マジでどうでも良い事つらつら10
■バンドマン、ろくでもないブルース■
前回の続きを書いていこう。
ヤンキーの世界では、怒らせたらヤバい先輩というのがどこの地域にも一人や二人はいるもんだ。しかし大体そういう人達は普段は温厚で男気に溢れ、いざという時に牙を剥くタイプの方がほとんどのはずなのだが、
私が今から書くとある先輩は怒ると手がつけられない残虐の限りを尽くすタイプだが、なんと怒らせなくともそこそこ邪悪な笑顔でこちらに危害を加えてくる人だった。
出会い頭に肩に向かってそこそこの右ストレートを喰らわせてくるのは挨拶代わりだし、自転車に乗っていればこちらに突進してひかれてしまう。
タバコを吸い終わると人の腕を使って消そうとしたり、公園で駄弁っているといきなり砂をかけて目潰ししてきたり、
コーラの缶を思い切り振ってこちらに向かって栓を空けるのかと思いきや、持ったままコーラで顔を殴ってきてその衝撃でもって破裂させたり。
説明していて意味がわからなくなってきた。これは決して怒っているわけではない、ニコニコと、ケタケタと笑いながらじゃれてきているだけなのだ。
機嫌が良くてコレなのに、
この人、手段を選ばないのでケンカがバカみたいに強い。
腕力自体もかなり強かった上に武器なんて平気で使うし噛みつくしでとにかく卑怯だったので、怒らせようもんなら対象者はいつもヒドイ目に合わされていた。
筆者はそこまで過激な事をされたわけではなかったのだが、実際に見ていたり話に聞いたりしていたので出来るだけ関わらないようにしていたのだがどこをどう間違えたのか気にいられてしまい、ついに断りきれず電話番号を教えてしまったのだ。そのついでに頬に輪ゴムをペチンと当てられた。なんでだ。
ある日の夜、夕飯を済ませ部屋でのんびりギターを弾いていた時にその先輩から初めて電話がかかってきて私は戦慄した。
面白いモノを見せてやるから今すぐ来いとのこと。
地元が近いわけでもないので電車で行かなければならない。正直かなりめんどくさいし非常に気が進まないが、最初の一回の呼び出しぐらい応えておかないと後が怖いので泣く泣く向かう事にした。
とある駅に呼び出され指示されて向かったのは、近くの閉店後のスーパーの駐車場の人目につかないちょうど大通りから死角になっているスペース。
その人と、また別の知り合いが二人。談笑しながら待っていた。
場所を探して時間がかかってしまったのですみませんと会釈しながら近寄ってみると、その死角のスペースの隅っこに見知らぬとっぽいお兄さんが鼻血でドロドロになって衣類もビリビリに破かれてボロボロで横たわっていた。
どうせあの人の事だ、ケンカか何かだろうとは思っていた。
参加するつもりは毛頭ないが、筆者も男の子なので格闘技はそれなりに好きだし、正直ケンカを見物するのは嫌いじゃないのだが、
とっくの昔に既に終わっているではないか。くっちゃくちゃにされたその見知らぬお兄さん、既にボロ雑巾ではないか。
遅いぞーとその先輩が私に向かって火の着いたタバコを投げてきた。熱い。が、怒ってはいない。これがニュートラルだ。
お前が来るまで待っていたと言われても、こんなズタボロの人にこれ以上何をしようと言うのか、常人の私達ではもう殺人しか思い浮かばない。
そしてあんた全然待ちきれていないじゃないかと思いつつ、その直後自分の考えの甘さを知った。先輩はニヤーっと笑ってポケットから信じられないモノを取り出した。
電球だ。トイレや風呂場の明かりに取り付ける、丸い形のアレだ。
ゾッとした。一体何をするつもりだ?
先輩はおもむろに倒れたお兄さんに向かって進み腹に一発ケリをいれ、髪の毛を掴み上げて無理矢理上体を起こさせた。蹴る必要あったのか?
そして手に持った電球をお兄さんの口の中に無理矢理ねじ込んだ。
間髪いれず、迷う素振りなど一切見せず、見てろよと一言こちらに発した直後に、彼は相手のアゴに向かって思い切り膝蹴りをお見舞いしたのだ。止める暇も度胸もなかった。
描写は書かない、ご想像されるのは勝手だがオススメしない。
声にならないうめき声をあげながら口からドボドボと血を流す見知らぬお兄さんと、大笑いしている先輩を見ながら、
私はもちろん二人の知り合いですらもボーゼンとしながら恐怖に震えていた。
ケロっとした顔で飯食いにいこうとその先輩は言い放ったが、
なんとか理由をつけて私ともう一人は帰る事になり、もう一人は断りきれずに付いていく事となった。
先輩と哀れな生け贄となった彼の背中を見送った私達は、すぐに救急車を呼んで再び逃げるようにその場を後にした。
共に離脱した彼にどういう事だったのか詳細を聞いてみると、
先輩が道端に落ちていた電球を何気なく踏みつけてみたところ案外すんなり割れたので口の中で割ったら面白そうだと思ったらしく、
コンビニで電球を万引きしその辺を歩いていた悪そうな顔をしたその被害者にいきなり殴りかかり完膚なきまでにとっちめた末の大惨事だったとのこと。
私はもう二度と関わらない事を心に決め、それ以来その先輩とは会っていない。電話番号を変えその界隈に一切近寄らなくなった。最寄り駅や家を教えていなくて本当によかった。
あれから随分と月日が経ったある日、風の噂でその先輩が亡くなったと聞いた。
鍵の刺さったままだった車を車場荒らしのついでに窃盗し、免許もないのに乗り回した挙げ句電信柱に猛スピードで衝突したらしい。
バカは死ななきゃ治らないというが本当に死んでしまうとは。
その人の訃報に歓喜を挙げたヤツらは数知れずいたらしい。
全く、はた迷惑では済まないシャレにならない人だったと思うし、筆者だって悲しくもなんともなかったがあまり気分の良いものではないので、
少し憐れに思った私はほんの一瞬だけ合掌したのだった。
なかなかハードなエピソードを書いたが、筆者の事をその筋の危ない世界の人間だと誤解しないでいただきたい。
筆者はただただ臆病でそういった輩からなんとか逃げ回ろうと必死だったし、逃げ切れない場合のみ実力行使に及んでいただけだ。
情けない話、その実力が遠く及ばない場合が多かったので、武勇伝なんて立派なモノなどほとんど持ち合わせてはいない。
お陰さまで揉め事に多少の耐性がついたものの、命が一番ヤバけりゃ逃げる、許してちょーだい逃げるが勝ちよが信条だ。
いろんな意味で怖い人はどこにでもいる、どうかこれを呼んでくれた読者諸君がそういった頭のおかしいヤバい連中の毒牙にかけられる事がないよう、陰ながら祈らせてもらおう。
何かあっても私に助けを求めてはいけない。何の役にも立たないからである。