【ダイバーシティ編】2018年ニュース総集編
「多様性=ダイバーシティ」もまた、2018年を代表するキーワードへと上り詰めた。これは「#metoo」の急速な浸透とも無関係ではない。女性の権利回復への第一歩がようやく踏み出されたのに合わせて、人種やLGBTQ層への理解の裾野も実体化し始めた。
『ブラックパンサー』『クレイジー・リッチ!』の興行的・批評的成功は、そんな傾向を強力に後押しした。年始では『リメンバー・ミー』が賞レースでも勢いを見せつけ、「多様性を押し出した作品は、作品の質だけでなく、数字でも強い」ことを証明している。
アメリカにとってのダイバーシティは、徐々に冷静な視座で支えられつつある。
もちろん、道のりはまだまだ長く険しい。過去のツイートについて批判を受けたコメディアンで俳優のケヴィン・ハートが、アカデミー賞授賞式のホスト役を降板したニュースは、そんな「デリケート」な現状を克明に印象付けたと言えるだろう。
2019年も、そんな「過去の負の遺産」たちとも向き合う一年になるはずだ。だいたい、悪影響の源泉がホワイトハウスにのさばっている国だ。まだまだ揺り戻しの「遊び」が起こり続ける数年であることは間違いない。
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『クレイジー・リッチ!』雑考
(掲載:mofi 第218号 2018/08/20)
1月−3月
■ アニー賞受賞作品一覧 『リメンバー・ミー』が10部門を制覇
インディ長編部門でノミネートされていた『この世界の片隅に』は惜しくも受賞を逃した。(O)
■ マーベル『ブラック・パンサー』連休4日間で$218Mの快挙 2月第3週
今週の興収は『ブラック・パンサー』を抜きにして語れない。月曜日の祝日抜きの数字では$192Mと、圧倒的な存在感を見せた。観客の満足度を示すシネマスコアもA+、Rotten Tomatoes 97%、IMDB 7.9と、映画そのものの評価も高く、サントラもBillboard200で初登場1位。昨今のダイバーシティの文脈を踏まえても踏まえなくても突出した結果といえよう。(M)
■ 2月第4週も『ブラックパンサー』引き続き好調 新作2本が2位と4位
『ブラックパンサー』はアメリカ国内で累計$400Mを計上し、スーパーヒーロー映画史上でも最大のヒットへと迫る。ワーナーの新作コメディ『Game Night』は初登場2位、パラマウントのN・ポートマン主演SF作品『Annihilation』は不服の4位。(O)
■ 米テレビジョン・アカデミー #metoo照準で組合倫理規定を改訂
同組合はアメリカのその他の主要組合たちと共同で、セクシャル・ハラスメントおよび多様性の推進に焦点を据えた新たな委員会への参加も表明。事態は着々と進展している。(O)
■ 3月第1週は『ブラック・パンサー』$500M突破で首位 初登場2作が追う
『ブラック・パンサー』は史上最大のヒット映画『アバター』や『ジュラシック・ワールド』にも迫る勢いで興行を伸ばしている。ジェニファー・ローレンスのスパイ映画『Red Sparrow』やブルース・ウィリス主演の『Death Wish』はいずれも評価の低い作品たちで勢いがない。(O)
■ アカデミー賞のアワード・シーズンを楽しむべき5つの理由
「オスカー狙い」の時代は終わったらしい。低予算映画と、ジャンル映画と、型破りなキャンペーンと、人種への認識、そして世代交代。新しい映画界の訪れなのだろうか。本当に?(O)
■ 3月第2週、『ブラック・パンサー』$41Mで3週連続1位 注目作 “A Wrinkle in Time” は$33Mで首位ならず
ディズニー勢によるワンツーフィニッシュ。なお『ブラック・パンサー』は全世界興収では公開26日目で$1Bを突破し、ディズニー映画としては16番目、マーベル・シネマティック・ユニバースでは5番目の作品に。(M)
■ 俳優マイケル・B・ジョーダンの制作会社が「インクルージョン・ライダー」を導入
