《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第18話
四月一日(月)
全くもって煮え切らない試合だった。
ピンチはチャンス。その逆も然りでチャンスの時間帯にリスクを負って攻め切ることができなければ、カウンターでピンチを迎える。チャンスはピンチだ。
だが昨日の試合は、ピンチはピンチ。どのみちピンチ。という試合内容だった。リスク覚悟で討って出る勇者の姿に憧れるが、実際ピッチに立つと、これがまた難しい。
現に、「ぱっと見で売約済みの区画っぽく整地工事」と「露天風呂新設工事」の二択に揺れている。今は見積の段階で、玉石の量は想定でしかない。なので二つの工事の共通部分である玉石と土を分ける作業をとりあえずお願いした。
配管後徐々にぬかるみがなくなった区画の上で、ガタガタガタガタと小さなショベルカーの爪の部分が小刻みに揺れている。10cm弱程度の四角い穴が格子状に空いた爪で、地面をすくっては揺らすことで、土は穴を抜けて下に落ち、玉石が残る。トコトコとキャタピラを動かして、区画の真ん中に移動し、玉石を今はおとなしくなったぬるま湯の水面に慎重に落とす。この作業を延々とジンベエザメは一人で繰り返している。大きい玉石が見つかれば、ショベルカーから飛び降りて、あった、あった。と、嬉しそうに抱え、磨きながら区画の入り口付近に並べていく。
「この暫定作業は、明日のうちには終わるかな。」と、十七時のチャイムと共にショベルカーから降りて、母屋に帰るジンベエザメが教えてくれた。
その後ろ姿はハーフタイムでドレッシングルームに向かう選手のように勇ましく、
「後半は引いて守るか、討って出るか、監督であるあなたが決めるんだぞ。」
と、言われたような気がした。