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In 3 minutes

 手にした容器は軽く、中からカサッと乾いた音がした。透明フィルムをはがして、指定の位置まで蓋をあける。容器の内側についた線まできっちりお湯を注いで、蓋を閉める。脇に用意したアラームをかけ、ここから3分待つ。

「急いでるからコレにするのに、案外待たされますよね」
 隣に座る同僚は、もどかしそうに体を揺する。
「119番と同じかもな」と答える僕に、同僚は表情だけで「分かりません」と返事をする。

「緊急なときほど冷静になれってことさ」
「あぁ……。でもそれ、黒電話の頃の話ですよね? 何時代ですか」
 ケタケタと無邪気に笑う同僚と比べて、ひどく自分が年を食っている気分になる。
 医療現場で働くようになってしばらく経った。特に、ここ十数年の医療の進歩は目覚ましい。もしもiPS細胞がなかったら、どんな世界になっていたんだろう。

「……そろそろだな」
 毎日幾度となく繰り返される3分間はしっかりと体に刻み込まれている。
 アラームが鳴る直前に動き出す。
 同僚も同時に席を立つ。
「準備OKです。いつでも行けますよ」

 ピピピピッ……ピピピピッ……

 アラームが鳴ると同時に蓋についた湯切り用の爪を立て、そのままシンクにお湯を流す。
 蓋を開けると、綺麗なピンク色の肺が現れた。

 素早く異常がないことを確認して、容器ごと同僚に手渡す。
「2番オペ室だ、気を付けてな」
「了解っす!」

 同僚の足音が小さくなるのを背中で感じながら次のオーダーを待つ。
 今日のように余裕のある日が続くと、『フリーズドライの臓器をお湯で戻すだけの簡単なお仕事』と揶揄される。

 ポロロンと可愛らしい電子音の後、スピーカーから緊張感を伴った声が続いた。
「緊急手術対応課分室へオーダー、5番オペ室より小児の肺。続いて、6番オペ室より腎臓及び…………」

 放送を聴きつつ必要な臓器をピックアップし、優先順位をつけて容器にお湯を注ぐ。3分待つ間に、ざっと各オペ室の手術内容に目を通しておく。追加オーダーに当たりをつけておけば焦らずにすむ。

 ポロロン……
「オーダー、8番オペ室より……」
 ポロロン……
「追加オーダー、1番及び2番オペ室より……」
 ポロロン……ポロロン……

 先程までの静けさが嘘のようにオーダーが雪崩れ込む。新規の合間に湯切りをし、出来上がったものの配送指示を出す。

 …………忙しくなりそうだな。


 誰かの健康を願うなら、仕事は暇な方がいい。

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