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瓶のコーラって、なんであんなに美味しいんだろう

 私はお酒が弱い。
 飲んだら大抵体調が悪くなる。頭は痛くなるし、酷いと気持ち悪くなってしまう。そのため弱い酒しか飲まないし、量も飲んだことがない。酷い酔っ払い方をしたこともない。なぜなら、量を飲むのが怖いからだ。
 酔ったかも、と思うくらいテンションが上がることもあるのだが、そういうときは友人と一緒に飲んでいるときなので、ソフトドリンクしか飲んでいないときも同じくらいテンションが上がる。たぶん酒ではなく場に酔ってる方が大きいだろう。
 そんな私は、お祭りやイベントごとがあっても酒はほとんど飲まない。屋台ではビールやらハイボールやらが売っているが、買うことは無い。というかたぶん買ったことがない。
 唯一、仙台七夕花火祭に友人たちと見に行った際、コンビニでチューハイを買って飲みながら歩いたことがあったが、普通にちょっと気持ち悪くなった。暑い中飲みながら歩くものではないなと思った。
 だから、いつも買うのはソフトドリンクだ。その中でも選びがちなのが、瓶のコカ・コーラ。日常生活の中ではあんまり見かけることのなくなった、あのちょっと特別感のある瓶のコカ・コーラ。それがクーラーボックスの中で氷水の中に沈んでいるのを見ると嬉しくなってしまう。
 量にすればたった190ml、それがお祭り価格で200円から300円。コンビニに行けば高くても180円で500mlのペットボトルが買えるのを知りつつ、私は機嫌良く屋台のお兄さんに100円硬貨を渡すのだ。
 空気の抜ける景気の良い音を立てながら目の前で瓶の王冠を外してもらって、「はいお姉さん、楽しんでね!」と笑顔で手渡してもらう、あの瞬間。そこから、私のお祭りは始まる。マジで私はそう思っている。
 飲みながら歩くのは得意ではないので、ちょっと端の、邪魔にならない場所に避けて。よく冷えたコカ・コーラを流し込む。なんともいえないあの甘さ、開けたてでほとんど抜けていない強炭酸が唇に、舌に、そして喉に、強烈に弾けながら下っていく爽やかな感覚。そして鼻に抜けるコーラの独特の香り。
 私は前述の通り、お酒が飲めない。ついでに、煙草は吸うのに酒の味が苦手という、大人なんだか子供なんだかよくわからない舌を持つ。そのため、「暑い中飲むビールが最高なんだよ!」というお酒好きの言葉がよくわかっていなかった。
 だが、暑い中飲むよく冷えたコカ・コーラの最高さを、知っている。
 たぶん、想像でしかないが、きっと同じなのだろうと思う。よく冷えたビールを一気に3分の1くらい流し込んで、ぷはあ、と息を吐く瞬間。それときっと、私がコカ・コーラを飲む時の気分は、同じとまでは言えないかもしれないが、似ているものだとそう思う。
 そんなわけで、今日も私は瓶のコカ・コーラを買った。
 仙台七夕まつり。毎年8月6日から8日までの間、仙台中心部のアーケード街は色とりどりの吹き流しで彩られる。私は仙台中心部の辺りで仕事をしているため、毎年「うわあ、混雑に巻き込まれてしまう」と憂鬱な気分になるのだが、なんとなく、今年は違った。
 たぶん、夏の気配を良い意味で感じ取ったからだ。
 数日前。私は恋人の車に揺られていたのだが、ちょうど仙台の自衛隊の駐屯地で行われていた花火大会に立ち会えたのだ。
 最初は、雷かと思った。
 実を言うと、その前日の夜は物凄い雷雨で、何かが爆発したんじゃないかというくらい凄まじい雷が鳴っていたのだ。私は雷が大の苦手で、毎回雷が鳴る度に現実逃避の意味合いも込めて「これは雷じゃなくて花火だよ」と友達に言っている。尚友達は皆優しいため、雷が鳴り始めると「ごめん花火が」と言ってくれる。
 そのせいで隠語と化した「花火」の二文字を私が誤認したわけだ。しかもちょっと低めの雲がぴかぴかと光っていたため、私は恋人の言った「花火」を誤認し、「まだ雷雲残ってたのかよ勘弁してくれ」と思っていたのだが。
 近付くにつれ、その正体が見えてきた。
 それはまさしく花火だった。
 しかも、花火を打ち上げているその目の前を通ったため、大きくはっきりと見えている花火。真下から見る花火は驚くほど綺麗で、私の心を一気に「夏」へと引きずり込んだ。
 そうして思い出した。
 仙台七夕まつり。それが開催される前日の8月5日は、毎年「前夜祭」として花火を上げるのだ。例年50万人が訪れるというその花火を、私はどうしても見に行きたくなって。


