バンドマンのエレジー18

■バンドマン、個性が命■

以前アコースティックギターを持ちたった一人でステージに立つ弾き語りという、いわゆるソロアーティストについて書いたのだが、
この弾き語りという形態、別にわざわざ弾かなくても構わないし語らなくても良い。となると弾き語りというカテゴリーには入らなくなってしまうのだが、
早い話が何をやっても構わないのだ。
ステージでオリジナル曲のカラオケを流して歌っても良いし、ソロをずっと弾いているギタリストもいる。
ライブハウスによく来る人やバンドマンでなければその特殊さはよくわからないと思うが、いくつか例をあげてみよう。

とあるアーティストは上記のようにカラオケを流して歌う。
面白おかしいエスプリの効いたドぎついジョークを交えたコミックソングをお世辞にもうまいとは言えない歌唱力を補う力業と勢いのゴリ押しで観客を味方につけていき、パンツ一枚だけを身に纏いステージに立つのだ。もう50を越えたスキンヘッドのオッサンがだ。
さすがにメジャーアーティストほどの知名度はないが知る人ぞ知るその界隈の大物で、
歌詞の中身を明確に伝えられないのが残念だが、とある地域の大規模なロックフェスではかの有名なBEGINを差し置いて大トリを飾るほどの人気者なのだ。
私はその話を聞いて世の中には理不尽な事があるのだなぁと、静かに嫉妬の炎を燃やしていたのである。

とある友達のバンドが活動休止になった後にそこのドラマーが一人でステージに立ったと聞いた。
どんなライブをやっているのかと後輩に聞いてみると、マイクに向かって近鉄オリックスバファローズの応援をひたすら叫び続けていたらしい。持ち時間30分間、ずっとだ。お客にしてみれば地獄であろう。
彼との初めての共演の際はドラムを叩きながら「ロックンロール!」と叫びまくっていたが、途中でやはりオリックスバファローズを応援し始めた。ライブハウスじゃなくて球場に行くべきだ。
その日の打ち上げで泥酔した彼はそのビルの外にある神様の祠の前を盛大にゲロで汚し、朝方の帰り際にライブハウスのオーナーにしこたま怒られ掃除を命じられていた。
二日酔いで半泣きになりながら自動販売機で何本も買ったミネラルウォーターで吐瀉物を洗い流していた彼にホースとバケツを差し出す者は誰もいなかったが、
私はそんな罰当たりでおかしな彼が嫌いにはなれなかった。

二度ほど共演させてもらったのだが、ケーナという北欧の楽器の奏者で、民族衣装を身に纏いトークを交えながら演奏する方がいる。
その方は確かスイスだったか、現地にわざわざ招かれて演奏するようなその筋ではなかなかに名の通った方らしいのだが、個人的にはロックが大好きだという。
Queenを聴いて始めてロックに触れた時の熱い気持ちを語ってくださり、
「今からWe Will Rock Youをやります!」と言い放ち、あの名曲のイントロ通り足のストンプと手のクラップを一人で表現し、
ケーナという超個性的なアイテムを持っているにも関わらずなぜか一度も吹かずにワンコーラスを歌っただけで終わった。しかもおそらく一番大真面目に。
終演後、Queenの演目は前回もやっていたので、ロックが大好きだとおっしゃるその方と少し話したいと思った。
相手方の汗も乾かぬうちに申し訳ないが二度目の共演でもあるので少し挨拶させていただこうと楽屋に向かった。
あれだけQueenが好きだと熱弁しておられたその方が脱いだ北欧の民族衣装の下の汗ばんだTシャツにはでかでかと「The Who」と書かれていた。共演だった先輩にそれを話すと顔を反らしてクスクスと笑いをこらえていた。ひどいオチである。

他にも挙げればキリがないほど、奇妙というのか奇っ怪というのか、強烈な個性でステージにあがるそういう意味での猛者達がいる。
以前書いたエッセイて筆者のメインの活動である弾き語りも、どちらかと言えばそちら側のスタイルだと書いたが、
いざ他の演者の方々を文章に書いてみるといささかエピソードが弱い気がしてならない。私は私が思っているよりも全然まともなのだと少し安心した。

こんな事を書いた後に書くのは正直あまり気乗りしないのだが、次回はそんな私のスタイルや、それを始めてツアーに回ろうと思ったきっかけでも書こうと思う。個性という面では劣っているかもしれないがそこを目指していたわけではないので勘弁していただきたい。
そして安心して欲しい、スタイルが少し珍しいだけでちゃんと演奏してちゃんと歌っているだけだ。
今回書いたこんな変態共と一緒にしないでいただきたい。一応褒めてはいる。

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