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過去の話5



一年遅れで私に春が来た
定時制なので制服はなくて
私服登校だった

クラスは3つだけ
夕方から夜までの授業で部活もある

入学式の時周りを見回したけど
私を見て笑っていた子達はいなかった
面接で落とされたらしい

学校は私が思っていたイメージとは少し違った
私は定時制は大人が通う学校だと思っていたけれど
意外と私と同じか一個下の子達が多い
見るからに大人って感じの人は
クラスに1人いるかいないか
私より上の学年にはちらほらいたけど。

私は高校卒業の資格さえ取れれば
それだけでいいと思ってた
でも振り替えって思えば
一番楽しい学生生活だった
友達もたくさん出来た
恋人もはじめて出来た
たくさん色んな思い出がある


一年生
引きこもりで学校に行っていなかった私は馬鹿だった
一言で言って馬鹿
勉強が全く出来なかった。
悔しくて情けなくてたくさん勉強した

最初の小テストは10点くらいだった
それから勉強したおかけで
80点くらいとれるようになった
放課後も残って先生にわからない所を教えて貰って
たくさん勉強をした
同じような真面目な子達と友達になった
はじめての友達

部活も誘ってもらってはじめた
最初は演劇部
次に生徒会執行部
結局演劇部は辞めて生徒会だけにした

高校生にもなると
恋愛の縺れで友情にヒビが入る事もある
とてもくだらないことだけど
喧嘩もしたし仲直りもしたし
色んな思い出がある

生徒会の部活はとても楽しかった
学校生活はとても楽しくて
きっと中学も周りが同じだったら
楽しかったのになって思った

環境が変われば人も変われるんだ

私はよく笑うようになった
人の目を見て話が出来るようになった
自傷癖は相変わらずだったけれど
同じような悩みを持つ子達もいて
たくさん話をした

私は高校に行くまで
私だけが不幸だと思ってた
私が一番不幸で可哀想だって

定時制には色んな家庭の事情で
学校に行けなかった子達が多い
私だけじゃなかったんだって
そのときはじめて気づけたんだ

上を見たらキリがない
下を見てもそれは同じ
横を見てみたら同じような境遇の人間もいる

辛くて悲しいとき
世界に独りぼっちになってしまったような
錯覚に陥る
誰もいない
誰も救ってくれない

そんなときは視野が狭いだけなんだ
周りを見たら手をさしのべてくれる人はきっといる
辛いときは辛いって言っていいんだよ

二年生のときはじめて恋人ができた
生徒会の先輩で
大人だった
二十歳過ぎの大人
それだけで好きになった笑
当然上手く行かない
すぐに別れてしまった
でもこれも良い経験だ。

学校生活はとても楽しかったけれど
母は相変わらずだった。
喧嘩は激しくなっていた
私が反抗するようになったからだ

遅れてやってきた反抗期
母の病気は酷くなる一方で
月に二回くらいは自殺未遂をするようになった
処方された薬を溜め込んで
一気に飲み干す
そのたびに私は救急車を呼んで
母の介抱をする

いい加減にして欲しかった
それでも兄がやっていた事だから
私が代わりに
やらなくてはいけない事だと思っていた
自殺した兄の気持ちがよくわかった

母はいつも薬をたくさん飲んだ時
兄の話をする

母の一番のお気に入りの子供
私とは違って出来の良い子供
兄が一番だと兄に会いたいと
母はいつも口にしていた

私は兄のようになりたかった
でもなれなかった

高校三年生の夏休み
私は生徒会長になっていた
夏休みでも部活はある

その日、母と酷く喧嘩をした

死にたければ死ねばいい

私はそう言って家を出た

帰ったのは夜遅く
日付が変わる一時間前
母の事は着信拒否にしていた

家の前についた時
窓に灯りがないのが気になった
胸騒ぎがした
急いで玄関のドアを開ける
家は真っ暗だ

母の部屋の電気をつけたら
母はベットで血だらけで寝ていた

息はしてなかった
爪の先が青くなっていた

震える指で携帯をひらく
救急車を呼ぶ声は震えていた
上手く住所が言えない

人工呼吸をしてください
私は出来ない
泣きながら
心臓マッサージだけしてた

ああもうダメなんだって
そのときわかった

救急車が来て母が運ばれる
救急隊員は無慈悲にも現実を突きつける
病院に運ばれて警察も来た
泣きじゃくる私に婦警さんが
優しい言葉をかけて抱き締めてくれた

お医者さんが感情の無い声で
もう亡くなって一時間近くたちますね
手続きをしたいんですが、
大人の人はいますか?
言い放つ

この時私は19歳だった。

大人なんて母しかいないよ
どうしろって?
とりあえず故郷に戻っていた
兄に電話をかける
明日には札幌に行くと言って切られた

次にすぐに思い付いたのは
担任の先生の顔だった

夜中の1時過ぎ
電話には出てくれなかった
その次に部活の顧問の先生に電話した
すぐに出てくれた
15分くらいでかけつけてくれて
担任の先生にも話をしてくれて
二人で来てくれた

強く強く抱き締めてくれた
震える私の手を握りしめて
なんとも言えない顔で
よく頑張った大丈夫か?大丈夫じゃないよなって
そのうち一緒に泣いてくれた

この時の私は
なんとかしてこれから先
生きていかなくちゃいけないって
言っていたらしい
前向きな言葉を言えるお前は凄いよって
誉めてくれた


母が死んだ
本当に死ぬと思ってなかった
何故だか母だけは
死なないと思っていた自分がいた

本当に独りぼっちになってしまった
それでもやらなくてはいけないことはたくさんある

時間は進むし地球は回る

私の心を置き去りにして
時計は時を刻む

止まってくれれば楽なのに
何故母は私も一緒に連れていって
くれなかったんだろう
悲しみよりも怒りや不満が心を満たしていた



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