撮影:iPhone7
iPhone7が若い子たちの間で「エモい写真」が撮れると話題ということで、ちょっと限界に挑戦してみたくなった。結果は惨敗である。

ええ、行って参りましたとも。

 場所は仙台城跡。青葉城址とも言われるあの場所である。
 見に行くにあたり、良い場所はないかと調べていたら「仙台城跡はおすすめ!」という記事に出会ったため、「なるほど確かにあの場所で見たらそりゃ綺麗だわ」と思い即決した。
 私は絶望的な方向音痴であるため、1人で行くとなると常に迷子になる危険性を孕んでいる。そのため良い感じに迷子にならずに行ける方法はないかと探したのだが。

あるじゃん、最高の手段が。

 運賃260円。逆回りはなく一方方向にのみ周るシティループバス。しかも仙台城跡目の前にバス停がある。なんとお誂え向きなバスなんだろう。ありがとう杜の都。ありがとう仙台。良い場所です。宮城においでよ、1日乗車券は600円だよ。
 そんなこんなで行く手段も確保し、ちょっと早めの15時に着くように家を出て、ちょっと仙台駅でご飯を食べてから、「今日はおひさまカンカン照りだしいけるっしょ~」と駅を出てバスターミナルに向かおうとしたのだが。


8月5日、仙台駅前

いやめっちゃ曇っとる。

 どうなるねん、私の花火。(お前のではない)
 まあそうこう言いつつ、なんとかるーぷる仙台に乗るバスターミナルを見つけ(見つけるのが困難なほど方向音痴である)、


るーぷる仙台。古風なデザインの良い車体だ。

 いざ乗車である。
 ちなみにその便の発車ギリギリに辿り着いたため、最後尾の方で乗った。
 8月、たぶん観光シーズン。バスの中はすし詰めという言葉が相応しいほどぎゅうぎゅうで、浮かれた観光客の楽しげな話し声が絶えなかった。その中で、親切な運転手が大きく曲がるときは声をかけてくれたり、次に止まるバス停では人がたくさん降りることが多いから注意する旨を伝えてくれたりしていた。
 私はバスに乗る回数が少なく、いつも電車なのだが、正直ちょっとバスの揺れを舐めていた。めちゃめちゃ揺れる。というか大きく曲がったりカーブしたりしていた時、車体がちょっと斜めになっていたのは気の所為だっただろうか。たぶん気の所為だろう。私が斜めになっていただけだ。
 おかげで、現在すっかり、つり革を掴んでいた右腕が筋肉痛である。というか1回大きく揺れた際に右脇腹も痛めた。自らの虚弱さを突きつけられた形である。もうちょっと丈夫になろう、燃滓よ。
 瑞鳳殿前で乗客の殆どが降りて、私はようやく座席に座ることができた。ほとんど乗らないバス、ほとんど通ったことのない道。同じ県、普段いるのと同じ市の、同じ区であるのに、ちょっとした冒険気分だ。
 さとう宗幸の歌った「青葉城恋唄」の一節にも出てくる広瀬川を眺め、バスは次第に山の中へ入っていく。左右を流れるのは青々と茂った木々。バスの中に聞こえる人々の話し声や、バスのエンジン音。それらがあるにも関わらず、バスの中に蝉の声が滲むように聞こえていた。
 そうして降り立った、仙台城跡。
 来るのは何年ぶりだろうか。たしか、学生の時に遠方の友人と遊びに来た以来ではないか。
 久々に見る、伊達政宗公の像。そして、その向こうでは、仙台の街が一望できる。まさに風光明媚な観光スポット――――


いや天気わっっっっる

 一応言うが、私は雨女ではない。たぶんない。おそらくない。きっと普通に運が悪かっただけだろう。
 しかし、やはり久々に見る景色は大いに楽しめた。ちなみに15時に場所取りを始めたが、普通に最前列は埋まっていた。聞こえてきた話によれば、なんと朝の6時から場所取りをしていた一行がいたらしい。なんとも素晴らしい。流石に私はそこまでの行動力はなかった。
 そうして、長い長い時間待ちが発生するわけだ。私はスマホ用の三脚を立て、「まあこの三脚がずらされたり位置を変えられたり盗まれたりしたらそのときはそのときだな」と思いつつ、ふらふらとその辺りを散策したり煙草を吸いながら待っていた。ちなみに1ミリもずれていなかった。治安が良すぎる。
 そして、やっぱり飲むものは……。


やっぱコーラだよねーーー!!

