かくれんぼをしようよ
はじめに
この作品は、Twitter企画「コランダ地方で輝く君へ」の交流作品です。
不都合な部分は、パラレル扱いとしてください。
こちらのネタを少々お借りしています。
お借りした方
ハウンドさん・ウインディくん
ベアトリスさん・エドガーさん
ソルシエールさんのニャスパーくん
カキョウさん
かくれんぼをしようよ
『楽しいか、ポーチ?』
『うっ』
大きな大きなウインディに、ピチューのポーチは沢山の花をつけた。
きょうは、お花のお祭りだもん。
そう言いたげな顔をして、ポーチは花を手に取る。
困惑しながらも、ウインディはポーチを止めることはしなかった。
一緒に過ごすうちに、ウインディはすっかりポーチの保護者のような存在になっていた。多少のいたずらは許してしまう。
ポーチの様子を見た街の子どもたちも、ウインディの柔らかな毛に花をつけてゆく。
『可愛くなっちゃったね』
花だらけになったウインディを見て、ラプラスのキャスケットが笑った。
ウインディは静かに、目を閉じていた。
花をつけることに夢中だったポーチの耳に、明るい声がとどく。
『かくれんぼする子は、この杖に集まれ~!』
『たやっ』
ポーチは小さな足を動かして、魔法使いのようなステッキを持ったニャスパーに近づいた。
最近色々な遊びを覚えたポーチは、みんなと一緒に遊びたいらしい。
「ポーチ?」
ピチューのトレーナーであるハートは、自分のピチューが他のポケモンと仲良く遊ぼうとしているのに気付いた。
けれどハートは、ポーチを一匹だけで行動させるのは少しだけ心配だった。
そんな時、オレンジ色の大きな体が、ハートのそばで動いた。ウインディだ。
「ポーチのそばにいてくれる?」
ハートがウインディに問うと、ウインディは一瞬ちらりとハートの方に目を向けて、その後すぐにポーチのそばへ駈けていった。
「ごめんね、ハウンドさん。ウインディにポーチのこと頼んでしまって」
あの子は本当に、ウインディが好きだから。
ハートが、ウインディのトレーナーのハウンドにそう言うと、ハウンドはただ「問題ない」と答えるだけだった。
『一緒にかくれんぼ、する?』
ニャスパーが可愛らしく首を傾げながら、ウインディに聞いた。
『たやっ、たやっ』
ポーチは『一緒にやろう』と騒ぐ。
小さな二匹の熱視線を受けたウインディの口から、飛び出したのは意外な言葉。
『…かくれんぼって、何すればいいんだ?』
ウインディの言葉を聞いて、ニャスパーは『かくれんぼ知らないの、珍しいね』と言った後、ウインディにかくれんぼについて説明をした。
『隠れる子と探す子に分かれてね、探す子は、街中に隠れてる子たちを探すんだよ!』
『狩りのようなものか』
かくれんぼと狩りは少し違うのだが、ウインディは『何となくわかった』と頷いた。
ポーチとウインディは、隠れているポケモンたちを探す側となった。
『ポーチ』
『あぷっ』
ウインディがポーチを呼ぶと、ポーチはウインディの背中目掛けてぴょんとジャンプした。
ポーチが背中に乗ったことを確認したウインディは、彼女を落とさないように気をつけながら移動を始めた。
***
君は走って、僕は泳いで
『ポーチのこと、ウインディに任せて良かったのかなぁ』
ジュースを飲みながら呟く、ポーチのお姉さんのような存在であるチルタリスのトート。
『いいんじゃない?ポーチはウインディと一緒にいたいみたいだったし』
ラプラスのキャスケットは、心配そうなトートに笑って見せた。
『それに、ポーチと遊ぶのはきっとウインディにとっても良いことだよ。だから、これで良いんだ』
トートはキャスケットの言葉の意味がよくわからず、不思議そうな顔をした。
『ウインディって……厳しい環境の中を、今まで駆け抜けて来たんじゃないかって思うんだよね』
キャスケットは、落ち着いた声でそう言った。
ねぇウインディ。僕はね、ずっと厳しい野生の世界を今まで泳いできた。
だから、君が厳しい世界を走って来たんだろうってこと、ちょっとだけ感じ取ってしまうの。
野生とは少し違う、厳しさかもしれないけれど。
『だからかな、遊びとか全然知らないっぽいし……少しはそういうの、知ってもいいでしょ』
『そうかぁ……ウインディもいっぱい楽しめると良いよね!』
そうだねぇと相槌を打ってから、キャスケットはジュースを飲み干した。
蜂蜜と果物の、優しい味がするジュースだった。
***
小さなひまわり
「このジュース美味しいね」
「だってうちの蜂蜜使ってるんだもん!」
ジュースを飲みながら、ハートは屋台の店主である、エドガー・ベアトリス兄妹と話をしていた。
「エディさん、飴細工ってお願い出来る?」
「ん?ああ、何かリクエストがある?」
エドガーの近くに行くと、甘い飴の香りが鼻を擽った。
「じゃあ、グラシデアの花を」
「オッケー」
軽く返事をしてから、エドガーは器用に飴でグラシデアの花を作った。
あまりにも鮮やかな手つきだったので、ハートは「まるで魔法みたいね」と呟いた。
「お待たせ!」
飴で出来たグラシデアの花束を、ハートは大切そうに受け取った。
「どうもありがとう。これ、ジュースと飴のお代ね。それからこれは、私から」
ハートがエドガーとベアトリスに差し出したのは、二輪のミニひまわりだった。
今日は、いつもお世話になっている二人に、感謝の花を贈りたいと思っていた。
「きゃー!ハティ、ありがとう!」
「綺麗だな!ありがとう」
「それね、さっきお店で見つけた時、二人みたいだなーって思って買ったの」
お日さまに負けないくらい元気よく咲いている小さなひまわりは、二人にそっくりだったので。
ハートがそう伝えたら、エドガーもベアトリスも、少しくすぐったそうに笑った。
***
飴の花に感謝を込めて
「あれ?カーくん、ハウンドさんは?」
飴細工を作ってもらい戻ってみれば、先程まで確かにいたハウンドが消えている。
ハートは、椅子に座って飲み物を飲んでいるカキョウに聞いてみた。
「さっきまでそこにいたんだけどなぁ」
ハウンドがいなくなった瞬間は、カキョウも見ていなかった。
「んー、じゃあハウンドさんには戻ったら渡すとして…はい。カーくん、あげる」
エドガーに作ってもらった、飴細工の花束から一本抜き取りカキョウに手渡す。
「これは…飴か?」
「さっき作ってもらったの!面白いでしょう?いつもありがとうね」
飴は、食べたら無くなってしまう。
そんなに長くは楽しめない。
けれど花だって、いつか枯れてしまうもの。
プリザーブドフラワーにしてもドライフラワーにしても、それは終わる瞬間を少し先伸ばしにするだけ。
永遠なんて、何処にも有りはしない。
だったら、飴でも花でもどちらでも良いわ。感謝を伝えられるのなら。
「カキョウ、ハート」
「わっ、びっくりした!おかえりなさい、ハウンドさん」
気付くと、ハウンドが焼きそばの入ったパックを三つ手に持って立っていた。
「はい、ハウンドさんにも飴の花をあげるわね。いつもありがとう」
飴の花を手渡すと、ハウンドはそれをじっと見つめた。
「焼きそばの後の、おやつにでもしてね」
狐面の奥で、ハウンドがどんなことを考えているのか、ハートにはわからない。
ただ、飴の花に込めた、日頃の感謝の気持ちが伝わっていると良いと思った。