです。出版社の体力は、倉庫で測ることができます。
これらを加えた原価率が50%なのか60%なのか70%なのか、そこは人件費も絡んできて、単純ではありません。出版社ごとに、状況は異なりますから。また単行本描き下ろし作品でないと、この製作原価には原稿料は含まれていません。例えば新人の単行本で、初版5000部と部数を絞ったで500円の単行本でさえも、おそらく150万円以上のリスクを、出版社は背負うのです。思い切って1万部刷れば、リスクは2倍。そこで出た儲けで、次の出版のための運転資金もプールしないといけないのですから、そんなに濡れ手で粟の商売かといえば、違うというのが理解いただけるでしょう。
■論点切り分け■
「だから作家は、カバー用イラストを無料で書き下ろせ」なんて話は、していません。原稿を依頼して、払える体力がある出版社は、払えばいいでしょう。大手の小学館なら、充分に可能でしょうし。繰り返しますが、単行本の歴史に無知な担当編集者と編集部の問題ですから。こんなことを書いても、自分にはなんのメリットないどころか、小学館に恨まれるだけですけどね。だから、森川ジョージ先生も、かなり言葉を選んでいるのが、自分にはわかりましたので、補足役を勝手に買って出たんです。これを問題提起と捉える人もいますが。提起の面もあれば、混乱させる面もあるのがわかっていない人が、けっこういました。
大手は依頼して原稿料を捻出できても、余裕がない弱小出版社は、今後は有り物で全部やる・作家が無料で書き下ろしたいと言っても断る、となる可能性だってあります。当たり前ですよね、不同意性交と同じで、「あの時は無料で書くのに同意したが、断れない雰囲気があった」なんて後出しされたら、念書を取っていても無駄でしょう。逆に、圧力の証拠にされる。自分のような狡猾な人間なら、同意書のサインをわざと誤字にして、嫌々ながらサインした証拠にするでしょう。これ、伊達政宗公が使った手法ですね。ならば最初から一律に、有り物でやります・書き下ろしはダメになってしまう。リスク管理としては、当然でしょう。
もちろん、単行本に使うことを前提に、カラー扉や表紙の仕事を、回してくれる編集部もあります。そういう部分は、柔軟に交渉でいいでしょう。でも、新人や人気のない作品には、カラーページはなかなか回ってきませんし。人気があっても、編集長がその作品を嫌って、3年半の連載で2年半、カラーページを回さなかった、なんて実例も聞いていますので。自分はそういう編集者や編集長の専横に、むしろ怒りを持ち糾弾してきた側の人間ではありますが。この件での森川ジョージ先生は、ごく常識的なことを言ってるにすぎません。出版社の擁護者でもないです。全国に出版社んl数は2907社ほど。小学館のような大手から、机ひとつの個人出版まで、体力も違えば、前提の違いもあることを理解してください。
■問題点の整理■
そう言えば森川先生の、勝手に書いた云々の部分を、批判する声も見かけましたが。勝手に書いたものだったのは、歴史的な事実です。二次創作の同人誌と同じで、依頼したり公認したら、そこには契約や責任や法的な縛りが生まれる。だけど自分の作品を好きでやってくれている同人誌が黙認されるように、そこは阿吽の呼吸とかあって。全否定か全肯定かの、杓子定規の話ではないのです。同人誌を全部 禁止にしたら、新たな 才能の目をつむ面もあるし。好き勝手にやることを許したら、著者と出版社の権利が侵害される。
編集者側も、昔はテンプレのデザインで不要だったデザイナーを、使えるように会社に掛け合ったり。ここらへんは、小説だと装幀としてデザイナーを使う文化があったりしますから、会社を説得しやすい。そもそもテンプレを廃止したり、作家には見えない部分で、戦ってきた面もあるのです。そういう、歴史的な経緯を踏まえた上で、議論すべきことなのですが。基礎的な知識もなく、さらに以下の2つを混同して語る外野が、多すぎです。
・余裕のある大手出版社が、慣例という間違った認識でノーギャラでカバー絵の描き下ろしを作家に〝依頼した〟事例
・出版社や編集部の懐事情を察し、でも描き下ろしで少しでも自著の売り上げアップに繋げたいという作家側の〝自主的〟な事例
韓国の文在寅大統領が、最低賃金を無理やり上げたら、恩恵を受けたのは文在寅大統領が嫌っている財閥の社員ばかりで、首都ソウルと条件が違う地方では、人件費高騰で雇い止めとかで、かえって雇用が悪化したり。共産趣味(主義ですらない)の薄っぺらく甘い考えで、良きことをやったと思ったら、かえってマイナスが出る、なんてのはよくある話。奄美地方にハブを退治しようとマングースを導入したら、天然記念物のアマミノクロウサギが襲われたように。出版社の99%は、小学館のように恵まれた経営状況にないことに、留意すべきでしょう。
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以下、有料です。ただし内容的には大したことは書いていませんので、興味があって著作権法を遵守できる人だけ、どうぞm(_ _)m ただ投げ銭を出すよりは、お得感があった方がいいでしょうし、プレゼントがわりに200円ぐらい恵んでやろうという、心の広い方をお待ちしております( ´ ▽ ` )ノ
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