デビューするより2作目を出す方が大変って本当ですか?~BL小説作家ver.~
こんにちは。夏ですね。夏といえば自由研究の季節です。
小説の書き方指南本やらサイトなどを読み漁っているとよく出くわす言葉があります。
曰く、「デビューするより、出し続けることの方が難しい」と。
……本当でしょうか? 実際問題、どうなんでしょう?
ということで、個人的な好奇心を満たすため、BL小説作家に対象を限って、直近五年間でデビューされた作家さんの数とその後の動向を調べてみました!
なお、近年は電子限定レーベルも次々増えてきていますが、今回は筆者の時間と根気の都合上、調査対象を紙書籍に限るものとします。
※本記事内に記載するデータは、暇を持て余した個人の興味で集計しただけのものであり、正確性を保証するものではありません。本記事を参考にして生じたいかなる不利益についても、筆者は一切の責任を負いません。あしからずご容赦ください。
1.知りたいこと
デビューの方法ってどんなものがあるの?
毎年何人デビューしてるの? WEBと公募、どっちが多い?
デビュー作のジャンルは? (転移ファンタジー、現代、オメガバース)
どのレーベルがデビューしやすいの?
デビュー後も商業作品を出し続けてる人はどれくらいいるの?
★調査対象
・ちるちるに登録されている小説作品
・発売日が2019年1月1日〜2024年7月30日のもの
・電子限定作品や自家出版は除く
★筆者について
一次二次問わないBL愛好家、あかいあとりと申します。
読み専歴は16年ほど、執筆歴は二次創作が2020年~で、一次創作は2022年~です。WEB小説も商業小説も両方好きでよく読みます。人生の半分以上をBL小説とともに過ごしてきたBL好きです。よろしくお願いします。
2.デビューの方法ってどんなものがあるの?
商業BL小説のデビューの方法は、大きく以下の2種類に分けられます。
以下、デビュー作=1冊目の商業書籍作品の意味で表記します。
2a. WEB小説の拾い上げ
ムーンライトノベルズ、アルファポリス、カクヨムといった小説投稿サイトのランキングから、読者人気の高い小説が出版社さんの目に留まり、書籍化するパターンです。肌感、ここ五年くらいでかなり増えてきました。
WEB発小説の書籍化に特化した角川の『ルビーコレクション』(2018年創立)、アルファポリスの『アンダルシュ』(2021年創立)をはじめとして、リブレ、幻冬舎コミックスからの書籍化もちらほら見かけます。
2b. 公募で賞を取る
各レーベルが設けている賞やコンテストに応募してデビューするパターンです。
リンクスロマンス→第39回リンクス新人大賞(2024/10/31〆切)
アルファポリス→第12回BL大賞(2024/10開催予定)
角川ルビー文庫 →第26回角川ルビー小説大賞(2025/3/31〆切)
ルビーコレクション→第1回ルビーファンタジーBL小説大賞(2024/10/21〆切)
キャラ文庫 →第3回キャラ文庫小説大賞(2025/1/13〆切)
ショコラ文庫 →第22回小説ショコラ新人賞(2025/5/31〆切)
シャレード文庫 →Charade新人小説賞(毎月月末〆切)
などがあります。
アルファポリスのBL小説大賞をはじめとして、近年は読者選考も込みのオープンなWEBコンテストも増えてきました。
3.毎年何人デビューしてるの? WEBと公募、どっちが多い?
2019年1月から2024年7月までの間で合計186人(公募発65人、WEB発121人)がデビューしています。
2020年の落ち込みはコロナ禍の影響でしょうか。
ここ5年の平均をとると、毎年30人程度デビューしているようです。近年のWEB発デビューは公募勢の倍以上。多いですね!
4.デビュー作のジャンルは?
小説雑誌がメジャーであったかつての時代ならばいざ知れず、近年はWEB発にせよコンテスト発にせよ、デビュー作はすでに完成した作品に加筆修正が入って書籍化、という例がほとんどではないでしょうか。
では実際のところ、どんなジャンルが書籍化しやすいんでしょう。
転生もの? 転移ファンタジー? オメガバース?
商業BL小説といえば現代ものが多いイメージがありますが、デビュー作に限って見ると実際どんな感じなのか、とても興味があります。
WEB発と公募発に分けまして、さっそく見ていきましょう!
4a. WEB発デビュー作:圧倒的に転生転移ファンタジー
寒色が現代もの、暖色がファンタジー(西洋・中華・和風すべて含む)です。オメガバースについても色分けしてあります。
……圧倒的ファンタジー!!