アカデミー賞受賞式で、主演女優賞を獲得したフランシス・マクドーマンドが、スピーチの最後に語った “inclusion rider” と言われる、映画企画に文化的背景の多様なキャストおよびスタッフを起用するための付加条項をつけることにした、というニュース。ハリウッドの多様性実現への動きの端緒となりえるか。(M)
■ 3月第3週『ブラック・パンサー』5週連続1位 WB&MGM新作が追随
3,834館という規模で依然公開されている『ブラック・パンサー』は今週も$28Mを叩き出し、首位を爆走中。初登場となったアリシア・ヴィキャンデル主演作でゲームが原作の『トゥーム・レイダー ファースト・ミッション』はまずまずの$23M。(O)
■ ウェス・アンダーソン監督『犬ヶ島』の脚本務めた野村訓市氏
面白い関わり方の、面白い経歴の、面白い日本人、というイメージ。(M)
4月−6月
■ 給与の男女差報告書、各社公開 ディズニーUKでは男性が女性の22%上回る水準
1600人弱の被雇用者たちのうち、男性の方が女性より平均22%、中央値で15.8%高い給与を受け取っている。ボーナスとなると差はさらに開き、平均41.9%、中央値で14.4%の違いがある。差別撤廃への道のりは長い。(O)
■ 給与の男女差報告、アマゾンVideo UKでも発表 差は歴然
ストリーミング・サービスではアマゾンが初めてデータを発表し快挙。だが数字は芳しくない。ディズニーUKよりも開きのある数字で、男性被雇用者の方が平均で56%、中央値で40.1%もの差。いったい何を言い訳にしてこれだけ差をつけられるのか謎。(O)
■ 身体障碍をめぐる委員会開催 ハリウッドのバイアスに立ち向かう USC
“Sexism” (性差別)や“Racism”(人種差別)が問題視されるなか、 “Abelism”(健常者の身障者差別)は無視されがちである。筆者のクラスメイトにも、障碍をもった人がいたが、彼ら・彼女らが立ち向かうべきバイアスは依然として強い。(M)
■ J・J・エイブラムス、『スター・ウォーズ』第二撮影班監督に女性を起用
女性であるのみならず、アフリカ系アメリカ人であるヴィクトリア・マホーニーを採用した。第二撮影班とはいえ、マイノリティに属す女性を監督に据えたことは快挙。とはいえ、アヴァ・デュヴァーネイから発表がなされたことも含め、今回の報道は明らかにパフォーマンス感が目立つ。ジョン・ファヴローが同フランチャイズ新作の監督に就任したことへの騒動も響いているのは想像に難くない。(O)
■ 多様性推す「インクルージョン・ライダー」運動、大手は腰重く
キャスティングをはじめとした映像製作の契約書に、多人種および女性の起用を数値的に義務化する条項を盛り込む「インクルージョン・ライダー」という考え方を広めたのは、昨年のアカデミー賞受賞者のフランシス・マクドーマンドだった。彼女のおかげで、同概念は認知度を一気に高めたわけだが、賛同するスタジオはまだまだ少ない。大手の腰の重さが、同運動にブレーキを起こしかねない状況に陥っているようだ。(O)
■ ヘンリー王子とメガン・マークルの結婚式に全米3000万世帯視聴
本国イギリスでも1800万世帯の視聴があったとのこと。アメリカのテレビドラマ『スーツ』のキャストで知られる女優のメガン・マークルを知る人からすれば、ハリウッドからイギリス皇室への華麗な転身にそこはかとない興味を抱くこと必至だろう。これまでの格式を重んじる結婚式に比べ今回の式の地に足のついた感覚は、非常に新鮮に感じられた。(M)
■ カンヌ映画祭:是枝裕和『万引き家族』にパルムドール スパイク・リー “BlacKkKlansman”にグランプリ
日本の映画作品では、1997年の今村昌平監督『うなぎ』以来、21年ぶりの快挙。レッドカーペットに僭越ながら参加して観ることができたが、観客の拍手の熱量は高く、10分間は鳴り止まなかった。日本では6/8公開。(M)
■ 2018年トニー賞受賞者リスト
