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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第8話

三月二十二日(金)

 モグラと街のスナックに行った。正確には、モグラからカウンター越しに接客を受けた。バーの雇われ店長という肩書きが、モグラがいろいろやっているうちの一つらしい。

「自立とは依存先が複数あること。だから俺はいろいろやっている。スラッシャーって奴だ。」

 肩書きを複数持つ場合、肩書きの合間にスラッシュを入れる。それがたくさんあればスラッシャーらしい。

 バーと言っても、店内は絶対にモグラではなく他の従業員がしたのであろう可愛らしいデコレーションがなされていて、バーテンダーというのは形だけ、ほとんど接客するのは私服の若い女性達だ。カピバラ市にこんな若い子たちがいるお店があったのか。それなりに賑わっている。

「ガールズバーといってな。接待を伴わない酒を提供するところ。って体だから、女の子がわいきゃい喋ってくれててもキャバクラのような風営法ふうえいほうの規制はない。こんな感じで今回のイグアナ地区ぬるま湯事件もどこか逃げ道があるはずだぜ。事件なんだからいっそのこと焚き付けて温泉にでもしちまえや。それから小説でも書くといい。殺しもありのサスペンス劇場だ!」

 何か光が差したようだが、結局どうすればいいんだ。

 モグラは地盤の調査を私に勧めたことを詫びる気もないようだし、もう、他の人と喋りたい。変わってほしいとお願いしたら、
「指名はできない。」
と、言われた。

「お客さん。ここはキャバクラじゃないんでね。守るもんは守ってもらわないと。今日はとことん考えようぜ。」

 余談だが、私の知っているモグラの他の肩書きは、活動家/余興屋/当選しない議員さん だ。

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