マジでどうでも良い事つらつら12
■バンドマン、マジでぶっちギレる■
前回の続きである。
私の顔面にプッとレモンの種を吐きつけてきたKはいつものようにバカにしたような顔でニヤニヤと笑っていた。
顔に当たったレモンの種が地面に転がってコロコロと音を立てているのを見て、
これは今、目の前のコイツが、自分の顔に、吐きつけてきたものなのだな?
と、確認するや否や私は笑顔でハハハと笑いながらKの胸ぐらを掴み、狭い喫煙スペースへと力任せに押し込んだ。
誤解のないように言わせてもらうが、テキーラで酔っていたから怒ったわけではない。怒り方に差が出るだけでシラフであってもさすがに怒っていただろう。
私がハハハと笑っていたのでKはまだ冗談だと思っていたようだったが、
二十歳そこそこの世間知らずのクソガキにこんな事をされて黙っていられる程私は温厚ではない。
やってはいけない一線を超えてしまったのは彼である。
私は狭いそのスペースにKを押し倒し、髪の毛をひっ掴んで馬乗りになって思い切り平手打ちをした。
そこでやっとKの顔色が変わった、彼も必死に抵抗しようとはしたが、こうなってしまっては為す術はない。
ビンタも十分ダメだが拳で殴るのは絶対ダメだ、異変に気付いた店長が止めに入ってくれたおかげでそれ以上手を出さないで済んだが、私の気はまだ収まらない。
Kの若さゆえのその生意気な態度をこの店の大人達は許してあげていただけであって、認めてやったわけではないのだ。
10年ライブツアーで鍛えあげたこの喉で、飛びっきりの大声で、生まれついての関西弁と口の悪さで、そんなド正論を思い切り捲し立てた。
「やってええこともアカン事もわからんクソガキが生意気な真似さらしゃーがってアンダラァ!!
いつまでもこっちがなんも言わんまま黙っとる思とったら大間違いじゃボゲェ!態度だけはいっちょまえで中身スッカラカンやないけ!言われとることわかっとんか!
おんどれワシに何さらしたんじゃい、自分の口でハッキリ言うてみぃ!おぉ!?クラァ!!」
何を言っていたのかわかっていただけるか不安だが、大体こんな感じだ。
他人に対してこんなにもプッツンキレるのは本当に久しぶりだったためハッキリと覚えている。
店長の仲裁もあってKからも謝罪をされたので私は彼を放し、すぐに周りのお客さま方へ謝罪へ回った。
当たり前である。店長が事情を話してくれて、そりゃあKが悪いわとむしろ擁護していただいたし大事にならずに済んだが、それとこれとは話が別だ。
楽しくお酒を呑んでいらっしゃる雰囲気を私の怒号で台無しにしてしまった。
ちなみにKは私が手を離してすぐに何故かスタッフルームにもなっているロフトへと向かった。私が手を出してしまった事を謝ろうと様子を見に行くと、私に掴まれた髪の毛を撫で下ろしながら挙動不審な目付きでうろたえていた。
ここまでの剣幕で思い切り怒られた事があまりなかったのであろう。
私はまだ気が立ったままだったが、さすがに可哀想になり、これ以上彼を追及するのは辞めて一言すまなかったと告げた。
どんな場合でも、いくら相手が許されない事をしたからとは言え、TPOはわきまえなければ。
私は自分の気性の荒らさがこの歳になってもまだ消えていなかったのかとかなり落ち込んだ。
こんなんだから会う人会う人に怖い人認定されてしまうのだ。見た目だけだよそんなのーなんて言ってる場合ではない。
特に今は子供も産まれて多大な責任を背負わなければならないのだ。いい加減こういうのは卒業しなければ。
そして私はどんな時もいかなる理由があろうとも、金輪際テキーラを呑まないと決めたのであった。
余談だが、
その事件の後からしばらく、Kが私とまともに口を聞いてくれなくなった。
手をあげてしまったのだから私の方からも謝罪をしたのだが、
店の空気も悪くしてしまったかと思い店長に相談すると店長が一言こう言った。
「いや、それ単純にお前にビビってるだけだよ。」
グゥの音も出ない。大いに反省しなさい私よ。