映画業界に身を置いているとミュージカルの動向はなかなか追いづらいが、“The Band’s Visit” の10部門受賞、“Harry Potter and the Cursed Child”の6部門受賞で圧勝の様子。The Band’s Visit には日本のホリプロも製作に関わっており、嬉しい受賞のはず。(M)
■ O・ウィンフリー、アップルとコンテンツ契約締結
アップルのコンテンツ戦略に、オプラ・ウィンフリーが参画。ウィンフリーは自身のネットワーク「オプラ・ウィンフリー・ネットワーク(OWN)」との間に、TV広告モデルのケーブルテレビ番組を製作・出演する契約を結んでいる。このため、アップルとの契約はこれに抵触しない領域で展開される。アフリカ系アメリカ人層および政治的にリベラルな層に絶大な影響力を有するウィンフリーを、アップルが獲得した意味は大きい。(O)
7月−9月
■ 大手エージェンシーCAA、有色人種専門の脚本家データベースを創設
CAAのクライアントたちだけでなく、テレビドラマ作品に携わる業界中の有色人種の脚本家たちが、リストになる。1作品でもスタジオ作品に関わったことのある者は、登録されることになる模様。私も個人的に、日々複数のエージェンシーからタレントや脚本からの候補をあげてもらう際、ものの見事に白人候補だらけになることには辟易している。こんな時代になってもエージェンシーたちは変わらないのだから、こうした試みで強制的に変化をもたらすことの必要性はつとに感じる。(O)
■ 7月第4週:『イコライザー2』が予想外の首位獲得 『マンマ・ミーア!2』を抜く
デンゼル・ワシントン主演のアクション映画の続編「イコライザー2」が、こちらもスター勢揃いの続編映画「マンマ・ミーア!2」を打ち負かした。前者はR指定にも関わらず$35.8Mを記録。後者は$34.4Mと僅差の敗北だった。先週一位だった「モンスター・ホテル3」が3位で粘る反面、2位だった「スカイスクレーパー」は7位まで後退して敗色が濃い。(O)
■ エミー賞ノミネート作発表 全候補作一覧
昨年に続き「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」シーズン2が20部門でノミネート。ノミネート数最多は「ゲーム・オブ・スローンズ」の22部門と、「ウェストワールド」の21部門。「ストレンジャー・シングス 未知の世界」「THIS IS US 36歳、これから」も名を上げるほか、「Killing Eve(原題)」ではアジア系アメリカ人としてはじめてサンドラ・オーが主演女優賞にノミネートされた。コメディ部門では「The Marvelous Mrs. Maisel(原題)」と「Atlanta(原題)」が対決する模様。(O)
■ 女性レビュアーの少なさが多様性を妨害 研究示す
紙、ウェブ、そして放送媒体に登場する映画の批評家たちのうち、68%が男性だということを、サンディエゴ州立大学の教授が統計で明らかにした。この分布が、女性アーティストや女性を主人公に据えた作品の存在感を薄める危険性があるという。4,111本のレビューのうち、紙媒体では70%、ウェブ関係では69%もの割合で男性が紙面を埋めているのだそう。(O)
■ 8月第3週はアジア人主演・監督の話題作『Crazy Rich Asians』が快挙 5日間で$34Mを記録
週末は$25.2Mで、水曜日からの合計は$34Mで初登場1位。前週の首位だった巨大サメをめぐるアクション映画『The Meg』を抜いた。本作はアジア系アメリカ人やアジア文化に根付いたロマンティック・コメディで、近年の興行データでは比較可能な例がないことに注目が集まっている。黒人女性4人の仲良し珍道中を描く『Girls Trip』や、ベストセラー小説の映画化作品『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』との類似点はあるが、『Crazy〜』は主要都市部の有色人種を中心に客層が集中している点で特殊。しばらくはヒットの背景を分析すべく、そこここで議論が展開されることになるだろう。(O)
■ ネットフリックス、日系人ライターShion Takeuchiと包括契約を締結
