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夜のカモミールティー

はじめに

この作品は、Twitter企画「コランダ地方で輝く君へ」の交流作品です。

こちらの作品の流れをお借りしております。
不都合な部分はパラレル扱いとしてください。

お借りした方
スイカちゃん
カキョウさん(ほんの少し)

カンザシさん(お名前のみ)
ジンライさん(お名前のみ)

拙宅
ハート


夜のカモミールティー


ハートが扉をノックすると、カチャリと扉が開く。
一人の少女が、少ししょげた様子で顔を覗かせた。
本日ハートとチームを組んだ、スイカである。
彼女がこんな表情をしているのには、わけがあった。


巣穴の調査を終えその帰り、海に黒潮が発生した。
その時、黒潮に巻き込まれたシェルダーを保護しようと、彼女は海に飛び込んだ。

そのシェルダーは、スイカの手持ちのポケモンではなく、一時的に保護されたポケモン。
入るモンスターボールなど無く、結果黒潮に巻き込まれる事となってしまった。
一時的にでも、モンスターボールに入れて保護しておけば良かったのだが、それを今さら後悔しても、どうしようもない。

最終的に、シェルダーはヤドキングに変化して、スイカをサイコキネシスで助けた後、海に帰って行った。

幸いスイカに怪我は無かったものの、一歩間違えれば大惨事。
それを、わかっているのだろう。
彼女はうつむき、表情を曇らせた。

「ハートさん…ご心配おかけしてすみません」
開口一番、謝罪の言葉を口にするスイカに、ハートは心配そうな声で問う。

「体、大丈夫?」
もしかしたら、痛みが出たりしているのではと不安だった。
「ええ、それは大丈夫です」
立ち話もなんですからと、スイカはハートを部屋に招き入れた。


部屋に入ると、少し落ち込んだ様子のスイカのポケモンたちがいた。
自分のトレーナーが、命の危機にさらされたのだから、無理もない。

ハートは少しかがんで、一匹ずつポケモンたちを撫でた。
「怖かったね。もう大丈夫だからね」
スイカのポケモンたちを撫で終えると、ハートは立ちあがり、彼女に向かって提案する。

「お茶でも飲まない?わたしね、ハーブティー持ってきたの」

***

こぽこぽと、ポットからティーカップへ、カモミールティーが注がれる。
カモミール特有の、りんごのような甘い香りが、部屋にふわりと漂った。

「今日は疲れたでしょう?大変だったものね」
カモミールティーには、不安や緊張を解き、気持ちを落ち着ける作用がある。
『少しでもスイカの心が穏やかになれば』とハートは思いながら、お茶を用意した。

椅子に腰掛け、スイカがカモミールティーを口にするのを見て、ハートは少しほっとしながらお茶を啜った。

二人でお茶を飲みながら、今日の出来事を振り返る。

「スイカちゃん、あの時…シェルダーを救うことで頭いっぱいだった?」

黒潮が、発生した時。
スイカは、その時の事を思い出したのか、少し表情を歪めた。

「咄嗟に体が動いて……気付いたら海に飛び込んでました。すみません……ジムリーダーのカンザシさんも、四天王のジンライさんも…そして、ハートさん。あなたもそばにいたのに…勝手に行動してしまって…」
ぎゅっと、自分の服の裾を握りしめながら、スイカは苦しそうに呟く。

「スイカちゃん」
ハートは、スイカの名前を呼んだ。
スイカはハッとして、それから苦笑した。
「私、これじゃレンジャーなんて、まだまだ…程遠いですよね…」

シェルダーに安心してほしかった。
頼れる強い人間のそばなら、安心するのかなと思った。
だから、がむしゃらに頑張って。

けれど、安心させるどころか、シェルダーに水に慣れることを強要して、辛い思いをさせてしまったのではないか。
苦悩するスイカの言葉を聞いて、ハートは首を横に振った。

「シェルダーは、スイカちゃんに出会えて良かったって、思ってるはずよ…」
ハートがそう言っても、スイカの表情は晴れない。

スイカがレンジャーになるという夢を抱いているというのをハートが知ったのは、チームを組んですぐのこと。
彼女が、教えてくれた。
ゴーグルの奥に見えた、夢を語るスイカの瞳を、ハートは綺麗だと思った。
それなのに。

