10月1日~10月3日 奥穂高岳へ
9/30深夜~10/1
21時半頃家を出て上高地へ向かう。中国道、名神から東海北陸自動車道へ。揖斐川、各務原、関etc,etc・・・岐阜県の地名にわくわくする。長良川PAでトイレ休憩しようと車外に出るとトラックゾーンに車を停め、車の後ろに正式名称がわからないが4本柱のテントを立てて椅子を並べて陣取っているDQN集団がいる。子供の騒ぎ声がするので家族連れなのだろう。珍獣を見てみたい気持ちもあるが醜いモノを視界に入れたくない気持ちが勝つ。
先に進み眠気が来たのでひるがの高原SAで仮眠。夜明け前起きだして再出発。ナビゲーションなしでさわんど駐車場まで行けるかと思ったが高山ICを降りてすぐ細い道に間違えて入ってしまい、路肩に停めてGoogleマップ起動。
安房峠トンネルを通過しバスターミナル下のさわんど駐車場へ。上段満車の表示が出ているが数カ所空きがあるので上段に停める。細かい雨が降っている。雨の出発になりそうだなと思いつつ再び仮眠。今日は上高地から2,3時間歩くだけでいいのでゆっくり出発するのだ。車は特に車中泊仕様にしていない普通のコンパクトカーだ。後部座席でシートベルトの留め具の上にクッションを置いて膝を曲げて寝る。化繊のシュラフをかぶって特に問題なくぐっすり眠れる。登山口でちょっと仮眠のつもりが6時間ぐっすり寝て出遅れたこともある。
7時半に起きて支度してバス乗り場に向かう。雨脚が少し強くなっている。マットとヘルメットを外付けしたクソデカザックにレインカバーを被せると謎の巨大な物体を背負っている人になる。往復のキップを買ってバス列に並ぶ。雨だが綺麗な服を着た観光客の姿も多い。
バスは順調に上高地に着き、ここで登山届を提出する。遅出発なので上高地食堂で朝定食を食べていくことにする。和食と洋食があってどちらも1200円。和定食の味噌汁が具沢山で美味しい。
小雨降る中河童橋を渡って岳沢湿原へ。バードウォッチングの一団が高価そうなカメラを構えて木の上を狙っている。見れば確かに鳥がいるようだが遥か高い樹上の鳥の姿は肉眼ではよく見えない。
自然散策路を離れて登り道へ。樹林帯の中、特徴は感じられない道だ。傾斜はあるが急登というほどではない。特に楽しくもない・・・樹皮に生えた苔は豊かで綺麗だが、展望も無く単調に感じる。途中雨も止んだし暑くなったのでカッパを脱ぐ。二時間近く登ってようやく振り返れば上高地方面、梓川や帝国ホテルの赤い屋根が望めるようになった。
正午を回って岳沢小屋に着きテント泊の受付をする。曇り空の下テラスでカレーなど食べている人もいる。テント場へは沢を渡ってすぐだ。登山道の脇のスペースに点々と張りスペースがある。ちょうど一張り分の広さの、通り道から若干離れたプライベート感のある所にテントを設営し、買い物がてら小屋に戻ってテラスからの景色を見る。雨は止んだが肌寒く焼岳は雲の中だ。ビールを仕入れてスパゲッティを作って昼食兼夕食。食べ終わったら急に眠くなって30分ほどテントで寝落ち、目が覚めると妙に明るい。外を見るとさっきより空が晴れてきていて途切れた雲の間から焼岳、霞沢岳が姿を見せていた。
持参した赤ワインとミックスナッツと文庫本で夜を過ごす。明日は一日ほぼ晴れ予報、楽しみだ。
10/2 重太郎新道~吊尾根~奥穂高岳~涸沢
昨夜はあまり寒くなくよく眠れた。夜明け前に外を見たら月が出ていて地面が見えるくらい明るくて驚いた。
棒ラーメンの朝食を食べて、夜明けと共にテントを撤収してヘッデンが要らなくなると同時に出発。最初は草付きの坂道を登っていく。少しだけ見えている稜線が朝日を受けてオレンジ色に光っている。
のどかな登り道は最初だけで、すぐに両手を使わなければ登れない岩場が連続するようになり、長い梯子も現れる。岩場は足がかりがぱっと見ではわからない箇所も多く、また重い荷物を背負った体を引き上げるのに難儀する。先行きにやや不安が出てくる。まだ樹林帯の中で、時折紅葉している木もあるが殆どは緑色をしている。
カモシカの立場に着くといよいよ稜線が近くなってきて、岩の山に挑んでいるのだと気持ちが昂ってくる。急峻な斜面に夜の名残りのように薄雲が走るが空は晴れている。
