フットボールを生きる街 #15 夕陽
15
“Quien no ha visto Sevilla, no ha visto maravilla.”
「セビージャを知らない者は、まだ何も知らない」
セビージャは、太陽の似合う街だ。太陽に愛され、太陽を愛する街だ。だからこそ、この街が太陽に別れを告げるひとときもまた、この上なく美しい。強く気高いこの街が一瞬の切なさと儚さをのぞかせる夕暮れに、何度胸を打たれたことか。
サンチェス・ピスフアンのバックスタンドから見る夕焼けが、特別に好きだ。
屋根の淵に切り取られた西の空が、鮮やかに燃えながらだんだんと暗くなっていくのを眺めていると、心地よい浮遊感とともに、自分はいま、世界一美しい場所にいるのだという確信が生まれる。
夏のナイトゲーム。試合へと向かうざわついた高揚感は、夕焼けによってドラマになった。冬のデイゲーム。試合が終わり、家路へと急ぐ人の波を横目に、席を立つのがなんとなく名残惜しい気がして空を見上げると、やはり大きな夕焼けが広がっていた。勝敗やゴールの数ではなく、夕陽の美しさで記憶に残る試合が、このスタジアムには多すぎる。
夕日がじんわりと溶けていくメインスタンドの屋根を見て、地平線のようだ、と思ったことがある。
西日を纏ってクラブのイムノを歌うゴール裏を見ていると、そこが5万人たらずの閉じた世界であることを忘れてしまいそうになる。少なくとも、この場所は決して、90分間の区切られた時間のために存在しているのではないのだということを、スタジアムから見る真っ赤な空はいつも思い出させてくれる。
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夕焼けのきれいな街が好きです。夕焼けのきれいなスタジアムが好きです。
セビージャで美しい景色やすばらしい人々やおいしい料理に出会うたびに、「ああ、わたしは何も知らなかったなあ」と思っていました。そしてたぶん、まだまだ知らないものがたくさんあるんです。だからいつまでもわたしはあの街に惹かれ続けています。
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