くす玉の残骸。
私はね、この世で一番悲しいものを知っているのよ。
例えばね、誰かの誕生日会。
天井に金ぴかのくす玉がつるされてるの。そこには、和紙でできた柔らかい花とか、ウサギの人形なんかがついていてね。皆がそれを期待にあふれた眼差しで、今か今かと見つめているの。
そして、パカッっとくす玉が割れて、皆が「わぁ」と歓声を上げてね。そしたらね、瞬間辺りは、色とりどりの小さな風船と、ギラギラと光沢のある色紙たちが、中から溢れだして、とても綺麗な紙吹雪になってね、辺りに降り積もるのよ。
それはね、瞬きをしたら終わってしまうほど一瞬の出来事でね、まるで夢のような景色なのよ。その後は拍手がおきて、お調子者の誰かが口笛を吹いたりなんかするの。
お祝いをされている男の子は「ありがとう、ありがとう」と言いながら照れ笑いをしてね、司会進行の人が準備しておいた楽しい楽しいビンゴ大会を始めるのよ。お酒を飲んだりしながらね。きっと男の子は「こんな幸せな日、一生忘れないよ」なんて言っちゃったりするんだわ。
私はね、その光景を想像しただけでね。
私はなんだか、ほんの少しだけ悲しくなるの。
くす玉が可愛そうなんだもの。
だって割れた瞬間から、もう、誰も美しかったくす玉の残骸なんて見やしないんだから。
私はね、最近この事実に気づいたのだけれど、もうだめね。足が悪くて、くす玉の残骸をかき集めて、抱いてあげることもできないんだもの。
あぁ、悲しいわね。あぁ。
そう言っておばあちゃんは、乾燥しきったカラカラのほっぺを濡らして、また眠ってしまった。
私はすべすべとしたおばあちゃんの手を握って、その温かさにホッと安心した後、彼女の悲しくなるほどに優しい心の事を思って、少しだけ胸を痛めるのであった。
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