二段梯子に岩場が次々と現れ、必死で登っていくと岳沢パノラマに出る。岳沢小屋の赤い屋根がほぼ真下にあるように見えて挑戦中の重太郎新道がどれだけ急な道なのかを改めて思い知る。雲海から焼岳が頭を出している。上高地は朝靄の中だろう。
その後も急登に次ぐ急登をひたすらよじ登り、長い鎖の張られたスラブに出る。今日は岩も完全に乾いて滑る心配はないだろうが、なんとなく怖い。これまでの急な登りの洗礼を受けてビビリモードに入っている。そういえばいつもはそんなに怖いと感じない登りの梯子も今日は怖かった。よくないな、と思うが気持ちの奥の部分をコントロールするのが難しい。メンタルが負け気味。鎖を掴んでよいしょよいしょとあえて声を出しながら進んで紀美子平に到着。
紀美子平では腰を下ろして休憩している人も多い。これまでは急峻な狭い道のめ、落ち着けるのはカモシカの立場とここくらいなのである。
ザックを下ろして羊羹でエネルギー補給して、サブザックに水と上着だけ入れて前穂高岳の山頂へ向かう。前穂へはすぐ着くかと思っていたら結構ハードな登り道で手を使うところも多い。標高3000mにもなるので酸素の薄さに息切れがする。しかし天気は最高、眺望も最高、たどり着いた前穂山頂からは富士山の姿も。梓川の流れを眼下に見下ろすことが出来るのが感動的だ。徳澤のあたりが見えているのだろうか?明神岳が手が届きそうなくらいに近い。ロープを張って登っているクライマーの姿が見える。その向こうには常念山脈。
向きを変えれば穂高の雄々しい山塊から槍へと続く稜線。南へ目線をやれば乗鞍岳の山容の美しいこと。強い風が吹きつける山頂だが景色は見ても見ても見足りない。
360度の絶景を楽しんだあと紀美子平に戻り、再びザックを背負って出発。ここから岩を乗り越えるようにして吊尾根に入るところが一番怖かった。左にバランスを崩せば谷底に落ちて行ってしまう。鎖など補助になるものは無く慎重に岩を掴んで乗り越えなければならない。身軽な装備ならなんてことはないが重い荷物で体重移動がうまくできず、恐怖心が頭をもたげてくる。完全にビビリモードに支配され手がかりに自信が持てず何度か戻ってはトライを繰り返し涙目でクリア。
吊尾根は奥穂山頂まで登り基調で続いているのが見通せてなんともダイナミックな道だ。しかし途中道幅が狭い所もあるので注意が必要だ。谷側を見ているとなんだか吸い込まれそうな感じがする。少しの躓きやバランスの崩れが命取りになる。朝から緊張が続いていることもありかなり疲労を感じるようになってきた。ザックを下ろしての休憩はしないが、腰かけられる岩があるとすぐに座ってしまう。予定していた時間よりかなり遅れてきているのも気になる。体のしんどさは空気の薄さの影響も大きいだろう。頑張って歩くが完全に亀の歩みと化す。涸沢カールを見下ろせる場所に出たときは感動した。涸沢ヒュッテが、テント村が、涸沢小屋が箱庭のようだ。
バテバテで歩きながらなんとか鎖場をよじ登り、細い稜線から開けたところに出た。もうすぐそこが奥穂高岳の頂だ。
やっとのことでたどり着いた奥穂高岳山頂。ジャンダルムの迫力に息を呑み、山頂の祠に手を合わせたら他の登山者と写真を撮りあう。山頂で居合わせた男性はこれからジャンを往復し、日の入りの写真を撮ってから山荘へ戻るのだと話している。ジャンの頭に数人の登山者が立っているのが見える。私があの場所に立つ日は果たしてやってくるのだろうか?憧れはもちろんあるが・・・
広い山頂を後にして穂高岳山荘への下りの岩場と梯子は妙に怖いというか、結構降りにくい。特に梯子はネットの山行記事を見ても高度感を感じるという人が多い。山荘前のテラスで少し休憩。吊尾根の途中から迷っていたことだが、今日は涸沢まで下りずに奥穂でテントを張ってしまうか、それとも予定通り涸沢へ降りるか決めなければならない。しばし悩む。時間はかなり押しているが日没までには降りられそうなのと、風がかなり強いこと、また今夜は冷え込む予報が出ていて稜線上の奥穂のテント場はかなり寒いのではないかという懸念があるので涸沢へ降りることに決める。
