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パン屋の おはなし あのねこの頃彼の表情が
この頃彼の表情がしずんでいます。心なしか作業場の雰囲気もいつもより静かです。
ましてや相手がダンマリのマサくんともなれば、そうそう言葉数も増えやしません。
彼がしずんでいる原因は彼女にあるのです。彼女の体調がここ2・3週間どうもおもわしくないのですワ。
『ムリさせてきたからなあ』
彼の頭の中には店探しから今日までのことがよみがえります。・・・・・とても心配・・・・ですよねエ・・・
「あんまり心配しないで。あなたが心配するようなことじゃないから」
そういって、ついさっき病院へでかけていきました。
『心配しないで』っていわれたって・・・ねえ・・・・心配だよねえ、うんうんわかるよ。
今日はどうしたことかパンたちも息をひそめているようです。午後になり、彼は店番をマサくんにまかせたものの、店と作業場をいったりきたり・・・窓の外をながめてはため息をついています。
めずらしくマサくんが口を開きました。 そうそう励ましてあげてよぉ。
「だんなさん」
「ん?どうした?」
「・・・うっとうしいです」
「・・・ごめん」
ありゃりゃああ
彼はすごすご作業場へ戻っていきました。マサくんが帰ってまもなく彼女がもどってきました。売り切れたパンのトレーが目立ち始めたので、いつもより2時間ほど早かったのですが、彼は店を閉めることにしました。
店を閉めたあと二人はレジの後ろの壁に寄り添ってもたれかかりました。彼は内心ドキドキです。大きな病気でないことを祈るばかりです。
秋の陽が高台にある作業所の窓に今日最後の姿を反射させてキラキラしています。
おやっ 彼女 ちょっと背伸びをして彼の耳元に何かささやきましたよ・・・・ ・・・・・ ・・・・・・ 彼ったら帽子をとり髪の毛をクシャクシャにしながら・・・ なんだか照れくさそうに・・・・
聞こえませんか?パンたちの歓声とひやかしの歌声が・・・・