思っていたほどオメガバース作品の割合が高くない反面、やはり転生・転移ファンタジー作品の人気がすごいです。
現代日本で志半ばにして亡くなった人が、目を覚ましたら物語/ゲームの世界に生まれ変わっていた……!から始まる物語は、何度読んでも面白いですものね。BLでもそうでなくても、筆者も好きなジャンルです。
4b. 公募発デビュー作:やっぱり強いファンタジー
続いて公募発はどうでしょう。少しは現代比率が増えるでしょうか?
ファンタジーは公募でも強かった!
WEB発と比べると転生転移ものの割合は減るとはいえ、6割以上がファンタジー作品。ちょっと意外です。
5年分の集計でははっきりとしたことは言えないものの、デビュー人数が激減した2020年を境に、現代ものとファンタジーものの比率が入れ替わっているように見えます。一体コロナ禍に何があったのか、気になるところです。
以上、WEB発、公募発ともに、デビュー作は現代ものよりファンタジーものの割合が多いという結論になりました。とりわけ転移転生ファンタジーは、年々存在感を増しているようです。
5.どのレーベルがデビューしやすいの?
WEB小説の書籍化といえば、
①転移転生ものでは並ぶものなし『アンダルシュ』
②ラストまで絶対書籍化、安心と信頼の『ルビーコレクション』
③ムーンライトノベルズの有名作品をことごとくさらっていく『リブレ』
④もっと有名になってほしい推し作品もしっかり書籍化『幻冬舎コミックス』
が四天王というイメージがあります(あくまで個人の勝手な印象です)。
一方の商業BL小説は、キャラ文庫、ディアプラス文庫、ビーボーイノベルズ(リブレ)、角川ルビー文庫あたりが老舗で、新人賞経由で毎年ひとりくらいずつ新しい作家さんを送り出してる……なんてイメージを勝手に持っていますが、実際のところはどうなんでしょう?
気になることは調べるに限ります。
ということで、WEB発、公募発に分けて、さっそく見ていきましょう。
5a. WEB発デビューの二大巨塔
WEB発デビュー作のレーベルを年ごとに色分けしてみました。
青がアンダルシュ、オレンジがルビーコレクションです。
アンダルシュの勢いがすごい!
2022年以降、WEB発デビューの半数はアンダルシュ出身。次点でルビーコレクション、そして角川、リブレ、幻冬舎と続きます。おおむねイメージ通りでした。
アンダルシュはアルファポリス、ルビーコレクションはムーンライトノベルズからの拾い上げ書籍化をしています。BL小説のWEB発デビューを狙うなら、小説投稿サイトはアルファポリス≧ムーンライトノベルズ≫カクヨム、エブリスタ、fujossy他、の順でチャンスが多いのかもしれません。
余談ですが、検索機能で調べてみると、ムーンライトノベルズには毎年1500作品程度の完結BL小説長編が投稿されており、その中から12作品程度が毎年コンスタントに書籍化されているようです(電子書籍化は除く)。
確率にして約0.8%の書籍化率!
本にできる長さの長編の作品数で計算し、電子書籍化も含めた場合には、さらに確率は上がるでしょう。
もちろん、読者さんに好まれるジャンルや、流行りの受け攻め属性、人気の出やすいストーリー展開などの戦略要素もありますし、みんながみんな書籍化を望んで投稿しているわけではないので、完全な確率の話にはなり得ません。とはいえ、チョコボールで金のエンゼルが出る確率が約0.04%であることを思うと、0.8%というのはかなり当たりが多いように思えます。
120~130作に1作は書籍化されると思うと夢がありますね!
5b. 公募発デビューは手堅く幅広い
公募発デビューに関してもグラフを作ろうとしたんですが、レーベルが多すぎて意味のある図になりませんでした。
無骨で恐縮ですが、表をそのままご覧ください。
アンダルシュ、リブレ、角川ルビー文庫はほぼ毎年、ショコラ文庫やエクレア文庫、シャレード文庫もそれに続く頻度で新人作家さんを送り出しているようです。
特に角川ルビー文庫は、デビューした作家さんがその後も毎年継続的に同レーベルで作品を出し続けている例が多かったです。手厚いですね!
