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10 Mame Kurogouchi

雲ひとつなく梅雨ももう明けそうだというカンカン照りの日に、弾丸で長野まで行ってきた。善光寺を目の前に臨む場所に新しく建てられた長野県立美術館。目的はMame Kurogouchi 10周年記念の展覧会だ。

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自分自身の大阪個展まで一週間を切っているというスケジュールの中、その日しか都合が合わせられなくて、でもこの展示会に行かないという選択肢が私にはなく、休憩を挟みながら5時間近い道のりを長野まで出向いた。

建物に入る前からポスターを見つけて既に心にグッとくるものを感じた。自分のことではないけれど、初めて六本木の小さなギャラリーで展示会を開いていた時から mame 歴10年の一友人としては感動すら覚える。

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この展覧会さほど規模は大きくないけれど、ものづくりに関わっている人、そういったことに興味がある人には、チャンスがあるなら是非見て欲しい。アパレルに限らずどんな分野でもきっと得られるものがあると思う。だからこそ自分も忙しい時期だけれど、会期が8月15日までと迫っているのでこうして発信しておきたいと思った。

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展示を見ながら夫が最初に言った言葉が面白い。「マメちゃんは曲線が好きなんだね」と。その通りなのである。彼は私が普段着ている mame 以外見たことがなかった、でもショーケースの服たちから感じたものは”曲線”。

初めて同じクラスになった2年生の時、自己紹介で彼女は「ゴールドと曲線が好きです、よろしくお願いします!」と言っていた。なぜだかその言葉が印象に残ってずっと忘れられないのだ、そんな自己紹介始めて聞いたから。そして15年以上の月日が流れ彼女は相変わらず曲線で表現していた、初めてマジマジとmameの服を見た ”ファッションをよく知らない男性” から見ても印象的なほどに。

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私は学生時代校内で行われるファッションショーの全てを企画という立場で関わっていた。年度末には必ず修了制作をショー形式で発表するのだが、彼女の作品はもちろんデザイン性にも優れているのでラストシーン候補だった。誰もがハッと目を引くような藤色のドレスと、ペアで製作されたメンズのセットアップ。

でもこの時のことが私は今までずっと心に引っかかっていたのだった。彼女は自分のサイズで製作し自分がモデルになって歩くつもりでいた。学生とてクリエーターは自分の理想があって当然だ。でも通常ラストシーンは一番の見せ場で背の高いモデルを使う。今でこそ「モデル=背が高くて細い」という概念は取り払われつつあるけれど、その時はそれが当たり前。そしてアパレルデザイン科という学校を代表するような科で先生達も”ショー”として完成度を高くすることに、おそらくプライドもあって躍起になっていた。

だから身長の低い彼女がラストシーンを歩くことは鼻っから却下され、別のモデルが選ばれた。そして彼女は泣いてしまった。

本人は覚えていないかもしれないがものすごく申し訳なかった。私が悪いわけではないし代理のモデルも仲がいい友人。先生達のプライドや都合に生徒の想いが振り回されただけなのだけど、企画長という立場をもってしても、結局は私も挟まれてしまって力になれなかったことが悔しかった。

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でもこの10周年の展覧会を見るとその時のイメージがそのまま残っているのだ。毎シーズン沢山の作品を作っている中で展示されるのは各シーズンのアイコニックだったものだけ。それでもあの時のドレスのシルエットがそのまま使われている作品があり、そしてあの時の藤色も度々登場する。

なんだか嬉しかった。どんどん有名人になって行くけれど変わっていない。

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なぜ今この展示をするのか、彼女の口から聞いたことはない。でも入り口に「ご挨拶」として短くまとめられた文章の中にその答えが見えるような気がした。これから行く人にとってのネタバレにはなりたくないが、これだけはシェアすべき言葉だと思うから敢えて掲載しておきたい。むしろこれを読んで見に行きたいと思ってくれる人が一人でも増えたらそれだけでもいい。

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『洋服を生み出すというということは長い時間を要するということ』

当たり前だけど本当にその通りなのである。

『私達の10年の旅路を辛抱強く共にしてくださった職人や作家の皆様をはじめとした、全ての方々へ限りない感謝と賛辞の意を代弁するものとなりますことを願っています。』

この三行の文章に全てが詰まっていると思った。

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今回の展示には彼女が書き溜めてきた膨大なノートが展示されている。インスピレーション、刺繍の図案、どんな夢を見たか、誰と会ったか、など私的な内容を多く含む彼女のクリエーションの根元が見られる。

なぜ”今”これまで見せてこなかった服作りのプロセスをプラベートな側面も交えて展示するのか?

