バンドマンのエレジー14

■バンドマン、古巣を語る■

若かりし日の事。
大阪はなんば・千日前の地下にあり、毎月のようにお世話になっていたライブハウスがあった。
もう無くなってしまって現在はアイドル専門のライブを行っている場所になっているみたいなのだが、
筆者が最も面倒を見てもらって、バンドマンたるや!どころか人間としての道筋すらも叩き込んでいただいたと言っても過言ではない、
古きよきライブハウスの近寄りがたさで小汚ない、不良のにおいがプンプンする昔気質なイカした店だ。
この店で何度涙を流して、どれほどの量のビールを呑み、何回トイレでゲロを吐いただろうか数えきれない思い出がある。

ここのボスである社長がそれはもうおっかない方で、
私の最初の記憶は初対面の時の事ではなく、たった二回目の出演の時に「ライブがダサイ」という理由でぐうの音も出ないごもっともなお説教と共に胸ぐらを捕まれて怒られた事であった。
明日が仕事だからと終電で帰ろうとすると、「明日1日しんどいか、今からめちゃくちゃ楽しい時間を過ごすかどっちがええねん!」と凄まれ、もとい問われ、社長が何を伝えたいのかもわかっていなかった私は恐怖に怯え居残りを決意したのだった。
その日から本当に出席出来ない日以外は毎回その店で朝まで過ごしていた。
思えばそのおかげでたくさん人生を無駄遣いする方法を教えていただいたし、
その後の人生を左右するほどのバンドマンとしての礎を築く事になったのだ。

そんな風に毎回出入りしていたので、ある夏の日に社員旅行に誘っていただいた。
他にも何人かいたバンドマンとスタッフでの大所帯だ。終電でライブハウスに集合し、買い物をしてから兵庫県は淡路島まで車で向かった。
二台のハイエースでの移動中の信号待ち、先頭の車に乗っていた私達の後部座席のドアを、後ろの車を運転していたはずの社長がガチャリと開けエアガンをババババ!と乱射してきた時の悪魔のような笑い顔が、そんな楽しい社員旅行の始まりの記憶だった。

まだほの暗い早朝の淡路島に到着した我々はブラックバス釣りをするために溜め池へと向かった!、
私は昔からバス釣りを嗜んでいたので自前だが、何とも多趣味な社長が用意してきていたので未経験の人達全員分の釣竿があった。
炎天下の中で午前中一杯釣りを楽しみ(ろくに釣れなかったが)その後はショッピングモールで食糧や酒を調達し淡路島の海へ向かいバーベキューと海水浴だ。

島へ来る途中で寄ったドンキホーテでの買い物の中に、ジョークグッズであるとてつもなく際どい水着があった。
股関に「愛」の字がデデンと書いてあったり、ほとんどヒモのような全くイチモツが隠れていない水着を海水浴の際に男性陣全員に配った。
私の分は買ってくれなかったのだが、「お前用の水着はもう用意してあるから」とお預けをくらっていたのでワクワクして待っていると、
私に割り振られたのはエロ本のおまけであったという明らかにサイズの合っていない女子用スクール水着であった。
そんな私が小脇に抱えているのは浮き輪代わりの「みゆき(18歳)」という名のダッチワイフである。同じくスクール水着を着ているダッチワイフを片手に海へと突撃していく姿はさぞおどろおとろしい絵面だったであろう。
ここでその扱いがおいしいと感じている時点でだいぶ感覚が狂っているのだが、
ほとんどの男性が際どい水着であり、その中に一際体のゴツいモヒカン男がスクール水着を着ている異様な集団で大いに海水浴を楽しんだ。
後輩を砂に埋めてヒモパン男がその顔面へと股関を押し付けたり、ナンパに行かせたりと散々笑い転げて(今ではガッツリコンプライアンスにうんたらかんたらと言われてしまいそうだが)、
バーベキューにて散々肉を喰らい酒を呑み大満足に遊び倒したのだ。

近くの温泉でベタベタする体を洗い流し仮眠を取って帰路へついたが、
寄り道しながらまた遊んで帰った事もありライブハウスに到着した頃には既に日付を越えていて、
終電などとうに無い私達はそのまま朝まで再び酒盛りをして楽しんだ。
まさに24時間体制でシャレにならんほど遊び狂い、そのまま始発で家へ帰りそのままバイトへ向かった。
本当に死んでしまうんじゃないかと思うほどフラフラの帰り道、自転車で大こけして人様の庭の植木に頭から突っ込んだのは今となっては良い思い出である。

その旅行の時の動画を皆で共有出来るようにと、撮影者である社長がYouTubeにたくさん上げてくれた。
これは後日社長から聞いたのだが、YouTubeの運営から連絡がきて、
なんでも上げている動画の中でとてつもない再生数を稼いだものがあるので利益が取れるという話だった。
何の動画かと確認してみるとスクール水着の筆者と、際どい水着を着た私と同い年のスタッフが映っている動画で、もちろんそいつは男性であるが、
何とゲイの方々からの視聴でうなぎ登りに再生数が増えていたのだ。
「すげーなコレ!」と彼と二人で大笑いしながら話していたが、どちらが人気を博しているのかという話になった時になぜか二人して俺が俺が!と軽く張り合っていた時の心境が、我が事ながら未だに全く理解出来ない。

そんな彼も私も今や結婚して父親になった。
そのYouTube動画の件がその後どうなったのかは知らないが、今は削除されていて見ることが出来なくなっている。
若気が至り過ぎていて何ともギトギトした一夏の素晴らしい思い出であるが、
非常に汚ならしいあの姿を我が娘に見られる事はないのだと、ほんの少し安心しているのは内緒だ。

いいなと思ったら応援しよう!