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日経サイエンス 2025年1月号の内容

◉日経サイエンスの内容が面白そうだったので、ご紹介を。科学朝日やQuarkなどの科学雑誌、好きでときどき買っていたのですが。今でも入手しやすいのは、ニュートンと日経サイエンスですかね。科学はどうしても、難しいという印象がありますが、それを分かりやすく伝える雑誌の役割は、とても大きいです。学研の学習と価格で育った世代としては、そして編集者が本業の人間としては、強くそう思います。

【 特集:和算 再発見 算聖 関孝和の実像】

力学ならニュートン,分類学ならリンネと,学問の各分野にはその祖と呼ばれる研究者がいることが多い。和算で言えば,江戸時代前期の関孝和(?–1708)こそその人であった。関は,江戸時代を通じて最大の和算の流派であった「関流」の祖と仰がれた数学者である。にもかかわらず,関にまつわる史料は少ない。1人の数学者として関が何を成し遂げたかを語ろうとする時,その答えは茫漠としたものにならざるをえない。しかし関の残した書籍を丹念に分析し,関とその弟子が生涯をかけて探究したある問題の解法をたどることで,彼らの数学的思考の一端が見えてきた。

https://www.nikkei-science.com/202501_038.html

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、同誌の表紙です。


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■数学は理系の王■

詳しくは、上記リンク先の全文を、ぜひお読みいただくとして。日本では、和算と呼ばれる独自の数学が発達し、特に関孝和はベルヌーイよりも先にベルヌーイ数を発見していた、天才 なんですよね。日本人はあまり、天才が出てくる民族というイメージはないのですが。実際には和算は当時としてはとんでもないレベルに達していましたし。日本人で数学のノーベル賞と呼ばれるフィールズ賞を獲得する人間が何人も出るぐらい、意外に強い分野です。考えてみれば、湯川秀樹 博士の理論物理学にしても、日本人は苦手なはずなんですが。物理学のノーベル賞受賞者が、一番多いんですよね。

数学はノーベル賞に含まれていませんが、ある意味ですべての科学の基礎となる、理系学問の王。自分は数学は苦手な人間ですが、それは数学嫌いとはまた違うんですよね。そのロジックの見事さは、美しくさえあります。名作『不思議の国のアリス』で知られるルイス・キャロルは、本名をチャールズ・ラトウィッジ・ドジソンという、オックスフォード大学を優秀な書籍で卒業した、数学者でもあり。ロリコンゆえ、少女たちでも興味を引くような、面白い数字の話をしていたとか。

現代におけるサイエンスコミュニケーターみたいなもので、難しい話を分かりやすく、理解しやすいように話すには、ものすごい才能が必要で。数学者であり文学者でもあった、キャロルならでは。日本人の場合、読み書き算盤と言われるように、当時としては世界最高の計算機の学習が、学問の基礎としてあったのが、大きいかもしれませんね。

■女も狩りをする■

狩猟採集生活では、狩りはもっぱら 男たちの仕事と思われています。実際、アフリカや南米などの部族を調査すると、狩りや戦争は男だけが専従する仕事と、みなされている文化が多いのですが。近年の研究では、必ずしもそうとばかりは言えないようで。爪や牙が鋭いわけでも、体格が大きな訳でもない人類の先祖は、武器を使い、集団による持久戦的な狩りの方法を、選択していたはずで。そうなるとむしろ、女性の方が持久力には優れているんですよね。

【狩りをする女たち 最新科学が覆す「男は狩猟,女は採集」】

人類学者でなくとも,この分野で最も影響力のある概念の1つである「男性は狩猟者(Man the Hunter)」はおそらく聞いたことがあるだろう。狩猟は人類の進化の主な推進力であり,狩猟を担ったのは男性であって女性が狩りをする余地はなかったとする学説だ。人類の祖先は男性と女性の生物学的な差異に根ざして分業制をとり,男性は狩猟と獲物の分配を,女性は子育てと家事を担うよう進化したとする。また,男性は女性より身体的に優れており,女性は妊娠と子育てのために狩りの能力が低い,あるいはないと決めつけている。

この「男性は狩猟者」説は,人類の進化研究を半世紀近く支配し,大衆文化にも浸透した。博物館のジオラマでも教科書の挿絵でも,土曜朝のアニメや映画でもそのように描かれている。ところが,これは間違っているのだ。

例えば、コモドドラゴン。あの巨体でありながら、ダッシュすると意外に早いスピードが出るのですが。でも、狩りの基本は持久戦。近年の研究で、牙の間から毒液が出るコモドドラゴンは、獲物を一噛みすると、後は相手が敗血症などで弱って動けなくなるまで、しつこく追跡するんだそうで。人類の狩りも同じで、弓や槍などの武器で相手を怪我させたら、後はひたすらしつこく追いかけて、弱ったところを仕留める戦法。人類は持久力に優れ、走るスピードは遅くとも、歩き続ける能力は高いんですよね。

アフリカの森林から離れた人類の先祖は、草原で直立二足歩行を獲得し、歩き続けて南米大陸の端っこまで到達しちゃいましたから。まさに歩く動物。そこを考えれば、男性よりさらに持久力が高い女性が、狩りに参加しなかったはずもなく。もちろん民族や文化によって、そこはグラデーションがあるでしょうけれど。今後の研究でさらに、いろんな事例が出てきそうですね。

