バンドマンのエレジー8

■バンドマン、一人じゃ寂しい■

アコースティックギターを一本持って一人でステージに立ち歌う形式を「弾き語り」と呼ぶ。もちろんピアノを弾く方もいらっしゃるしベースや他の弦楽器の奏者もいる。中にはドラムを叩きながらのステージなんかも見た事もあるが、早い話が人数と音数は少ないが何をやっても構わない、無限の可能性を秘めたスタイルだと私は思っている。筆者が長年活動してきている音楽のスタイルはこれだ。
本来、というよりも大多数の弾き語りのアーティストの方は洒落たコードに綺麗なメロディ、優しく弦を爪弾き時には激しく掻き鳴らし、胸よりやや下、もしくは腹にギターの中心が来るようにストラップを調整し、完成度の高い何ともムーディーかつ情熱的なスタイルで活動していらっしゃる。
中にはヘンテコリンでキミョウキテレツ摩訶不思議な世界観を持った型破りな方もいらっしゃるし、筆者もどちらかと言えばそっち側の人間なのだが、今回書きたいのはその話ではない。

そもそも自分でやっていて分かるのだがこの弾き語り、めちゃくちゃに難しいのだ。
根本的な技術の話も重要ではあるのだが、何よりもステージで最後の曲が終わるまでお客さんに見続けてもらう事が出来るか否か、たったそれだけにかかっていると言っても過言ではない。
そんなもの当たり前じゃないかと言われればそれまでだが、たったそれだけにも関わらずそれが一番難しいのだ。
何故か?単純な話、飽きるのだ。

バンドでの出演の場合、例を挙げるならばドラム・ベース・ギター・ボーカルと4つの音が重なりあう事になる。
この時点で見る・聴くポイントがたくさんある。
誰が自分好みの異性かなんて見方もあれば単純にどの曲がカッコ良いなんて事でも良い、ドラマーばっかり見てしまうなんて方もいらっしゃるだろう。
演者から見てもそうだ。MCで少し寒い空気を出してしまってもメンバーの誰かが助けてくれることもあるし、困ったら普段喋らないヤツに話題を振ってしまえば良い。例えばトラブルがあってベースの音が出なくなったとしても他の楽器の演奏は続いている。スタッフさんに助けを求め早急に解決して、何事もなかったかのように演奏に戻れば良い。
しかしいくら人数がいたところでうまくいかない事だってあるのに、これが一人で出演するとなると尚更そうはいかない。
お客から見えるのも聴こえるのもギターとボーカルだけ、喋るのは自分一人だしスベっても誰にも助けてもらえない。

そんな謎の緊張感だけが漂うステージで何らかのトラブルが起こっても周りからはわかりづらいし、歌っている途中だと助けも求められない。そんな空気感の中で助け船を出す方にもそこそこの度胸がいる。電車で席を譲る時の緊張感に似ている。
これでギターの弦でも切れようものなら悲惨なモノだ。弦を替えるにも間が怖いし、借りれるのが一番良いが借りれなければ半端な音で続けるしかない。そのうちに2本目を切ったりしたら目も当てられない。
簡単な話、本人の実力が100%ステージに出てしまうのだ。
例え技術が高かったとしても、よっぽど卓越したレベルで無い限りずっと見ていられるモノではないし、アクシデントがあったとしても柔軟に対応し、ライブの空気をうまく掴んでフィナーレへと運んで行く力が無いと飽きられてしまう。百戦錬磨の猛者こそがモノを言う過酷な世界なのだ。

そんな弾き語りというスタイル、ライブハウスの出演者という枠において少し雑な扱いをされている節がある。いや、正直に書かせていただくと捨て駒のような、簡単に言えば数合わせのような扱いを受けている演者が、かなりの数を占めている。実際筆者もそのような扱いを受けているなと感じるイベントに出た事は一度や二度ではないし、実際に数合わせのために起用しているライブハウスも決して少なくはない。
前述したようにこの弾き語りというスタイル、なかなかに難しい。バンドと比べるとどうしても見栄えという点に置いても見劣りしてしまいがちだ。
更にはギターが一本、体が一つあれば良いというお手軽さも手伝って、はっきり申し上げてしまうと見ていられない聴いていられない未熟な者でも気軽にステージに立てる手段になり得るため全体的にレベルの低い演者が多数を占めているのが現状である。

そんな未熟者の演者をブッキングに困っているからと声をかけ、とりあえずトップバッターに持ってくる。一番お客の入りが弱いであろう早めの時間に演奏させてとりあえずの時間稼ぎのように扱い、実質2番手からイベントがスタートしたかのようなヒドイ1日の始まりを、私は何度も何度も目にしてきた。全てのイベントがそうだとは言わないし素晴らしいライブを見せてくれる演者ももちろんたくさんいるのだが、確実にそういう用途で起用する日が少なくないということだ。そういう演者はステージを見てみればすぐにわかる。
と言うことは、ライブハウスにバンドを目当てに頻繁に足を運ぶお客からすれば、弾き語りのアーティストというのはただそれだけで「ハズレ」のような印象なのだ。早い話がナメられているのである。

決して良い風潮とは言えないしそれに対して苦言を洩らす演者もいるであろうが、私から言わせてもらえればそんなものただの甘えである。嫌ならやらなければ良いだけだし、本人の実力がないからそういった結果に繋がっているだけだ。
それでもしつこく数をこなして経験を積み重ね、どんな状況下であれ真っ向からぶつかって戦闘力を上げていく。そうやって人数・音数といったハンデをものともしない圧倒的なステージングを手に入れる事が出来るのだ。
そもそもバンドもソロも関係ない、本当に凄いヤツというのはどんなスタイルだったとしても本当に凄い事をやってのけるものだし、当然それなりの努力を重ねてきている。少しメロディセンスがあっただけの素人に毛が生えたような未熟者がそんなに早く手に入るような領域ではない。

頑張れ未熟者達。バンドの影に隠れていると思うかもしれないが、その影を作り出しているのは紛れもなく自分自身だ。
君のやろうとしている事はそんなに陰鬱とした環境でやるべき事ではない、もっと誇り高い精神であるべきだ。
もっと経験を積んでもっと涙を飲んで、いつの日か素晴らしいステージを皆に見せてやってくれ。

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