「雇われない働き方」とメンタルヘルス | うつ病と甲状腺機能低下症を併発した話 #4
こんにちは。早いものでうつ病の診断を受けてから約3ヶ月半が経ちました。病気に関する記事もこれで4本目です。スキ、コメント、サポートなどありがとうございます!
じつは、診断を受けてからしばらくの間はnoteを書くか迷っていました。「病気を公表したらもう仕事に戻れないかもしれない」という恐怖があったからです。
あらためて振り返ってみると、私は常に悩みを抱え、不安に突き動かされるように生きてきました。特に仕事面では顕著で、うつ病もそうした日々の考え方・行動の積み重ねの結果であるように感じています。
今回は「雇われない働き方にまつわるメンタルヘルス問題」がテーマです。前半は私がフリーランス・経営者として働く中で抱えた数々の不安や悩みを振り返り、後半はメンタルヘルスに関する世論調査を紹介しながら「雇われない働き方」の実情について考えてみました。
前半は読み飛ばしてもらっても大丈夫です!後半は、さらっとでも目を通してもらえたら嬉しいです。
「雇われない働き方」を振り返る
不安に負けたフリーランスの幕開け
私がフリーランスになったのは今から約3年半前、2021年春のことです。
独立の理由は、あまりポジティブなものではありませんでした。「自分の実力を試したい」「名を馳せたい」といった熱意はほとんどなく、仕事量を減らして少し休憩したい……という気持ちが強かったです。忙しく働きつづけて心身ともに疲れ切っていた私にとって、フリーランスは休息と自由を兼ね揃えた働き方のように思えたのです。
最終出社日の4ヶ月前には上司に退職を伝えていたので、新しい生活への準備期間はじゅうぶんでした。今思えば、それがよくなかったのかもしれません。私はある日を境に、急に金銭面・生活面への不安を抱えるようになりました。
休憩するために収入減も覚悟でフリーランスになると決めたはずなのに、「家賃やクレカの支払いは大丈夫かな」「もし収入がゼロになったらどうしよう」と頭の中は不安だらけで、退職日が近づくにつれて大きく膨らんでいくようでした。
結局、私は休むことを諦めて、不安をかき消すように仕事を求めるようになりました。退職2ヶ月前には複数の企業と業務委託契約を締結して、フリーランスとしての滑り出しは順調だったと思います。取引先やお仕事を紹介してくださった方々には心から感謝しています。しかし、私のフリーランス生活が「不安への敗北」から始まったことも事実なのです。
「キラキラフリーランス」に憧れて
フリーランス生活はたしかに自由でしたが、休息はそう多くありませんでした。締切に追われ、条件交渉や経理など慣れない作業も多く、常に慌ただしさを感じていました。また、少しでも暇になるとすぐに「やっていけるかな?」と不安になってしまい、心の面では不自由でした。
さらに、私はだんだんと理想のフリーランス像を描くようになりました。仕事を楽しんでいて、明るく前向きで、責任感にあふれる「キラキラフリーランス」を目指すようになったのです。
フリーランスは、基本的にバイネーム(指名)で仕事を得る働き方です。「〇〇さんに△△の案件を依頼したい」といった指名数の多さは仕事量と収入に直結しますし、私の経験上、引き合いが多ければ多いほど好きな仕事も選びやすくなります。
当時の私は、指名をもらう自信がこれっぽっちもありませんでした。実績はない、能力もない、今ある仕事だっていつ失うかわからない。世の中にこれだけ多くの同業がいる中で、誰が「あなたにお願いしたい」と言ってくれるのだろう……とかなり悲観的でした。現実にはきちんと依頼をもらっていたのに、なぜか不安で仕方ありませんでした。
「キラキラフリーランス」への憧れは、こうした自己肯定感の低さと劣等感から生まれたものです。
実績や能力がないなら責任感や丁寧さを強みにするしかないと考えて、きっちり仕事をするようになりました。幸いにもスケジュール管理は得意で、報連相や締切厳守においては一定の自負がありました。しかし、あくまで「減点の埋め合わせ」でしかなく、能力の低さを連絡の丁寧さでギリギリ補填しているような気持ちでした。
性格も決して明るいわけではありません。SNSにはいいことも悪いことも正直に書きたいです。でも、悪いことばかり書いたらいけない気がして、体調不良はなるべく隠してポジティブな投稿を心がけていました(前掲のスクショのように、時々不安や愚痴を吐いていましたが……)。
こうした振る舞いだけが原因ではありませんが、フリーランスを始めて1年経つ頃には長期の精神的不調を経験しました。仕事のことで自分を責めては落ち込んで、生活もままならなず、仕事もセーブせざるを得ませんでした。でも、すべての仕事をやめて休養する決断はできなかったんですよね。手放したらもう戻れないんじゃないかと、休みを恐れていたのです。
経営者になって加速した「偽り感」
友人とともに法人を設立し、肩書きが会社代表に変わってからは、憧れを超えて「自分を偽る」感覚が強くなっていきました。
