論文備忘録#3「社会心理学でVRを使う際のトラッキング技術に関するレビューをした」論文

🗒️ タイトル:
Tracing Physical Behavior in Virtual Reality: A Narrative Review of Applications to Social Psychology
🙋‍♂️ 書いた人:Haley E. Yaremych, Susan Persky*
🔢 投稿された年:2019
📚 投稿された雑誌:Journal of Experimental Social Psychology
🔗 りんく:https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0022103119300332

ここからはあくまで論文メモです.情報を共有,利用する際には必ずご自身の目で確かめてから共有してください.


🤔一言でまとめると

社会心理学の実験,特に非言語的・行動のデータを収集するのにVRのトラッキングがいい感じだからこれまでの文献まとめてみるよ!

🛣️もう少し詳しくまとめる

VRを使うと行動測定がすごい簡単になる!特に無意識のうちに行われる行動や社会的望ましさの影響を受ける構成要素の定量化に効果がある.
これまで社会心理学では対象者の無意識を測定するためにIATやchair-distance measurementなどの手法を確立してきた.しかし,これらの方法は時間的な方法やバイアスなどの限界を抱えている.
こうした限界を踏まえて,**Blascovich(2002)**はVRが社会心理学の研究を実施するための道具として、方法論的に大きな利点を提供できる方法を説明した.特に非言語での身体的な測定に大きなメリットがある.

社会心理学のツールとしてのVR

Blascovich(2002)の主張
VRの文脈以外での社会心理学的研究は実験的統制と生態学的妥当性のトレードオフを免れない. つまり,実験室で行われるコントロールされた実験は社会的なリアルさや生態学的妥当性が制限される.一方でフィールド実験は生態学的妥当性は高いものの無数の変数や主観性など実験的な統制が難しい. VRを用いることでこれらのトレードオフにさらされることなく研究を実行できる.
また,VRでは想像しうるあらゆる変数を調整可能(確かに),ほぼ完ぺきな再現が可能などのメリットもある.
そして,本論文のメインテーマでもある行動のきめ細かいトラッキングが可能.VR環境で実験をすれば同時に身体行動もトレースされる.従来収集が難しかった,きめ細かいデータを収集することができる.そ

そこにいる感覚 Presence

本研究では没入型のVR(HMDを用いたもの)のみをVRと定義する.
VRの技術的な側面のうち,心理学の文脈ではプレゼンス(presence)が重要である. プレゼンスとはVR環境内で「そこにいる」感覚のこと.デジタルな世界を現実なものと感じる体験できる技術的な側面が重要.(日本語が回りくどくてすいません.つまり,心理学的にはVR環境を現実だと思い込ませる技術が大事てこと)
加えて特に社会心理学では,プレゼンスの中でもソーシャルプレゼンス(social presence),VR環境内で対峙する人が「そこにいる」感覚が重要だよと続いてます.

VRでのトラッキング技術

ヘッドセットのトラッキングデータは最も一般的なリソースになる. ※社会心理学的なシナリオとしても解釈しやすい.主に頭の動きを視線の動きに置き換える
ヘッドトラッキングには頭の向き(oriented)と頭の位置(position)の2つがある.
① 頭の向き (ヨー,ピッチ,ロール) 頭の向きはヨー,ピッチ,ロールの3次元データで取得する. ヨーは「首を横に振る」動き,ピッチは「首を縦に振る」動き,ロールは「首を回す(フクロウのイメージ)」動き
頭の向きを計測して何がしたいかというと結局のところ視線の動きを計測したいということ. アイトラッキング付きのHMDがあれば問題は解決するのだが,標準搭載されているわけではない. 頭を動かさず視線だけを動かして対象を見ることも可能なので,VR環境を設計する際にはオブジェクト同士の距離を調整するなどの工夫が必要.(メモ..)
② 頭の位置 (X,Y,Z) 3次元空間内の位置座標から位置データを習得. 位置データの使用用途として最も一般的なのが「プロクセミクス Proxemics」 プロクセミクスは個人間の対人距離として定義される.(パーソナルスペースとか社会的距離とかと一緒) 先行研究として以下が面白かったのでメモ.
VRで個人が従う近接パターンが、現実で従うパターンと一致することが示されている。 例えば、仮想人物に接近するとき、正面を向いているときよりも背中を 向いているときの方が接近することが示されている(Bailenson, Blascovich, Beall, & Loomis, 2001, 2003)
ポジションを用いる例はほかにも歩行経路の調査とかも紹介されていた.

VRによって定量化できるモノたち

①社会的接近と回避(Social Approach and Avoidance)
社会的接近は仲良くしようとする際の行動(たとえばアイコンタクトとか近くにいくとか) 回避は遠ざけようとする際の行動でその逆.VRを用いたトラッキングはこれらを正確に測定する手法を提供する.
以下のような事例が紹介されていた

  • VRを用いた社会的相互作用トレーニング後、自閉スペクトラム症 ASD(Raj & Lahiri, 2016)患者はアイコンタクトの増加が観察される。(Bekele et al., 2016)

  • 同様のデザインの研究は ここでは、症状の呈示が大きいほど、模擬会話中にアバターとの対人距離がより長く維持されることが予測された(Fornells-Ambrojo et al., 2016; Park et al., 2009)