オバマ夫妻や業界トップ中のトップたちと包括契約を結んできたが、「今後は相手を選ぶ」と話していたことも印象深かったネットフリックス。そんな彼らが、アニメーション部門では若手女性に白羽の矢を立てた。Takeuchiは名門カルアーツ卒で、ピクサーでもストーリー部門で技を磨いた。若い才能が機会を与えられている。(O)
10月−12月
■ 『ブラック・パンサー』監督ライアン・クーグラー、続編を脚本・監督へ
2018年の大ヒット作がそのまま続編なしに終わるわけはないと言われながらも、これまでタイミングは明かされていなかった。2019年終盤〜2020年前半の撮影を目指し脚本執筆を開始する見込み。なお、クーグラーは他にも『スペース・ジャム』続編、そして『クリード』続編にエグゼクティブ・プロデューサーとして参画し進行中。(M)
■ Indiewire HonorsホストにAtsuko Okatsuka 独自性溢れるタレント表彰
まだブレイクしてはいないようだが、日本出身でロサンゼルスで活動されているAtsuko Okatsukaさんのスタンダップ・コメディは、面白い。ウェブサイトで要チェック。多様性の波に乗って躍進するアーティストになるに違いない。要注目。(O)
■ コービー・ブライアント発足のプロダクション、複数の企画を発表
グレン・キーンとのコラボレーションで昨年のオスカーを掠め取った元プロバスケット選手のブライアント。そんな彼が、自身のプロダクションで進行中の企画たちを公開。2019年にはスポーツに関連したYA向け書籍を5タイトル出版する。テレビ、映画用にも企画を進めていくそう。(O)
■ 『アジョシ』ハリウッド版に『ジョン・ウィック』D・コルスタッド着任
昨今では日本IPのハリウッド進出企画が相次いで発表されているが、継続性でいえば韓国IPの方が活躍が目覚ましい。アクション映画として評価の高い「The Man from Nowhere(邦題:アジョシ)」がコルスタッドで再映画化とは、成立の可能性としても鉄板レベルの布陣。(O)
■ 小栗旬、2020年公開の “Godzilla vs. Kong” に出演へ
日本の原作のみならずタレントもまた世界的な舞台に進出する契機になれるかどうか?注目されるキャスティング。(M)
■ 中国市場は『クレイジー・リッチ!』不発 初週でたった$1M弱
日本での興行も芳しくなかった『クレイジー・リッチ!』だが、中国での不発も「アジア人」と「アジア系アメリカ人」との価値観の違いを浮き彫りにする良い例。アメリカが求める多様性のあり方と、アジアを中心とした多くの国々のそれとの間には大きな差があるものだ。それが数字となって現れた。週末興行でたった$1M弱とはよほどの反応だ。(O)
■ ゴールデングローブ賞 ノミネート作品一覧
賞レース大本命のアカデミー賞の前哨戦と言われながら、その注目度と柔軟さにおいてはアカデミーを超えるのではないかと言われるゴールデングローブ賞。投票母体のちがいが生むノミネート作品の幅広さをご覧いただきたい。(M)
打って変わってアカデミー賞では、これまた「読み違い」事件以来のスキャンダル?が発生。内容は、司会予定であったコメディアンの10年前の同性愛者差別的発言。これが掘り起こされ「炎上」。謝罪を求められるも抵抗した本人だが、このような結末に。過去のあやまちをどこまで遡って精算するか? 『ガーディアン・オブ・ギャラクシー』の監督降板劇との共通点を考えさせられる。(M)
■ マーベル初のアジア系ヒーロー “Shang-Chi”は次のブラックパンサーになりえるか
つい先日発表された、マーベル・スタジオ初のアジア系スーパーヒーロー “Shang-Chi”。ブラック・パンサーと似た現象で、スーパーヒーロー作品が映画における人種の多様性の動きを突き動かす力になりえるか。ちなみに、コミックのShang-Chi のモデルはブルース・リーだそう。(M)
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