《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第30話
四月十四日(日)
シロクマはじゃんけんで勝ったのに悔しそうにしている。
「なんだ、なんだ!怖気付いてんのか!」
昨日のお風呂で、すっかりシロクマとモグラは仲良くなった。タリスカーが、ドランブイが、と酒の話で盛り上がっていた。なので、モグラは調子に乗って、シロクマを茶化している。
今は、私のためにサウナを買おうと個室サウナ専門店に来たが、やっぱりそのぐらいかかるよなというぐらいの金額で、私以外による漢気ジャンケンがはじまった。
「なんだと! 俺には娘がいるんだー! 守るべき家庭がなー!」
取っ組み合いが始まった。これじゃ、格闘家と芸人のお決まりのくだりだ。もちろんモグラが芸人役である。
今までは、御殿場のGPOつまり御殿場プレミアムアウトレットに行っていたが、最近近くにTOつまりジ・アウトレットができたため、みんなで来た。個室サウナ専門店はその中に入っているお店である。
「おい二人ともやめろよ!」と言って、ビーバーは仲裁に入るフリをしながら、隠れてモグラを殴っている。大物芸人役だ。
そんな寸劇をしながら、ひと通り施設内を見てまわったが、シロクマとビーバーは学生時代に毎月のように通った思い出があるからか、
「やっぱり俺らはGPOだ。」と、再認識して帰っていった。
二人を見送ったあと、モグラが言う。
「ありがとう。ネットワークっていうのは、ハブ構造じゃなくて、多点的に網状であるからいい。」と、言っている。
また難しい表現をする。友達の友達は友達ってことか。とついていく。
「いや。アウトレット近くの国道の交差点がアンダーパスになっていて、渋滞が解消されたことがわかったし、その近くには新東名の厚木南ICができていた。三年後には新東名が全線開通するし、交通事情がまた、変わる。」
と。続けて、
「ローマの道は全てに通ず。ってことだ。」と、まとめた。
また間違えている。全ての道は〜だ。
「さらに今度は、近くに新幹線の新駅もできる。あそこら辺はまた様変わりするはずだ。その前に見れてよかった。ありがとう。」と、言って帰っていった。
私はこれから民泊を始める。そのことを組の人に挨拶に回らないといけない。自分が結婚した際に、祖父の案内というか強制で、組の人全員に挨拶に行ったから、なんとなく覚えている。
このイグアナ地区の古いしきたりだ。