会社の規模が極小だったこともあって、働き方はフリーランス時代とほぼ変わらず。引き続きバイネームでご依頼いただく機会が多かったため、自分自身や会社のアピールもひとつの業務だと捉えていました。SNSを見てお声がけいただくこともあったので、行動自体が間違っていたとは考えていません。
問題は、それらが絶対条件化された点にあります。
極小とはいえ共同代表含めてたくさんの関係者がいるので、もし会社が傾けば私だけでなく他者の生活にも影響が及んでしまいます。となると、私個人の発言や行動が会社にとってのマイナス要素になる状況は、なんとしても避けなければなりませんでした。
たとえば、精神的不調を表に出したら「体調悪いのか、じゃあ依頼するのやめておこう」となるかもしれない。仕事の愚痴を吐いたら、面倒くさそうな人だと思われるかもしれない。経営の悩み事を口に出したら、取引先や関係者を不安にさせてしまうかもしれない……。
私は仕事への悪影響を恐れて、自らに対して言論統制を行うようになりました。同時に「キラキラ経営者」的な振る舞いも加速して、SNSでもそれ以外でも、不安を吐露できる場はどんどん少なくなっていきました。
特にXではキラキラを装いがちで、本来の自分とはかけ離れた人物像を自らつくっている不思議さがありました。それが地味に苦しかったです。
自分をよく見せるために始めたキラキラムーブは、いつしか本音を隠し、ゆるやかに自己否定する行為になりました。自己否定に走ってしまっては、いくらお金があったとしてもすこやかに暮らせるはずがありません。そもそもの優先順位がおかしかったことに、私は気づけませんでした。
フリーランス・経営者は私にとって少々荷が重い働き方でしたが、その要因の多くは私自身の歪んだ考えにあります。「そもそも向いていなかった」と言われても反論できないけれど、不安の大元に向き合わなければ、たとえほかの働き方を選んだとしてもつまずいていたでしょう(会社員時代も劣等感や自責の念に苛まれて、たびたび不調に陥っていました)。
私はこれからも働きたいです。だからこそ今はしっかり休んで、自分自身を認めて、許せるようになりたいです。そして、自分にとってよりよい働き方を模索できたらいいなと思います。
フリーランス・経営者のメンタルヘルス事情
さて、ここから後半です。世の中のフリーランス・経営者はどう思っているのか知りたくて、それぞれのメンタルヘルス事情について調べてみました。
フリーランスの過半数が精神的課題あり
フリーランスの健康に関するアンケート調査を見てみると、「日々の仕事の中で、メンタルヘルスに課題を感じることがありますか?」という質問に対して19.2%が「よくある」、35.7%が「時々ある」と回答しており、全体の過半数が心の不調を抱えていることがわかりました。
一方で「自分の生活や仕事のスタイルは、健康的だと思いますか?」という質問には42.2%が「あまり思わない」、16.2%が「思わない」と答えており、メンタルヘルス含む健康へのケアは不十分な様子。
周囲のフリーランス仲間と話していても、健康診断を受けていなかったり、深夜稼働・休日返上当たり前な生活を送っていたりと、自身の健康に無関心な人(あるいは過信している人)が多い印象を受けます。フリーランスこそ身体が資本なんですけどね……!
別のアンケート調査では回答者の約4割が「仕事・職業生活についての強い不安がある」と回答しており、具体的なストレス対象として「収入」「仕事の安定性」等を挙げています(「総括研究報告書」より)。
また、フリーランスにとっての金銭的不安は、さまざまなストレスに派生しうると考えています。「収入減をおそれて条件の悪い仕事を断れない(条件交渉できない)」「クビを切られたくなくて取引先に要望を言えない」「体調不良でも仕事を優先し無理をしてしまう」等々、仕事上のオーナーシップや人間関係、健康状態に悪影響を及ぼす可能性があり、私自身もこうした悩みを抱えたことがあります。
多くの場合、フリーランスは会社員と比べて時間的自由を得やすい働き方です。「働きやすくなった」「人生が充実した」と感じる方もたくさんいるでしょう。
その一方で、労働関係法令(最低賃金制度や労働時間規制)が適用されず、生活が不安定になりやすい・商流の中で弱い立場に置かれやすいのも事実です。近年は、インボイス制度の導入による一方的な取引中止等も問題視されています。「フリーランスだからこそぶつかる困難」は、たしかにあるのです。
フリーランス人口の拡大と労働環境の実態を受けて、2024年11月1日には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」、通称「フリーランス保護新法」が施行されます。
契約条件の明示が義務付けられるぶん、著作権やキャンセルフィー等をどこまで厳密にするか?という問題も出てきそうですが、味方にできれば心強い法律なはず……!