  • 統合失調症の参加者は、仮想的な相互作用相手の感情状態に対する対人距離の変化が少ないことが示され、認知や社会的認知の欠損を示唆。(Park et al., 2009)

  • 太っている母親はVR空間内での子供とより大きい距離を保つ傾向がある( Martarelli et al., 2015)

今後、大人数(複数人-複数人)の会話シナリオでの行動理解などが期待される
②社会的な他者の評価
非言語的な行動を社会的な他者を評価の代理として測定する.ここで社会的他者への評価は,他の個人に対する個人の内面的に保持された態度,意見,または偏見を反映すると定義される.例えばうなづきとかアイコンタクトとか(あれ,さっきと一緒じゃね?) VRを用いたトラッキング(主に視線と距離)でこれらを測定する.
以下のような事例が紹介されていた

  • 社会的紹介の際に黒人アバターとの近接的距離が大きいほど、その後のゲームでそのアバターに対してより攻撃的な射撃行動をとることが予測される(McCall et al., 2009)

  • 医学生と仮想患者の臨床的出会いのシミュレーションにおいて、医学生は仮想患者が肥満(痩せ型)に見える場合、相互作用の有意に少ない割合で仮想患者の顔を見続けた。学生が患者の太りすぎに対する非難を減らすための情報を与えられた場合、このような偏った視線パターンは減少した。(Persky & Eccleston, 2011)

  • 相互作用の過程で対人的距離(すなわち、患者が仮想の医師から身を乗り出す距離)が増加することは、医師に対する否定的な対人的反応の患者の報告と関連していた(Persky, 2016)

VRを用いることで非言語行動の時間的な変化を調べることができる. 今後はうなづきや傾き(?),表情などの尺度の評価が期待される.
③エンゲージメント,集中
VRがないとエンゲージメントのような抽象的な構成要素は計測できない.実際に参加者がどの程度集中しているかを定量化する方法はほとんどない.(自己報告とかはあるけど) 論文投稿時には社会的なシナリオへの応用は少ないけど,将来的には一般化が期待される
具体的には

  • 注意欠陥多動性障害(ADHD)評価のために開発された教室シナリオにて,頭部回転はADHD症状と集中的注意との関係を部分的に媒介し、頭部回転は課題の経過とともに増加し、時間の経過とともに注意が失われていくことを示していた(Rizzo et al., 2006)

  • 頭の動き(仮想教師への寄りかかりや遠ざかり)をエンゲージメントの代理として定量化し、参加者は同性の教官に近づき、異性の教官からは遠ざかる傾向があることを発見した(Jeong et al., 2017) ※ 近づく=集中,遠ざかる=集中力の低下としているらしい.本文読まんとわからん

  • VR内で生産性の高い同僚が隣にいると,生産性が低い同僚が隣にいるときよりも頭の動きがすくない=集中力が高いことが明らかになった(Gürerk et al, 2019)

まだまだ限定的なのでもっと研究しよう.

考察

VRを用いること,特にHMDのトラッキングを利用することで従来収集できなかった行動のデータを収集することができる.特に視線や社会的距離を通して,社会的接近と回避,社会的他者への評価・偏見,集中などが計測可能になる.
一方で,いずれの心理的な要素も直接的に測定してるわけではないことに注意.また,研究の妥当性についてもあまり再現されていないので,今後検証を行うことが重要. ほかにもデータを単純化しすぎていること,VR酔いや長時間の仕様ができないことなどが課題として挙げられている.
将来的には社会的なシナリオと神経イメージング,運動データ,生理学データなんかと結び付けられるといいね.とのこと


個人的なコメント

まー,そこまで目新しさはなかったかなー. ナラティブレビューなので,書籍みたいな感じでここにこんな情報のってるよという地図としてはいい感じ. 社会心理学は特に,どうしても質問紙とか自己報告はバイアスがあって,それをいかに削除するかという問題と再現性・ラボと社会の乖離みたいなのが問題になるわけでVRはそこの懸け橋になるよというのが大まかな主張.最近はトラッキング技術ももっと進化しているのでもう少し最近の文献をdigってみる必要があるかも.

明日読む論文(多分)

Yee, Nick, and Jeremy Bailenson. 2007. “The Proteus Effect: The Effect of Transformed Self-Representation on Behavior.” Human Communication Research 33 (3): 271–90. http://dx.doi.org/10.1111/j.1468-2958.2007.00299.x

3日間やってみて,これあんまり意味ないなーと思ったので明日は少し趣向を変えてみます! 具体的にはChatGPTと2人で研究会をやろう!というイメージで

告知など!

筆者はしがない無職の大学院生です.
自身の研究を通して,世の中に何か貢献できないかと考えこのnoteを投稿しております.noteの投稿はすべて無料で行う予定です.(※おそらくは…)
研究活動,そして僕自身の生命を継続していくためにもご支援いただけると幸いです.
あと,毎日3Dで何か作ってます!トゥイラー(X)もフォローしてくださーい!
こんな感じ↓

とぅいらー: https://twitter.com/Mouflon__0404
UnrealEngine学習記録:
https://mire-primula-286.notion.site/UnrealEngine-bb385d58a5fe4720abaf4b3300f9d3d9
ではまた明日!

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人類の新しい身体について研究する筆者の研究記録です. キーワード:VR/e-sports/身体性/HCI/VirtualHuman

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