今ファストファッションよりも先を行ったスーパーファストファッションという概念が台頭してきていて、ZARA、ユニクロを超える規模に成長している。ZARA はコレクションが発表されてから2〜3週間で"パクリ商品" を出すことでより早いトレンドを作り、物議もあったが、6ヶ月なんで長すぎると考える現代人のスピード感にフィットした。

だがそれを超えて3日で"パクリ商品"を出す会社が現れて支持を集めている。どちらもものづくりベースの会社ではなく、あくまでファッションを使ったビジネスやテック企業だ。3日で服が出来るという脅威的な事を始めた会社が台頭してきている一方で、服を作るのには時間がかかるというメッセージ。

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ここで言う「服」とは体を保護するための衣服ではなく「大切にされるべき服」だ。

彼女はいつも美しく表現をする。社会問題を捉えていても最終的に魅せるものは美しい。mame x uniqulo のコラボアイテムに見るデザインやカラーリング、モデル選び、ビジュアルの作り方は明らかに人種差別といった問題を投影しているように見えた。でも決して直接的な言葉で批判をせず、服と世界観で美しくポジティブに『意識させる』この展覧会もそうだった。

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もう一つ思ったこと。長野でやってくれて良かった。

ものづくりはその創り手の背景が見えると更に理解度が高まる。私よりも先に行った方から「アジアの中でも日本でしか産まれないデザイン、そして日本の中でも海のない山に囲まれた県の出身の方が作られたことがなんだか象徴的だった。」と聞かされていた。

実際にその通りで、よく彼女は自分の幼少期を「野山を駆け回っていた」と言っていたっけ。それはインタビューを読めば文字で書いてあって、なるほどと思うわけだけれど、実際長野に行ってみるとどうだろう?

本当に美しい山々に囲まれている。東京で生まれ育った私にとってみれば日常に”山” はない。そういうことはこの目でみる解像度の高さに勝るものはなく、この場所に生まれ育った人だからこそこのアウトプットなのか、と感心することは別のクリエーターでも多々ある。

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mame の路面店は2020年の3月6日、偶然にも私の誕生日に羽根木にオープンした。元々焼き鳥屋だった場所を改装した小さな店舗。聞こえてくる音や見える景色は日々mameのスタッフが感じているものと同じで、「地産地消みたいにしたい」というイメージが良くわかる。これまでのラグジュアリーの概念を追わない mame らしい哲学だ。

それは長野という場所で行われる展示も同じ。これが東京のど真ん中で行われたら、感じられることは少し違うはずなのだ。クリエーションの背景を知ってもらうこと、意識してもらうこと、それはファンにとってはこの上なく楽しいことだし、ものづくりへのリスペクトに繋がる。

少しでも多くの方に mame というブランドが伝えようとしていること、取り組んでいることに耳を傾けて欲しいなと思う。

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ちなみに上の写真の黒いコートを私も持っているのだけど、一度も着て出かけたことがない 笑。まだまだ今ほどブランドが大きくなかった頃の作品だかからこそ、こうして飾られてデザインした時のストーリーもシェアされて、それを持っている人が世の中に何人いるのかと思うとなんだか嬉しいな。



音声でも配信していますので良かったら聞いて見てくださいね⬇︎

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《 UP COMING EVENT 》

大阪個展 MOEMI SUGIMURA x SELSHA 
2021.7.22(木)~7.25(日)
at 心斎橋 ギャラリー佐々木商店

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