見出し画像

milet live stairs

 2024年10月10日、stairsというmiletのライブに行った。場所は東京ガーデンシアター。東京では二日目の日程として組まれていた。りんかい線の国際展示場駅前をおりてすぐの場所にあり、家からも30分もあれば行けるそこは、昔の自分が近未来感という言葉で想起するような雰囲気をわずかに感じられる駅だ。

2024年3月に横浜アリーナであったmiletの5周年記念となったGREEN LIGHTSではmiletの雰囲気がいつもと明らかに違って、MCで「今回だけは自分のために歌いたい」というようなことを言っていた。いつからかmiletが新しくリリースする曲はOrdinary daysなど前向きなものが多くなり、彼女のいう"みんな"のために歌っていた。逆に今は自分のために歌うことができなくなっていてこのライブだけはそれをしたいと、そんなような話だった。GREEN LIGHTSは青信号。デビュー当時は見えていた進むべき道が見えなくなっていて、コロナ禍で中止になったツアーであるgreen lightsをもう一度やりたいということから企画された。
ものすごくメジャー受けするアーティストというわけではないかもしれないが、十分な地位を獲得したmiletが半ば観客を置き去りにして行ったGREEN LIGHTSに違和感を抱いたファンもいたようだった。liveは毎回雰囲気が違うわけで、特に大阪で行われたライブではそのように感じるファンが多いようだった。休ませたほうがいいというXのポストも多く見かけた。自分はmiletに常に楽しいパフォーマンスを求めているわけではないものの、なぜここまでテンションを下げているのか(下がってしまっているのか)ライブ冒頭はよくわからなかった。途中はDJを交えたいつもよりあがる雰囲気があったり、最後は映画のシーンを撮ったりと何となく楽しい雰囲気もあったものの、いつもとは違う"あがりきらない落ち着いた"miletがそこにはいた。

そのGREEN LIGHTSから半年ほどたってのstairs。階段を一段一段のぼっていくことをイメージした今回のライブ。振り切ったmiletが見れるのかそうではないのか、なんとなくそうではないmiletを見ることになるのではないかと思いながら始まったそのliveは比較的落ち着いた雰囲気だったと自分は感じた。自分の体の調子のこともあって前半は座って聴いていた、というのもあったかもしれないが、ガーデンシアター全体の雰囲気もやや落ち着いた雰囲気だった。それはmiletが観客に対して無理やりテンションをあげるようにあおったりすることをしなかったことも影響していると思う。miletのライブにはそういうところがある。毎回雰囲気は違うし、どちらかというと落ち着いている。

同じ曲をきいてもliveごとに受け取り方がかわる。今回はlive中盤に組まれたレッドネオンとAnytime Anywhereの流れに心を揺り動かされた。レッドネオンは昔を振り返るような物悲しいゆっくりとしたワルツのメロディーに特徴がある。しかしサビに向かって力強さを増していく。

明けない夜は
君とだけ過ごすんだぜ

明けない夜を眠れず過ごす主人公はとてもイメージしやすい。この歌の作り手であるmiletは5 a.m.が好きだと言っている。ひとつのアルバムのタイトルとなっているほどだ。でもそれは好きになるしかなかったのだ。眠れない夜に本を読んだり映画を見たり、作品を作ったりしてきたのだろう。朝早く起きるのが得意といっているmiletと、眠れずに5 a.m.という時間を迎えてしまうmiletは同じ人間なのだ。

Anytime Anywhereはモチーフとなった階段を背景にして、コーラスのelleyと掛け合いのような歌声を届けてくれる。miletが一人で歌っているわけではないということがわかるとうれしくなる。アニメ、『葬送のフリーレン』のエンディング曲である。既に誰かを失った人が、もし自分が生まれ変わってもここを選ぶだろうという後悔のない壮大な曲だ。

だからもう一度
生まれ変わろうとも
また私はここを選ぶんだろう
だからあなたとまた巡り逢ったら
もう話さない今を選ぶんだろう
Anytime anywhere yah
Anytime anywhere
I'll be there
・・・
その涙だって大丈夫、
きっと夜が明けるよ
I'm whispering our lullaby for you to come back home

ここでも「きっと夜が明けるよ」というフレーズがある。夜明けはmiletの曲の中ではなくてはならない主題となっている。

最後Rewriteで会場が暖かく盛り上がった後、miletはいつもより静かにステージを降りていった。

その1週間後、ファンクラブのサイトであるmilesでmiletは自身の不調をブログに綴った。京都音博のイベントを休んでしまったことに対して謝罪とともに自身の体調に言及していた。

機能性発声障害と持病の鬱病の悪化

このブログを読んだとき、今まで自分の中にあったmiletに対する掴みきれないイメージが少しクリアになったような気がした。作品の繊細さや毎回変わるliveの雰囲気、ラジオ番組での映画音楽を語るときの細やかさなどはどういうところからくるものなのか。カナダ留学時代は決して学校が好きではなかったという事情はどういうところからくるものなのか。5 a.m.という時間帯がなぜmiletにとってそれほどまでに大切なのか。自分のために歌うことができなくなっていたことや、自分のためにも歌わないといけないと思い至ったのはなぜなのか。なぜgreen lightsをGREEN LIGHTSに昇華する必要があったのか。

東京ガーデンシアター後もliveは3回残っており、誰しもが興行を続けることができるのか心配しただろう。しかし昨日10月19日の熊本におけるliveは無事行えたようだ。今日10月20日のファイナル福岡、そして台風によって振替となった10月22日広島のliveもmilet自身のために行われることを願う。


いいなと思ったら応援しよう!