■植物画の不思議■

もうひとつ、植物画について。植物画に関して言えば、NHKの朝ドラにもなった、牧野富太郎博士も、高い画力で知られましたが。日本の植物画の元祖は、江戸時代の川原慶賀です。天明6年(1786年から万延元年(1860年)まで生きた日本画家で、出島出入り絵師でもありました。シーボルトの依頼で、日本の絵を写実的に描いたのですが、残された絵は素晴らしく。これは学術的な絵画なので、葉や根や花や果実などを同時に描く、異時同図法という画法でもあります。薬草学や植物学といった科学的研究を目的として、草花を正確かつ緻密に描いたボタニカル・アートの先駆者。

【特集:植物画の世界】

画家と学者の二人三脚から生まれる植物画は,科学と芸術の両方を兼ね備えている。カメラでも表現できない植物の特徴を捉えていることから,現在でも文献に欠かせないものだ。英キュー王立植物園で公認画家を務める山中麻須美氏に,昔から変わらない植物画の役割,そして今だからこそ重要となる新しい使命について語ってもらった。山中氏がライフワークとして取り組む小笠原の希少種など,キュー植物園の画家が描いた植物画の数々を,その制作エピソードを交えて紹介する。日本の近代植物学の草創期を支え,江戸から昭和に活躍した画家たちも取り上げる。江戸時代に発展した本草学に源流を辿り,多くの解剖図などを巧みに構成した牧野式植物図にいたるまで,豊富な植物画とともにお届けする。

https://www.nikkei-science.com/202501_055.html

川原慶賀はデ・フィレニューフェに師事し、西洋絵画の写実性を採り入れ、 『慶賀写真草』を上梓しています。シーボルト事件(文政11年=1828年)に連座、その後も事件を起こし江戸所払いと長崎所払いの処罰を受けた慶賀ですが、 『シーボルト妻子像 螺鈿合子』の下絵を描いたのも彼です。シーボルトが日本のオオサンショウウオを初めて欧州に紹介したのですが、このオオサンショウウオや魚類の絵も、慶賀が多数描いています。ちなみにシーボルト、江戸城の見取り図を焼き物に移して持ち出そうとしたように、だいぶ 無茶をした人物です。これも慶賀が下絵をスケッチした……かどうかはわかりませんが。

https://www.pref.nagasaki.jp/bunkadb/index.php/view/24

■別冊:鳥の惑星■

もうひとつ、日経サイエンスの別冊である、ムックも。鳥類を特集した本書、ハチドリの表紙が目を引きます。これも、表紙と目次を見ただけで魅力的な本だと思いますので、ご紹介。自分は、小学校の頃は、鳥の絵を描くのが好きで。ド田舎だったので、空には鳶が舞い、小学校の通学路には小綬鶏が走り回る環境でしたから。鳥を飼うような本格派ではないですが、やはり現代に生き残った恐竜の仲間であり、空の王者でもありますから、鳥類は見ているだけで楽しいです。

別冊274 鳥の惑星 飛翔, 渡り, さえずりを科学する

アラスカの繁殖地からタスマニアの越冬地まで11日間休みなく一気に飛行するオオソリハシシギの羽毛の秘密,音楽や言葉にも似た鳥の歌の音響的特徴の解析,飛翔する鳥としては史上最大のスーパーバード「ペラゴルニス」の飛行術の謎解きなど,驚きに満ちた鳥たちの世界を一挙公開。誌上でのトリ体験で,だれもが“新発見”に出会える一冊です。

第1章 鳥の飛翔と渡り
羽毛の進化 自然が育んだ鳥の機能美  M. B. ハビブ
渡り鳥の量子コンパス 高精度ナビの仕組み  P. J. ホア/ H. モウリットセン
動物たちの磁気感覚  出村政彬

第2章 鳥のさえずり
鳥は鳥の歌をどう聞いているか  A. フィッシュバイン
鳴き鳥の多様化の秘密  K. ウォン
鳴き声の進化 それは虫の声から始まった  M. B. ハビブ

第3章 鳥の知能と多様性
もうトリ頭とは言わせない 解き明かされた鳥の脳の秘密
  O. ギュントュルキュン
鳥が多様になった道筋  K. ウォン
鳥の追跡調査 100年で見えてきたこと  K. ウォン

第4章 古代の鳥
恐竜から鳥へ 羽根と翼の進化  S. ブルサット
恐竜世界にいた鳥  G. ダイク
史上最大の飛ぶ鳥 ペラゴルニス
  D. T. セプカ/M. B. ハビブ

第5章 人間と鳥
ザ・ビッグデー 探鳥バトル同行記 K. ウォン
人気のペットが迷惑者に 都市で増えるインコ
  R. F. マンデルバウム
野生生物を虐げる 不法ペット貿易  R. コニフ

https://www.nikkei-science.com/sci_book/bessatu/b274.html

こちらは残念ながら、電子書籍版がないのですが。作業自体はたぶん、デジタルでやっているはずですから、できれば こういう本は電子書籍版も、発行していただきたいところです。地方の小規模な書店では、こういった本自体が、なかなか入手できませんし。別冊自体、かなりの数になっているので、揃えると結構なスペースを占めてしまいますからね。電子書籍は、本好きにとってこそ、有用ですから。実際、Newtonの別冊は、電子書籍版をまとめて購入しています。


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喜多野土竜
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