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「太陽の値段」

太陽に値段をつけるとしたら、一体いくらだろうか。
太陽を所有できたら、一体何と等価値なのだろうか。
太陽を手に入れたら、何かが思い通りになるだろうか。

こんな妄想を始めて、早数時間が過ぎた。

今年も年末ジャンボは当たらず、なんとはなしにテレビを見ていたがそれにも飽き、眠りにつくほど大晦日に何かをしたわけではないので、ただひたすらにこのなんとも形容し難い色の天井を眺めている。友人との連絡も一通り終え、八帖一間の賃貸にひとり。

とかくこの世は金が掛かる。森羅万象税金対象。どれを買っても消費税。家を持ったら固定資産税。息を吸ったら住民税。いっそ税金で得られるサービスを一切受けられなくていいから、免税されないだろうか。

いや、さすがに警察が守ってくれない社会は恐ろしいか。物を買うたびに免税店へ行くのも嫌気がさしそう。

この世のものは大抵値段がついている。一円玉を作るのに二円掛かるように、お金にさえ値段がある。水は水道代で換算され、ペットボトルにはどこぞの山から採ってきた天然水なるものが詰められている。空気はどうか。これも各国の空気やその時代の空気を閉じ込めたと言って単にその場で缶詰を作っただけのものが製造され流通に乗せられている。先ほども言ったが、単純に生存しているだけで住民税も取られているので、空気を吸うこと自体のお金と考えてもいいだろう。そう考えると、お金に変えられない物質はこの世に存在しない、と考えていいだろう。時間や友情といった概念は実際に領収書を切れるものではないのでここでは割愛だ。

そこで太陽の出番だ。地球上に存在しない物質の中で最も生命に貢献している謎の燃える天体。我々にとっては好都合でしかない、都合のいい星。此奴(こやつ)に値段をつけるとしたら果たしていくらになるのか。黒点がバーコード代わりになったりするだろうか。まず太陽が無くなった場合のことを考えると、その損失は計り知れない。昼の光が無くなるので人々のやる気は失せ、社会は停滞の一途を辿るだろう。それに寒い。夏も冬もないのだから気温は一定で外になんか出られない。人々は地球の核に近づいて暖を取るであろうから、地下世界が誕生するであろう。その費用たるや。サングラス業界も大ダメージだ。存在意義がファッションでしかなくなる。こういった経済的効果を与えている時点でもはやその存在はプライスレスだ。これまで考えたことがなかったが、此奴のいる世界では人類はおろか全生命が生き方を考えなくてはいけなくなるのだ。存在単位としては世界のディズニーパークよりも少ないのに。

反対に、既に社会にとって損失となっている事例も考えなくてならない。日照りや干ばつは大抵此奴のせいであるし、何より地球温暖化は、もちろん我々人類の自分勝手な行動により引き起こした側面がほとんどであるとはいえ、此奴が熱すぎるのが原因である。日焼けによる痒みや痛み、それを原因とする皮膚がん、熱中症、理科の実験で、虫眼鏡で太陽を見ちゃいけないよと言われたらやりたくなってしまう小学生の気持ちを容赦なく蹂躙する眩しさ。全ての損失額も太陽の値段に負債として乗ってくる。これらを相殺しても、まあプラスにはなるだろうが。

地球に生命をもたらしたほどの価値がある天体だ。他の生命体も狙っているに違いない。例えば、数億年に一度開かれる、太陽のオークションなるものがあったとしたら。

今回出品される太陽は、青い宝石と呼ばれている、あの地球を照らす太陽だ。宇宙のいたるところから集まったバイヤーたちが、雁首揃えて目玉商品の紹介を待つ。
宇宙タコの化石(足2本欠損)、銀河詰め合わせパックなどの競りを終え、いよいよ太陽の番が回ってきた。しかし、どうも司会者の歯切れが悪い。中々商品の紹介を始めようとしないのだ。バイヤーの中には、血の気が多い者も、血が通っていない者もいる。方々でヤジが飛び始め、会場はブーイングの嵐。
ようやく何か情報を持ったらしい伝達係が飛び込んでくる。耳打ちされた司会者は大きく顔を歪め、会場は静まり返った。司会者がようやく言葉をまとめたらしく、口を開く。
「太陽が、盗まれました」
あんな質量のものをどうやって盗んだのか。
一体誰が、何の目的で?

数億年に一度開かれる、太陽のオークション。
手にしたものは宇宙を制する。

なんちゃって。

そうこうしているうちに元旦の夜は明け、太陽の光が部屋に差し込んできた。

「眩しっ」

カーテンをシャッと閉めた。

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