バンドマンのエレジー6
■バンドマン、打ち上がり撃沈す■
今回のテーマはズバリ「打ち上げ」である。
バンドマンとして生きている以上、特に若いうちは避けては通れない登竜門と言っても過言ではない。
遠足は帰るまでが遠足、ライブは打ち上げが終わるまでがライブなのだ。
とは言ったものの、筆者の周りでは最近打ち上げらしい打ち上げがあまりないのが現状なのだが、コンスタントにライブをこなしてその度に打ち上げに毎回参加していたらお金がいくらあっても足りないので、この歳になってくると打ち上げがあっても辞退する事も増えてきた。こちとら既婚者である、妻の理解が深い事に甘えてはいけない。
ついでに言えば朝まで呑み明かす事は体力的にはまだ出来るのだが可能ならば避けたい。そろそろいい歳だ、おじさんは早く帰って寝たいのである。もっと上の年齢の先輩方からはまだまだ若いんだからと怒られるかもしれないが。
打ち上げにおいて最も重要なのは「誰と呑むか」である。
これは2つの意味においてそうだ。その日初めて共演した対バン連中と仲良くなるための儀式のようなものだが、ダサいライブをしていて仲良くなりたいとも思わないヤツと呑む酒ほど不味いモノはない。
どうせならお互いを認め合った気心知れた仲間達と酒を酌み交わしたいモノだ。時間を忘れて楽しくしっぽり呑む、なんと素晴らしい事か。これが一つ。
もう一つは命に関わってくる場合もあるので注意してもらいたい。いやほんとに。
どれだけ仲の良い連中と呑んでいようが初対面の人間と呑んでいようが関係ない、相手の酒癖が良いか悪いか、悪いとすればどのようなベクトルに悪いのか、実はこれが一番重要だったりする。
笑い上戸や泣き上戸など悪い内には入らない、下手すれば警察沙汰では済まない場合もあるからだ。いくつか例をあげてみよう。
汚い話になってしまうが酷い打ち上げの現場になってくると糞尿や吐瀉物のオンパレードになることもある。
脱ぎ癖のあるバカなヤツが突然脱糞したり居酒屋の違う席にいる女性達のテーブルに向かって放尿したり。吐瀉物なんて呑んでるヤツがたくさん集まっているのだから一人や二人は大体吐いている。
筆者も体験した事があるションベンビールがその良い例だ。いや良くない、酷すぎる例だ。
ションベンビールとは、対象者がトイレに行っている隙にその場でビールジョッキに小便を並々入れて気付かれずに飲ませるというものだ。ビールと半分の割合で入れるのがバレないコツだ。
人間かなり酔っ払っている時は味覚がいい加減になっていて多少味がおかしくても正直よくわからないのだろう。
さっきまで呑んでいた半分ほどしか残っていなかったビールがトイレから帰って来たら満タンになっている。合言葉は「新しいの注文しておいたよ」だ。
酔っている。酔っているのだからビールがどれだけ残っていたかなど些細な事だ。ついでに色もそっくりそのまんまだ。アルコールの匂いもそこそこ刺激的なので多少アンモニア臭が混ざっていてもはっきり言ってバレるはずがない。
最大の問題はビールがかなりぬるくなることだが、何度も言うようだが酔っている。酔いどれ達はそんな細かい事など気にしないのだ。
ちなみにこのションベンビール、実体験から言わせてもらうとめちゃくちゃ呑みやすいのだ。もちろんここまで語るからには私も呑んでいるし呑ませた事もある。うげぇ。
そもそもアルコール度数が高くないビールを更に半分に割るのだ。よく言えばジンジャエールの味がしないシャンディーガフのようなモノだ。トマトの味がしないレッドアイのようなモノだ。こちらから申告しない限り、もしくは申告されない限りバレた事はないし気付いた事もない。
我ながら思う。なんとアホな事をしていたのか。笑い事ではないのだが、呑ませた方も呑んだ方も腹がよじれるほど笑うしか逃げ道がないのだ。相手が酔っ払いじゃなければ下手すれば裁判沙汰だ。当たり前だ、愉快な酔っ払い連中相手じゃなければこんなもの軽い性犯罪である。
絡み癖がある人間と呑む時は本当に厄介だ。しかしいつも気になるのだが一体彼らは何にそんなに怒っているのだ?とにかく何もかもが気に食わないのであろうが相づちや質問をしただけで戦闘体制に入られてはたまらない。こっちはケンカしているつもりはない。
居酒屋の外に出たら出たで道行く人達とすれ違い様に片っ端から絡んで行く彼を、逐一止めて頭を下げる身にもなってほしいモノだ。
絡むならせめて身内だけにしてくれ。最悪ケンカになったとしてもよっぽどひどい殴り合いにでもならない限り後日謝れば一先ず一件落着だ。
そして他人に絡むならせめて相手を見てから絡んでくれ。相手を見てケンカを売るなんてダサいばかりだがこの時ばかりは話は別だ。とにかくどう考えても堅気ではないどう考えても酔っ払っている怖いお兄さん、しかも複数にだけはやめるんだ。もちろんその筋の方じゃなくたって怖い方々はたくさんいるのだ。
そんな集団の方々がこっちに向かって歩いてくる時は本当に胆を冷やす。どうか今だけは大人しくしていてくれと。残念ながらその願いを聞き入れてくれることは滅多にないのだが。
アルコール・打ち上げ初心者諸君にまず気を付けてほしい事は、「自分が何を呑めばどうなるか」ということを出来るだけ早く把握していただきたい。
大体記憶が無くなってしまう時というのは量の問題もあるがきっかけとなるアルコールをどの段階で呑んだのかがポイントになってくる。
ビール、日本酒、焼酎、ウイスキー、ワイン、カクテル。君の体に合わない酒を見つけ出すのだ。それを見つけ出す事が出来たら少しは身の安全を確保出来るだろう。
不思議なモノで呑む酒によって酔い方と潰れるまでの時間が変わってくるのである。度数が強い弱いというのもあると思うが。ハズレをひいてしまうとまぁ酷いもんだ、泣くわ喚くわ絡むわ吐くわ。
ちなみに筆者にとってのそれはテキーラとラム酒だ。そこそこの量の酒を呑んだ後にその二種のどちらかでも呑むとろくなことにならない。そもそも私はテキーラの味が嫌いだ。付き合いだとかその場のノリで呑む以外では絶対呑まないのだから、もうそろそろそんな理由で酒を呑む事をそもそも辞めにしなければ。
健康上の理由もあるだろうが未成年が酒を呑んではいけない本当の理由はおそらくこういう事だろう。
酔っ払って何かをやらかしても自分で尻拭いが出来なければ呑んではいけないのだ。いい歳こいたおっさんですら尻拭い出来ないどころか覚えてすらいないのだから子供は呑んではいけない。お酒は二十歳になってから。
ついでに言うならタバコもだ。イケないハッパやクスリは還暦過ぎてもダメだ。バンドマンのみんな、法律を守ろう。