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め
2017年7月5日 16:59
車は暗闇の前で震えながら停まった。「ついたよ」シフトレバーをパーキングに押し込みながら言うと、助手席で眠っていたユリは目をこすって短く息を吐き出した。たぶん笑ったのだと思う。暗くてよく見えなかった。車内のライトをつけると彼女は片目をつぶって眉を寄せた。「まぶしい」手足を伸ばしながら言う彼女からは、俺と同じシャンプーの匂いがする。おとこ物の、清涼感の強いその匂いでさえ、ユリが纏う
2016年10月24日 10:13
触れれば簡単に砕けそうな硝子のピアス。 細かい曲線が連なった金の指輪。 ぐにゃりと曲がる薄いバングル。 どれもほんの少しの不注意で壊れてしまいそうなものばかりで、でもカエデさんの周りはそういったもので溢れている。 「わざと身につけて緊張感を持って生きなきゃ、私はダメになるんだと思う」 カエデさんが初めて俺の家にやってきたとき、彼女はひどく不安そうな顔をしてそう言った。俺より年
2015年10月30日 19:26
雪原にほんの一滴、ブドウのジュースをこぼした時のようなはかない淡い紫。その色をミサキはこっそり持っている。きっと誰にも見せてない、でも私は知っている。だって私がつけたんだもの、あの華奢な左の手首に。 「先輩って、かっこいいよね」ミサキがそう言うのと、私がカメラのシャッターを切ったのはほぼ同時だった。 「え?先輩??」 わざと聞き返す。先輩と呼ばれる人物にはあらかた予想がついていた。