フリーランスのすこやかな働き方については今後も考え、学びつづけたいです。
経営者は、お金のことで悩みがち
続いて経営者編です。アンケート結果の前に所感をお伝えすると、私は経験してみて「経営者は悩みが尽きない!」と感じました。フリーランスとほとんど変わらない働き方をしてた私でさえ、経営者になってから悩みの数は倍増しました。
中でも特に気にかけていたのが資金繰りです。経理を担当していたからかもしれませんが、キャッシュフローを毎日確認しては半年先までの動き方を考えて、数字を見すぎて気分が悪くなる日もありました。
では、世の中の経営者たちはどう感じているのでしょうか。全国の経営者(社長・CEO)300名を対象としたアンケート調査では、「経営者になってから心の不調を感じたことがありますか」という問いに対し、47.3%が「ある」と回答しています。
さらに、心の不調の要因をたずねる設問では、じつに45.1%の経営者が「資金繰り」と答えています。そのほか上位を見ても、2位「将来の見通し」44.4%、3位「業績」31.7%とお金に対する不安の強さがうかがえます。これが経営者のリアル……。
正直、私のような制作業で、イニシャルコストのかからない業態(編集等)はまだいいほうだと思います。自社事業や製品を持つ企業だと先に出ていくお金も多いだろうし、よりシビアに資金繰りを考えないといけないはずです。
不安や悩みを吐露できない経営者も多い印象です。「悩みを相談できる相手や場所はありますか」の質問では、「家族」「友人・知人」に続き、3位に「ない」がランクインしています(全体の24.7%が回答)。
私も、知り合いの経営者から「経営について相談できる相手がほしい」という話を聞いたことがあり、悩みや不安を抱え込みやすい立場なのだと感じました。
「雇われない働き方」はいい面だけが強調されている?
私は、「雇われる働き方(会社員)」と「雇われない働き方(フリーランス・経営者)」を比較して、後者のほうがよりつらくて苦しい、と主張したいわけではありません。その人の苦しみはその人だけのもので誰かと比べる必要はないし、立場や働き方によって不安や悩みの中身が変わるのは当たり前です。
では、なぜこんな記事を書いたのかというと、フリーランス・経営者の「いい面」だけが強調されていると感じたからです。
たとえば、私の大学時代の友達は新卒入社した会社に勤めつづけている人が多く、久しぶりに会うとかならず「社長(フリーランス)なんでしょ?すごいね」と声をかけてくれます。お世辞だとしても、「独立」のイメージがよすぎる点には違和感を覚えます(ひとつの会社に長く勤めることもかなりすごいと思います)。
また、X等のSNSで流れてくる「フリーランスになったら自由時間も収入も増えた✨」(要約)という広告も、微妙な気持ちで眺めてしまいます。「※一個人の感想です」なら間違っていませんが、まるでメリットしかない働き方のように読み取れます。
どうしてそんなにフリーランスや経営者をキラキラさせたがるのかとずっと不思議でした。でも、今回の休養で、私自身いい面しか見せてこなかったことに気がつきました。
さらに、キラキラを装った自らの言動こそが、私が肌で感じていた「不安や悩みを言いづらい空気感」をつくる要因のひとつだったのではないか、とも考えています。
一仕事終えたらSNSで告知するとか、実績をまとめるとか、フリーランスや経営者たちは「こうしたほうがいいのでは?」というなんとなくの規範を持っている気がします。私もほかの人を参考に正解をなぞるように振る舞っていましたし、絶対そんなことないのに、仕事に関する不安の表明はNG行為だと感じていました。
内なる声を無視しつづけることでつくられる空気感があるのだとしたら、私もその空気感をつくったひとりです。
不安を言い合える世の中を願って
私は、不安なときに「不安だ〜!」と言える世界、それを互いに受け止めて助け合える世界のほうが、ずっとやさしいと思っています。不安や悩みを抱えることは悪ではないし、「感情をコントロールできてこそ一人前」というのも違う気がします。
このnoteは、そんな「不安を言い合える世界」への願いを込めて書きはじめました。#1の冒頭で「目的は病気の認知拡大と心の整理」だとお伝えしましたが、裏テーマは「フリーランスや経営者の実情を伝えること」でした。
ひとりの人間が不安を抱えて潰れていくさまを見せることで、連帯やケアの必要性を問いたかったし、「不安を言えない」空気感に抵抗したかったのです。
今は自己満足的な発信しかできませんが、この先も自分にできることがあれば行動していきたいし、そもそもどんな世界を目指したいかも問いつづけていきたいです。
#1から今回までで、あらかじめ書こうと決めていたことは書き切りました。なので、今後は治療の進捗があったときや何かトピックがあるときだけ更新しようと思います。
書くことは今の私にとってセラピーでもあるので、引き続き自由に楽しく無理ない範囲で続けていくつもりです!