論文備忘録#2「STEM分野の女性に対するステレオタイプを解消するかもしれないゲームを開発してみたよ!」という論文
ここからはあくまで論文メモです.情報を共有,利用する際には必ずご自身の目で確かめてから共有してください.
🤔一言でまとめると
STEM分野での女性に対するステレオタイプを解消するためにVRを用いたゲームを開発! ゲーム内でアバターの性別とそれを自認するタイミングによってステレオタイプに影響があるのかを検証しよー!
🛣️もう少し詳しくまとめる
これまでの研究
STEM分野でのジェンダーステレオタイプ
STEM(Science, Tech, Enginnering, Math)分野での女性の割合が低いことはよく知られた問題.(※1) 具体的には参加者(女性よりも男性の割合が大きい),それに伴う能力の低下(苦手意識,バイアスによる成績の低下)などがある.これまで,STEM分野の女性に対する偏見を減らすためにビデオやボードゲームなどの様々な介入が行われてきた.
このバイアスは,男性から女性という一方的なものではなく,女性自身も抱きやすい.しかし本研究では男性のみを対象としている.本文ではその理由として,男性が人事権を持っている可能性が高く,男性の態度が女性を支援する環境を整えるからとのこと.
なぜ女性に対してこのような偏見を抱いてしまうのか? これに対して本文では,The “women are wonderful” effect (Eagly and Mladinic, 1994)が引用されている.この理論では女性には親切とか養育的のような”温かい”(ポジティブな)ステレオタイプがあって,その弊害として”男性的な”職業には向かないとみなされる.
※1:周知の事実であってほしいという願いも…,ちなみにStableDiffusionが出てきた時もpromptに科学者と入れると男性ばかり出てきたことが問題になっていたりした.詳しくは安宅さんのこの記事がおすすめ(↗)
VRを通した視点取得(perspective taking)
このようなステレオタイプを減らすためにVRを用いた視点取得が期待されている. VRを用いることのメリットは以下の2つ:
①埋め込みデザイン,つまり研究の目的を偽装できること(結果に影響するバイアスや社会的望ましさへの対策) ②VRを用いた身体化(embodiment)は他社の視点に立つことを可能にすること(現実では不可能)
VRを用いた視点取得,言い換えると疑似体験は自分とは異なる他者に没頭することでその人の感情や行動・目標をシュミレートする.これによってステレオタイプの減少に効果をもたらす. この効果をより大きくするには,VR上での自分のアイデンティティを認識するタイミングが重要になる.具体的には,ストーリーの中で登場人物と自身のつながりを感じさせてから,ストーリーの後半に自身のアイデンティティを認識させることで,よりキャラクターとの同一性が高まりステレオタイプと自身が演じる属性との関連付けが減る.
この研究の主張
本研究の主張は,ざっくりまとめると「VRを用いて男性が女性の科学者を演じるゲームを行うと,女性とSTEM分野に関するネガティブなステレオタイプが解消する」という感じ.具体的には以下のような仮説を立てている
我々の作成したゲームをプレイすることで
仮説1:男性アバターと比較して女性アバターでプレイした人は女性をより有能であると認識し(1a),女性と科学の暗黙の関連性がより強くなる(1b)※2
仮説2:男性アバターと比較して女性アバターでプレイした人は女性と暖かい/有能さの評価において,より少ない不一致を示す※3
仮説3:女性アバターを認識するタイミングが早い人よりも遅い人のほうが,女性は有能であると知覚される
仮説4:特に自己認識が遅い人のほうが介入の前と後でより有能だと評価する
仮説5:自己認識が遅い人のほうが科学者に対する形容詞評価に不一致が少なくなる(※4)
※2:強くなる=女性=科学者という認識が向上する,今は女性≠科学者 ※3:不一致を示す=女性は暖かいわけではなく,無能なわけでもない,従来は女性は暖かく,無能
※4:
方法
対象者
学部生 男性96名を4つのグループに分類(性別:男性or女性×認識のタイミング:前半or後半)
手続き
プレテストする
なりきるキャラクター(スミス博士)はすごいんだよ~ということを刷りこむ
ゲームする
ポストテストする
VRゲームの中身
これ↓
アバターのデザインはこれ↓
結果
細かいデータは論文読んでください.ここでは仮説に対応した結果だけ示します
仮説1a:〇
プレポストの自己報告で男性アバター体験者よりも女性アバター体験者のほうが女性の能力を高く評価した
仮説1b:✕
女性アバターでの体験は女性と科学の暗黙の関連性に影響を与えなかった
仮説2:〇
女性アバターでプレイした人はプレイ前よりも後のほうが女性と科学者のつながり(関連)があると評価した
仮説3:✕
開示のタイミングは女性と有能さの関連に影響を与えなかった
仮説4:✕
アバターの性別を開示するタイミングは女性の能力の評価に影響を与えなかった
仮説5:✕
開示のタイミングは女性と暖かさの関連に影響を与えなかった
考察
VRで女性科学者としてプレイすることは、女性や科学者に関する広範な態度を変化させるのに役立つかもしれないが、暗黙的な態度や具現化された科学者のキャラクターに関する特定の態度を変化させることにはあまり成功しないかもしれない. とはいえ,ゲームデザインにも原因はあるかも.透視図法と埋め込みデザインのゲームはユーザーの能力に依存するので,有能性はそれに引っ張られたかも.自分自身の見た目というよりもティーチングしてくれるキャラクターを女性にするとよかったかも.
個人的なコメント
STEM分野でのジェンダーギャップはよく知られた問題 .これを解消するための介入にVRを利用するというのは面白いなーと思った.あとは,VR空間上で自身のアイデンティティを認識するタイミングが重要というのはその通りだと思った.「自分は女性としてプレイしている」という体験と「あ,自分は女性だったんだ」という認識でプレイする体験は全く別物.女性アバターでプレイしていると数学のテストの点数が下がる(アイマイデス)みたいな論文もあったと思うけど,これって「女性=数学ができない」みたいなステレオタイプ脅威にさらされてたりするのかなーとも思った.
4群ANOVAの研究デザインも参考になるなと思ったり
あとは論文の内容は関係なく,明日はChatGPT使ってもう少し自動化しよう
明日読む論文(多分)
Yaremych, Haley E., and Susan Persky. 2019. “Tracing Physical Behavior in Virtual Reality: A Narrative Review of Applications to Social Psychology.” Journal of Experimental Social Psychology 85 (November). https://doi.org/10.1016/j.jesp.2019.103845.
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ではまた明日!
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