しあわせのレシピ
はじめに
この作品は、Twitter企画「コランダ地方で輝く君へ」の交流作品です。
不都合な部分は、パラレル扱いとしてください。
拙宅
・天気雨
お借りした流れはこちら
お借りした方:レスちゃん
※お渡ししたメモは、自由に取り扱っていただいてかまいません。
・素敵な終わり方
お借りした方:レナトゥスさん
天気雨
お日さまが出ているのに、空から雨粒が降ってくる。
そんな不思議な天気の中で、メテオは一人の少年に出会った。
ケーシィがモチーフのレインコート、目はゴーグルで覆われていて、よく見えない。
「はじめまして、おにいさん。石拾いですか?」
「うん…かまどを作るのに必要なんだって」
嘘ではないけど、本当はねがいのかたまりだって探しているのに。
(終末を迎えるために必要なものを集めている、なんて言うわけにもいかないよな)
言う必要も、ないんだし。
プリンのコメットは、レインコートの少年とメテオを見比べながらそう思った。
「キミ、拠点は見つけられた?よかったらボクが案内するよ」
マシュマロもあるよと、人好きのする笑顔で、メテオはレインコートの少年に手を差し伸べた。
「ボクの名前はメテオ。キミの名前を聞いても良いかい?」
「レイニーといいます。僕のこと、レイって呼んでくれますか?」
「レイ?うん、わかったよ」
素敵な名前だねと、メテオは彼の名前を褒める。
その間もずっと、雨が降っていた。
「晴れているのに雨なんて、不思議な天気だよね。冷えたりしていないかい?」
拠点にはタオルやブランケットがあるから、必要なら借りるといいよ。
メテオがそう言うと、レイニーはふふっと微笑した。
「ありがとうございます。あなた、良い人ですね。でも、大丈夫です。僕は雨の子ですから」
拠点に到着すると、空は晴れて虹の橋がかかっていた。
「コムギお姉さん、ただいまぁ」
「おかえり。雨に濡れなかったか?」
心配するコムギに、メテオは首を横に振る。
「このくらい平気さ。それでね、お友だちを連れてきたの」
レイニーはコムギを見上げ、ペコリとお辞儀をした。
「ボクはこれから作業だから、また後で会おう。美味しいピザを作るから、楽しみにしててね」
***
しあわせのレシピ
決められた時間になると、戦いに出ていた人たちが森から戻ってくる。
そして、調査団全員で食事を摂る。
みんなが美味しそうにごはんを食べる様子を見るのが、メテオは好きだった。
いつもみたいに、食事をしている人たちを見ていると、ピザの乗ったプレートをじっと見つめている少女がいた。
「もしかして、食欲がないのかしら…?それとも口に合わない?」
少女に近付き、メテオが少し不安そうに話しかけた。
「ち、違うの…ちゃんと、美味しいから大丈夫。…どうやって作ったのか、少し気になっただけ…」
少女の言葉を聞いて、メテオの夕焼け空のような瞳が輝いた。
「ちょっと、待っていてくれる?」
メテオは急いで調理場まで走って、しばらくして少女の元へと戻った。
「はい。えっと、アナタのお名前は?」
メテオは少女に、何かメモのようなものを手渡しながら、彼女の名前を尋ねた。
「わたし…レス…この紙は何?」
メテオの問いに答えつつ、レスはメテオが渡したものが何なのかを問うた。
「ボク、メテオ。調理場でお手伝いをしているの。それは、このキャンプ場でボクたちが作った料理のレシピさ」
メテオたち調理班は、このキャンプで様々な料理を作っていた。
ある日の朝食には、ふわふわのオムレツ、ある日の夕飯にはスパイスの効いたカレー。
また別の日の夕飯は、とろとろのチーズフォンデュ。
おやつにチャンクピザ、おつまみにプルコギを乗せたピザも。
それらのレシピを、出来る限りメモに書き留めてきたらしい。
「アナタも、レシピがあれば作れると思ったんだ」
簡単なピザ生地の作り方は、コムギに聞いたらしい。
「良かったら作って。じゃあね」
手を振りながら、メテオは急いでレスから離れた。
これ以上、食事の邪魔にならないように。
***
素敵な終わり方
『何で、あんなことしたんだ?』
レスにレシピを渡したメテオにそう聞きたくて、プリンのコメットが「ぷりゅ」と鳴くと、メテオはそれに気付いたのか、笑顔でコメットの方を見ながら囁く。
「みんなで良い終末を迎えるなら、美味しいものをたくさん食べて、幸せにならなくちゃ。さっきの、レスって人もさ」
おいしいごはんを食べて、沢山笑って。
そしてそのまま、幸せなまま世界が終わったら素敵だ。
その時、パキンッと小枝が折れるような音がメテオの耳に届いた。
誰かが近付いてくる気配がして、コメットは周囲を警戒する。
「ラグナログの同胞よ」
「だれ?」
真っ黒なローブに身を包み、顔はフードを深く被っているせいで全く見えない。
声も機械音で、性別もわからない。
ローブの人物のそばでは、真夜中の姿をした色違いのルガルガンが、メテオたちを威嚇している。
「レナトゥスとでも呼んでくれ。…突然だが、教えてほしい。君にとって『終末』とは何かを」
レナトゥスという名前は、ニーベルングから流れる放送で知っていた。
ラグナログのボスだと、確かそう言っていた気がする。
メテオは大きく息を吸い込み、呼吸を整えた後で答えた。
「ボクにとって終末は、目指すべきゴールさ。パパとママは、たどり着けなかった…でもボクは、そのゴールにたどり着くんだ。それが夢なの」
誰かいなくなって悲しいとか、寂しいとか。
ゴールに着けば、全部おしまい。
ずっとそういう風に、教えられてきた。
「ではラグナログは、救済か破滅か?」
「もちろん、救済だよ」
透き通った瞳で、メテオがレナトゥスを見つめる。
「それが君の持つ解か…」
『…!メテオ!!』
コメットが動こうとした瞬間、赤い光がメテオとコメットの目に飛び込んできた。
「今、誰と話していたんだっけ…」
レナトゥスの姿は、既にそこには無かった。
呆然と立ち尽くすメテオの姿を、セレビィの像が見つめていた。