(夢、諦めちゃうのかな)

最悪の結末がハートの頭をよぎった時、ポケットに入れていたヒールボールが揺れた。

***

ポンッとボールが開いて、中からチルタリスのトートが飛び出した。

トートはスイカが海に飛び込んだ時、彼女を助ける為に必死に羽ばたき応援を呼んだ。
その後から、ずっとスイカのことを心配している様子だった。

「トート…スイカちゃん。この子、スイカちゃんのこと、とても心配してたの」
トートのふんわりとした羽毛を撫でながら、ハートが言った。
「優しい子なんですね…ありがとう…そして、ごめんなさい…」

感謝と謝罪の言葉を口にするスイカを、トートは真っ直ぐに見つめた。
そして、ふわふわの手羽で彼女を包み込んだ。

「わっ、えっ?」
「トートには、スイカちゃんの心が伝わったみたい」
ごめんなさいと、ありがとうって気持ちが。

「きっと、シェルダーも同じ。スイカちゃんの気持ちは、あの子に届いたんだと思う」
だから、変化までしてスイカちゃんを助けたんだわ。
ハートは少し微笑んで、スイカの方を見た。

「スイカちゃん。今回のあなたの行動はとても危険で、下手をすれば命を落としていたかもしれない…」
「…はい」
「レンジャーになるのなら、いつでも冷静でなければならない…。それが、これからのスイカちゃんの課題なんでしょうね。まだまだ、先は長いのかもしれないわ。でも…」

でもね、スイカちゃん。
あなたはきっと、今日の失敗も力に変えていける。
そしていつか、きらきらと輝くレンジャーになれるって、わたしは信じているの。

大丈夫よ、ポケモンと心を通じ合わせることが出来たあなたなら。

***

10日間の長い長い調査も無事に終わり、本日でチームは解散だ。
鞄に荷物をまとめて、ハートは船から下りた。
青い空に青い海、そして爽やかな朝の風が、ハートの気分を爽やかにした。

「ハートさん!」
「おはよう、スイカちゃん。10日間の調査、お疲れ様」
「それは、ハートさんもですよ」

あら、そうだったわね。
口元に手を当てて、くすくす笑うハートを見て、スイカもつられて笑った。

「これから、ダグシティにお帰りですか?」
「うん。明日からはお店に立つから、今日は色々準備をしなきゃ。スイカちゃん、今度ダグシティに来てね。いつだって歓迎するわ」

ハートからの誘いの言葉に、スイカは「はい!」と力強く答えた。
それを聞いて、ハートは嬉しそうな表情を見せた。

「良い目をしてるわね」

情熱に燃えている、希望に満ちている目。
その情熱、決して無くさないで。

「それじゃ、さようなら。また会いましょ」

ハートはスイカに軽くハグをして、パッと離れた。
そして、踊るように軽やかな足取りで歩き出す。

「ハートさん!また会う日までお元気で!」

振り返って、スイカに向かってひらひらと手を振り、また前を向く。
すると、よく知ってる大きな背中がハートの目に飛び込んできた。

「カーくん。今からダグシティに帰るの?」
「ん?おぅ、もう調査終わったしな」
「だったら一緒に帰ろ」

てくてくと、二人同じスピードで歩きながら、これからのことを話した。

「明日から、またお店のことしなきゃ」
「帰ったら書類、やらないと駄目かな」
「ダメでしょうねぇ」

明日からまた、夢を追いかける人を応援する日常に戻る。
フリングホルニで出会えた皆さんの夢が、どうか叶いますように。

ポニーテールを揺らしながら、ハートはノアトゥンシティを後にした。

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