バンドマンのエレジー21
■バンドマン、ちゃっかり報われない■
このエッセイで散々バンドマンとはーとか、ライブとはーなんて書いているのだから当然と言えば当然なのだが、筆者がライブ活動をする上でステージで演奏してお客に聴いていただく楽曲は全てオリジナル曲だ。
ソロはもちろんの事、バンドの方でも他のメンバーが曲を書いてくる事もあるが、基本的には私が書いている。
このソングライティング、すなわち曲を書くという作業は一言では言い表せないほどに奥深く様々な手法が存在する。基本的には両方自分で作るのだが、人によっては作詞が先だったり、作曲が先だったり。
はたまたどんな内容の曲を書くのか先にテーマを決めてしまって、
こんな内容ならバラードかな?逆にアップテンポかな?なんて具合に作業を進める方法だったりとまちまちだ。
あくまでも私の場合であるが、作詞を先に完成させてしまったり、メロディが浮かんで先に作曲してしまったりというパターンは非常に少ない。
逆に最も多いパターンは「詞と曲が同時にワンフレーズ浮かぶ」場合と、
こちらは珍しいタイプなのかもしれないが「曲のタイトルを決めて後づけで連想していく」場合がある。
前者の場合、
頭の中ですでにほぼ完成された短いフレーズがパッと思い浮かぶ。テンポやリズム、歌詞もメロディも何もかもだ。
そのフレーズが曲中どこに使われるかは、Aメロになるのかサビになるのか自分でもわからない。
頭の中でこのフレーズだったら次こうなるなーなんて考えて、だったらサビではなくBメロの方が合ってるかもなーだとか。
作り上げていくというよりは、
未だ全貌が見えない曲が、浮かんできたワンフレーズをヒントにどんな曲なのかを紐解いていくと言った方が正しいかもしれない。
紐解く事の出来なかったフレーズはメモして取って置く。いつかまた完成する日が来るかもしれないし、違う曲が浮かんだ際にピッタリ合いそうだったら少し変化して使ったりもする。おかげでメモ帳には未完の名曲がいっぱいだ。
後者の方は前述のテーマを決めてしまうというパターンと似ているかもしれないが、
どんな曲を書くかは決めていない。
あくまでも曲のタイトルだけを何となく語感が良いとか、カッコ良さそうな曲だと思えるかどうかで決めている。
そのタイトルをどう使っていくかでどんな曲になっていくかが決まる。
例えるならば「星空」というタイトルの曲を書こうと決めて、
「星空を恋人と共にロマンチックに眺めている曲」なのか「夜中一人ぼっちで夜空を見上げた曲」なのかで、だいぶ内容が変わってくるのだ。
更に後者にしたとするならば「失恋して一人ぼっち」なのか、「眠れずに一人で散歩」なのか。そんな感じでテーマを探して後づけしていくのだ。
そこからどんな曲になるのかを雰囲気から思い浮かべて、歌詞とメロディを当てはめていく感じだ。
作詞も作曲もどちらも大事なのだが、どちらに重きを置きこだわるのかは意見が別れるところだが、筆者の場合は作詞に非常にこだわって曲を書く。
仕事など貰った事もないし全く食えていないにせよ、仮にもエッセイストと名乗っているのだ。そりゃ言葉というものにある程度精通していなけりゃおかしい話だ。
どんなメッセージを込めるかというのは曲のイメージが浮かんだ時から胸の内にあるのだが、わかりやすく単純に書く事もあるが聴く人の解釈に任せてとても抽象的に書いたりもする。
書きたいワードを手当たり次第並べるのではなく、伝えたいハートをどんな言葉を使って表現するかが大切だと思っている。
誰が聴いても絶対に伝わる表現というのも素敵だが、そればっかりでは言葉を扱う専門家として芸がない。
もちろん作曲もそうなのだが、そんな風に頭をひねって曲を書き上げていく。
今書いたのはあくまでも私の場合の話であるが、大多数のソングライター達にはそれぞれの手法があり、それぞれの努力がある。月に何十何百と曲を書き上げる人もいれば、一年に10曲程しか書けない人もいる。
全ての人がそうだとは言わないが、
時には毛ほどもアイデアが浮かばずに落ち込んだり、どうしても最後のピースがはまらずに保留になってしまったりと、
ソングライター達の汗と涙の結晶とも言える楽曲達を書き上げるのは案外簡単な事ではないのである。
しかし、ごく稀なパターンであるが、まるでトコロテンを押し出したかのようにツルンと丸々一曲書き上げる事が出来る時がある。
どんなイントロでどんなメロディで、どんな歌詞でどんなアウトロで。複雑な事で頭を悩ます事もまったくなくトゥルンと一曲出来てしまった。
ギターを弾いてコードを付けて、ルーズリーフやメモ帳に歌詞を書き上げるための30分程の時間しか掛からなかったのに、凄く綺麗にまとまってるしメロディも歌詞も中々素晴らしい。
しかしあれだけ毎回苦労する作業があって数々の名曲を産み出してきたのだから、こんなにアッサリ出来てしまった曲に対していささか信頼のおけない自分もいたりする。
そりゃそうだ。あまりにもスルッと出来てしまって演奏も歌詞もすぐに覚えられるし次のライブには簡単に間に合わせる事が出来るなんてそんなやっつけ仕事のような曲がウケてたまるか。
眠る時間を削って精一杯頭を使って、たくさんの思いを込めた極上の一曲をここぞという曲順で演奏するからこそお客の心にグサッと刺さるのだ。なんなら歌詞を読みながら自分でも涙ぐんでしまうような素晴らしい歌だ、そんな新参者に負けてたまるか。
ところがどっこい。
いざライブでのレパートリーに新曲を加えてみると、終演後に物販席に来るお客のほとんどが「あの新曲入っているCDありますか?」と尋ねてくるのだ。
入ってない!新曲って言ったでしょ!まだ入ってないの!
とまではさすがに言わないが、せっかくCDが売れるチャンスだ。
ご希望の曲は入っていないが渾身のメッセージソングが入った新しいCDを勧めてみようじゃないか、きっとライブで聴いていただいて心に響いているはずだ。
響いてなかったみたいだ。
何が「また新しいCD出たら教えてくださいね」だ。その新しいCDを作るためにもこのCDを売っているのだ、お願いだから買ってくれ。あれだけ必死になって曲を書いたのが馬鹿みたいじゃないか。
もう一度書くが、何が「また新しいCD出たら教えてくださいね」だ。
新しいCDにお望みの曲なんか絶対入れてやるもんか、ライブでも絶対に金輪際やらないぞ!
心配するな。もちろん絶対入ってるし絶対毎回やっているのである。
バンドマンなんてそういうヤツらだ。現金なものだ。
更には全ての曲でそんなトコロテンマジックが起こせれば良いのにと常に思っている。
ギターを持って鼻歌を歌ってメモ帳に向かうだけ、それを毎日30分で一日一曲。無理なく続けられるどっかの通信教育みたいだ。
そんな隠れた才能が私にあるのなら、隠れてないでとっとと出てきてもらいたい。
結局今夜も眠れずに、コーヒーとタバコの量だけがどんどん増えていく。
曲数もファンも売り上げも中々増えてはくれない。どうしたものか。