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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第41話

四月二十五日(木)

 風のとても強い日だった。そのせいなのかカーブミラーが路上に倒れていた。

「止めてくれ。」と助手席のジンベエザメは言う。
 カーブミラーの前で軽トラを停車させると、ジンベエザメはすぐさま降りて路肩にカーブミラーを寄せていた。

 ここは、母屋の前の道を緩く下った先の道路で、今は早速、この一ヶ月半手付かずになっていた耕作地の草刈りを手伝ってもらった帰りだ。草は思ったよりも生えておらず、早めの撤収となった。
 対向車線にはみ出して通り過ぎてもよかったが、ジンベエザメは土木技術者としての血が騒ぐのだろう。かなり重たそうだがミラー部分を持ち上げ、器用に根本を軸にして、ぐるっと円を描くように路肩に持っていった。

「カーブミラーや標識なんかのポールの根本には水が溜まりやすいんだ。だからその水が酸性だったりするとすぐに錆びちまう。それを防ぐために基礎の表面には水が流れるように勾配がついているんだ。たまにダメなやつもあるがな。」

 ジンベエザメは車に乗るとあれこれよく喋ってくれる。

「あ、酸性で思い出したが、お風呂のアルカリ性の水は、農業用水路を流れている間に、空気中の二酸化炭素に触れれば中和されちまう。」

 重曹が薄く混ざったような無害の水になると教えてくれた。そういえば中和装置も炭酸ガスを混ぜていた。

「ここは宅地が多いのに下水は通ってなさそうだ。浄化槽の水が悪さでもしてるんだろう。アルカリ性なら錆びないし、中性なら気にすることはない。
 あとは、中性に近いので錆びるって言ったら海水や海風なんかの塩害だよな。トキさんのよくいくサッカー場もメンテナンスが大変そうだ。昔の鉄筋コンクリートには、もっと長く持ってくれって、むしろアルカリ成分を染み込ませたりもするんだ。」

 確かにスタジアムは、移転するのかしないのか、一時期ニュースにもなっていたが、とりあえず管理する平塚市の計画としては改築と補修を進めていくらしい。

 露天風呂も何十年先の姿を見越さないといけない。えいやーで作ってしまった。ほんとにえいやーだった。

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