個人的には、ディアプラス文庫やキャラ文庫といった老舗レーベルから、ここ5年間デビューしている作家さんがいないというのが意外でした。受賞しても雑誌掲載はされど書籍化まではいかないのか、はたまた見えないところで編集者さんとの修行期間が数年あったりするのか……。興味は惹かれど、想像することしかできません。単なる筆者の集計ミスだったら許してください。
以上、レーベルに注目しての集計結果でした。
近年はWEBベースの新しいコンテストもどんどん増えてきていますし、カクヨムからのBL作品書籍化例も出てきました。今後どうなっていくか楽しみですね!
6. デビュー後も商業作品を出し続けてる人はどれくらいいるの?
いよいよ本記事の主題です!
デビューすること vs 作家として本を出し続けること、結局どっちが難しいの?
この質問に答えるために、
WEB発+公募発デビューの確率
商業デビュー後も商業小説を年1冊程度コンスタントに出し続けている作家さんの割合
を比べてみようと思います。
6a. デビューの確率
◇WEB発デビュー
上で少し触れましたが、過去五年間でムーンライトノベルズに投稿された完結小説7182作のうち56作、アルファポリスに投稿された長編小説7890作のうち82作品(うちコンテスト受賞作20作)が書籍化されています。
ムーンライトノベルズ、アルファポリス両方とも0.8%程度の書籍化率です。
◇公募発デビュー
応募総数と受賞者数がWEBで確認できるコンテストを参考にしてみます。
・第11回BL小説大賞:0.29%(受賞8作/応募総数2773作)
・第3回ビーボーイ創作BL大賞:0.35%(受賞3作/応募総数849作)
・第3回fujossy小説大賞:0.56%(受賞1作/応募総数177作)
平均すると0.4%程度の受賞率です。
6b. 3年継続率
1冊書籍化したからといって、必ずしも全員が作家を目指しているとは限りません。様々な理由から書くのをお休みする時期だってあるでしょう。その意味では、継続率という言葉を使うのは適当ではありませんが、本記事では分かりやすさのため、この単語を使わせていただきます。
3年継続率、5年継続率、10年継続率……
可能であればそれら全部の数字を見てみたいところではありますが、今回は2019年1月〜2024年7月までのデータを使って、
『2作目出版率(デビュー翌年以降に2作目を出したBL小説作家の割合)』と『3年継続率(デビューから3年経っても商業小説を出し続けているBL小説作家の割合)』
を見てみましょう。
まずは2作目発表率!
2作目の壁というのがあるというのは本当なのでしょうか?
WEB発作家の約30%、公募発作家の約60%が翌年以降に2作目を出版。このうち9割以上の人が、デビュー作と同じレーベルから2作目を出しています。
先の書籍化率1%未満の数字を見た後だと、かなり高い割合に思えてきます。
続いて3年継続率を見てみましょう!
3年目もWEB発作家、公募発作家はそれぞれ約20%、47%の人たちが作家業を継続しているという結果になりました。
まとめると、こんな感じです。
結論、2作目を出すよりデビューする方が難しそうです。
デビューするより出し続けることの方が大変と聞きますが、少なくとも3年目の段階ではそうでもなさそうという結論になりました。
もっと長いスパンで見てみないと何とも言えませんが、仮に年々3割程度の人が活動を休止するとすると、作家業の継続率が0.8%に近付くのは13年目くらい。10年継続率と比べてみたら、通説通りの結果が得られるかもしれないですね。
7.おわりに
長い記事を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
暇人の自由研究、いかがでしたか? 個人的には「ファンタジーがここまで強いのか!」だったり、「意外と書籍化率に夢があるなー!」だったり、発見が多くて楽しかったです。皆さんはどうだったでしょうか。
少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。
WEB発デビューが年々増えていること、公募発デビューと比べるとWEB書籍化は2作目出版率が低いことを見ると、新人賞で作家を見出して育てるというよりは、オーディション代わりのコンテストで、ニーズに合った作品を作品単位で拾い上げるということが、この先増えてくるのかもしれないな、なんて思います。
長く続いてきたBL小説雑誌が次々と休刊し、WEBベースのオープンな新人賞・コンテストが開催されることも増えてきました。電子書籍の台頭、AIの進化など、変化が目まぐるしい時代ですが、商業BL小説業界もまた、時代の過渡期にあるのかもしれません。一BL愛好家として、これからも前のめりでBL業界を見つめていきたいと思います。
さしあたっては、来たる2024/7/19(金)に筆者のはじめての商業BL書籍が発売しますので、ぜひぜひよろしくお願いします!
それでは宣伝失礼しました。
また次の記事でお会いしましょう! 皆さまどうぞお元気で。