ザイテングラートをのろのろと降りていく。足腰にかなり疲労が来ているのを感じる。なるべく早く降りたいが体がついてこない。途中出会った涸沢から往復のカップルにどこから登っているのか聞かれて岳沢から前穂を登ってきたというとすごーい!めっちゃ登山家ですね!と一点の曇りもない笑顔で褒められてしまう。恥ずかしい。こんな疲労困憊で登山家なんてとんでもない。申し訳ない。消えたい。
日没寸前、やっとのことで涸沢のテン場まで下り切り、場所を選ぶ気力もないので適当に空いてるある程度平らな場所にテントを張る。もうテン場の出張受付も終わってしまっているのでヒュッテまで出向き、遅くなってすみませんと小さくなりながら受付を済ませる。今夜の宿は地面に岩が出ていて少し斜めだが寝る向きをいつもと変えればなんとかなるだろう。自販機でビールを確保しイカスミパスタの夕食。
今夜は結構なテントの数だが何張くらいあるのだろうか。まだまだ人のざわつくテント村の夜景を眺め、北穂小屋の明かりを見上げる。北穂の山荘は険しい岩山に必死にしがみつくように建っていて、よくあんなところに建てたもんだと思う。暗闇の中に光る北穂小屋の灯りを見ていると自然の中のヒトの存在の儚さ、と同時に痛ましいほどの確からしさを感じる。それが何とも言えず切なくて、いつ見てもどこから見ても胸の奥に鋭く突き刺さってくる。
夜も更けてくると冷えこみを感じるようになり、お湯を沸かしてボトルに入れた簡易湯たんぽをシュラフに入れて寝た。
10月3日 モルゲンロート・上高地
昨夜は何度か目が覚めたがまぁ十分眠れた。しかし地面に岩が出ていてそれを避けるように寝ていたため少し体が痛い。
今日の日の出は5時半過ぎ頃、そして涸沢と言えば穂高連峰のモルゲンロートなのである。棒ラーメンを食べて出発の支度を済ませつつ薄明るい外に出ると涸沢ヒュッテのテラスにはもう人が集まって穂高が朝陽に染まるのを待ち構えている。5時35分頃から徐々に山肌がオレンジ色になり、見ているとどんどん赤く輝くような見事な朝焼けになり歓声が上がる。
感動的な朝を迎えられたことに感謝しテントを片付けたら下山を開始する。両足がパンパンに筋肉痛で歩きにくい。ストックを突いてほてほてと下る。横尾本谷が近くなると高齢者の団体がいっぱい上がってくる。紅葉の最盛期には少し早いが、皆紅葉目当てで来ているのだろう。すれ違いがしょっちゅう発生し待ってあげたり先に行かせてもらったり。今度の土日は大変な混雑になりそうだ。
特に何事もなく横尾へ。橋に今日の日付のバスのチケットが落ちていたので一応横尾山荘に届けておいた。退屈な林道を一時間も歩いて徳澤着。レストランでポークカレーを食べる。ここのはさらっとしていて美味しいのだ。定番のソフトクリームはもう涼しいので食べなかった。そしてまたひたすら歩いて明神へ。ザックを置いて穂高神社に参拝する。今日は人が多く遥拝所に行列ができている。私は昨日山頂を直接拝しているので並んでまで遥拝はさすがにいいだろう(笑)奥に進んで池のほとりから明神岳を拝んで無事下山を感謝するにとどめる。明神池は静謐という言葉がよく似合う。観光に来ている人も自然と声を抑えて話しているように感じたが気のせいだろうか?
小梨平が近づくと人のざわめきが増し、バスターミナルは混雑していてああ、帰ってきちゃったなと少し寂しくなる。少し待って沢渡行きのバスに乗り込み駐車場に帰る。
さわんどバスターミナルではぜひ解決しておきたいことがあった。去年上高地を訪れた際(北穂に登るつもりだったが天気が悪く涸沢で一泊しただけになった)、ここのタクシー乗り場に迷子の子猫が保護されていて、その猫ちゃんのことがずっと気になっていたのだ。タクシー乗り場で番をしている若い女性は去年もいた人とは限らないが思い切って訊いてみる。なんと彼女は去年子猫の面倒を見ていたまさにその人で、件の子猫はこの近くの猫好きの人の家に引き取られていった、他の元保護猫たちと幸せに暮らしていると教えてくれた。なんともハッピーな山行の締めくくり。よかったね。
その後は定番のひらゆの森で温泉に浸かり、赤かぶの里で漬物なんかを買って高山ICから高速。渋滞にもはまらずに順調に帰宅。
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