 瓶コーラが売ってなかったので缶コーラである。祭りはやっぱり、これがないと始まらないのである。いやだってみなさんも考えてみてくださいよ、お酒好きならわかるでしょう? ビールなかったらお祭り始まらなくないです? それと一緒ですってたぶん。私の場合はビールがコーラになるだけであって。マジで祭りはやっぱこれがねえとなあ!!
 いやいやでも、「祭りといえば」でもう1つ名前が挙がるものもありますよね。コーラじゃなくても「これ!」ってものがあります。皆さんわかりますか? おわかりですよね。


やっぱこれもないとねーーーーー!!

 ラムネである。夏の代名詞と言っても過言ではないだろう。あの爽やかな飲み物、ラムネである。
 ちなみにこちらも200円した。お祭り価格である。焼きとうもろこしの屋台でおじちゃんに声をかけて買った。売っててよかった、ラムネ。
 ということで、美味しくラムネやコーラを飲みつつ、煙草を吸いつつ(5本くらい吸ったかもしれない。ちなみにちゃんと喫煙所に行きました。よかった喫煙所設置してくれてて)、待つこと4時間ちょっと。


 花火が始まった。
 胸に、いや、体に直接音が響くのを久しぶりに感じた。目の前で大きく弾ける花火は美しく、周りから上がる歓声は心を周囲と同調させたと思う。同じように、私の口からも思わず声が出ていたからだ。
 気温は28度。東京や西の方に比べれば涼しい方ではあるが、宮城の夜と考えたら暑い方の気温。じとりと蒸し暑い空気、しかも周辺は人々が集まっていて、屋外とはいえより蒸し暑いといえる。
 そんな蒸し暑さは、目の前の花火が意識の外へと投げ捨てて、一緒に打ち上げて、消してしまった。
 しかも、日が出ているうちはどんよりと低い位置にあった雲も、花火をしているうちに徐々に晴れ、紺色の夜空が顔を覗かせていた。花火は雲すら打ち消してしまったようだ。
 こんなに美しい花火を見たのは、いつぶりだっただろう。
 たぶん、学生の時、一眼レフを持って塩竈みなと祭前夜祭の花火を見に行った以来か。
 そんなわけで、すっかり夏を満喫した気分になって、迎えに来た恋人の車に乗って帰宅した。ちなみに恋人は仕事で予定外に予定外が重なったらしく、着いた頃にはすっかり花火が終わっていて残念だった。美しさを共有する誰かがいてくれたら、もっと楽しかったと思ったが。
 しかし、夏を満喫した気分だったのだが。


夏はまだこれからである。

 8月もまだ上旬で、何を夏を満喫した気分になっているのか。
 そんなわけで、私は仕事終わりに仙台中心街へと向かった。当然、仙台七夕まつりを見に行くためである。
 そして、買ったのが冒頭の瓶のコカ・コーラ、というわけである。
 たぶん「お前にとっての最上の飲み物は」と聞かれたら、私は迷いなく「瓶のコカ・コーラ」と答えることだろう。あんなに美味しいものを、他に知らない。
 夏のお祭り。蒸し暑い夏の夜。浮かれた人の波を眺めながら飲む、瓶のコカ・コーラ。冷えた瓶の口が唇に当たる感触。冷たいコカ・コーラが、強く爽やかな炭酸と一緒に喉に滑り落ちて、ぱちぱちと弾けながら、一時的に蒸し暑さを心地良いものとする。
 そしてそれを片手に、私も浮かれた人の波の一部になって、一緒に飛沫になって、一緒に泡になる。片手の瓶コーラの泡みたいに。
 たぶん私は明日も行くんだろう。まだまだ夏が遊び足りない。また瓶のコカ・コーラなり、ラムネなりを買って、ぼんやりと人々を眺めるんだろう。
 色とりどりの吹き流しが風に揺れて、ふわりと舞い上がる。じわりと暑い湿気を帯びた風で少しだけ涼みながら、冷たいコカ・コーラで乾杯をする。
 夏はまだ終わらない。
 猛暑を通り越して「酷暑」と名付けられた令和の夏。涼しい方の宮城でも、軒並み30度超えの気温が続いている。周囲では暑さと、それに伴う憂鬱を語る人々が増えた。私も、その中の一部だったのだが。
 でもまあ、今年はこの夏でも、大いに楽しもうと思った。

 もちろん、熱中症には大いに気をつけながら、だが。


 ところで、今まさに「炭酸」にまつわるイベントがnoteにて行われているらしいが、主催がアサヒらしいので、ちょっとタグ付けは見送ることにした。いや、流石にアサヒ主催でコカ・コーラの話をするのは……気が引けるかなって……。

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