消えないで
コランダ交流
時間軸はドキスト夏祭りです。
お借りした方
・エーテルくん
・クラードさん
・ドティスさん
・テイさん
お借りした流れ
消えないで
浴衣に袖を通して、夜の祭りの会場に一人で繰り出した。
プリンのコメットもメテノのハレーも、ガラルポニータのビエラもみんなボールの中で。
沢山の人がいて賑やかなのに、どうしてだか、音が遠い気がした。
最近のボクは、よく夢をみる。
眠っている間にみる夢の中、パパやママが何かを言っている。ボクはそれを聞き取れないで、そのまま目が覚める。
そんな夢ばかり見て、それである日異変が起きた。
「……パパとママの声、どんな感じだっけ」
ボクは、パパとママの声を思い出せなくなっていた。
このまま、パパとママの全てが、ボクの中から全部消えてしまう気がして焦っている。
消えないで、消えないで。お願いだから、まだ。世界が終わるまでは、覚えていたいんだ。
カランカランと下駄を鳴らして、ただ一人歩いて行く。そしたら、知っている声が聞こえた。
「メテオ!」
「エーテル?」
この声は、忘れていない。良かった。
あの夏の日、エーテルが眠り続けた日。呼んでも目を開けてくれなくて、お別れを覚悟しないといけないのかと、心がざわついた。
もし、エーテルとお別れしたら、ボクはエーテルの声も忘れてしまうの?
「僕はクラードさんと一緒にきてるんだ。ねえメテオ。よかったら一緒にお祭りをまわらない?」
「え……?」
「せっかく会えたんだ。大好きな友達と、お祭りを楽しみたいな」
クラードさんも、きっといいと言うから。
エーテルが笑顔でそう言うから、ボクは頷いた。
(まだ、大丈夫)
自分にそう言い聞かせて、エーテルと手を繋いでクラードさんに挨拶しに行った。
***
「焼きそばって、美味しいんだね」
「うん。僕もさっき、夢中で食べちゃった」
エーテルがおすすめしてくれた焼きそばを、フォークを使って口へ運ぶ。美味しかったので、ボールに入れていた三匹にも食べさせると、全員ソース味を気に入ったみたいだった。
「クラードさんのお友達は、素敵なお店をやっているね」
背の高いクラードさんを見上げて、そう言ったら、クラードさんは笑顔を返してくれた。
「普段はきのみとか、グッズを売る店やってるから、焼きそばは売ってないんだけどな!」
焼きそば屋さんのテイさん、普段は焼きそば売っていないみたい。残念……この味をずっと覚えていられるように、時々買いに行きたかったのに。
「ティスは、普段は医者の仕事したりしてるし……」
「ドティスさんは、お医者さんなの?」
「ああ」
テイさんの奥さん、お医者さんなんだ。
お医者さんなら、知っているのかな……声を忘れない方法とか。
「ごちそうさまでした」
少し気になったけれど、結局それは聞かないで屋台を後にした。
口の中に残ったソースの味が、少しずつ消えていく。それが何だか悲しい。
消えるの、忘れるの、嫌だな。
「あっ、あっちで花火配ってるって!エーテル、クラードさん、行ってみようよ!」
エーテルの手を引いて、花火を受け取りに向かった。嫌な気持ちを、誤魔化したくて。
ふと空を見上げると、浮かぶ提灯のあかりが、ゆらゆら揺れて暈けた。