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ありがたいけど少し複雑な「ムズング特権」


「ムズング」

それは"umuzungu"というキニヤルワンダ語で、「肌の白い人」という意味だ。


ルワンダで歩いていると、

「ムズング!ムズング!」と大はしゃぎな子ども。

「あら、ムズングだわ」とこそこそする大人。

「やあ、ムズング!」と声をかけてくる兄ちゃん。


名前を呼ばれないことに寂しさを感じるときもあるが、特別不快に感じるわけではない。


というのは、現地の人々に悪気はないということが分かるから。


首都キガリならムズングはよく見るが、首都を離れると本当に珍しい。

私はキガリからバスで2時間半のところに住んでいるが、街の中心でたまーーーーーーに観光客の欧米人を見るくらいだ。


道を歩けば、どこからか「ムズングーーーー!」と呼ぶ声が聞こえ、声が聞こえた方を見ると子どもが手を振っている。

時には、右から左からムズングコールを受け、まるで王女のような気分で笑顔で手を振りながら歩くこともある。



まあそんなこんなでムズングというだけで人気者なのだが、今回はムズングが明らかに現地の人々より優遇されていると感じる「ムズング特権」を紹介しようと思う。


ムズング特権が適用される場面は大きく2つあって、それはバスと病院だ。


【ムズング特権 バス編】

列車がないこの国では、徒歩以外の交通手段はバスになる。(タクシーはキガリ以外ではほぼ見ない)

キガリや他の郡に行こうとすると、必然的にバスを使うことになる。それは現地の人も同じ。

だから、欲しいバスチケットが買えないことが結構ある。9:00のが欲しいと言っても一番早いので11:00とか。



…という基本情報を述べた上で、今まで私が経験した特権を挙げていく。




なんやかんやで早い時間のチケットもらえる特権

例えば、朝8:30に「できるだけ早い時間のバスに乗りたい」と言ったとする。「次は早くて10:30だ」と言われる。そこで、えー…と困っていると、「お前は友達だから」と、どこからか9:00のチケットが出てきて売ってくれる。

こんなことが何回もあるから、
「チケットナーヨ(ない)」と言われたら、
とりあえず

「ええぇーー」

とびっくりリアクションをする。それか、早く乗りたそうな顔をしてしばらくそこにいる。そうすると、言われた時間より早いチケットを買うことができる。



ムズングは席を優先してもらえる特権

ルワンダのバスの中はこんな感じ。

いつもぎゅうぎゅう


最後列と左側2列、右側1列はまあいいのだが、真ん中の補助席はつらい。

補助席は背もたれが小さいし安定していない。

おまけに、自分よりも後ろの列の人が降りるときは、その度に立ち上がっていすをたたみ、どかなければならない。

バスに乗るときは大体荷物が多いので、ぎゅうぎゅうの中で立ったり座ったりするだけで煩わしい。

補助席が嫌なのはルワンダ人も同じみたい。

そして、運転席の反対側、いわゆる助手席がルワンダでは一番いい席とされているらしい。自分が降りるまでどかなくていいし、他の席よりも少し広い。

その席は真っ先に埋まるし、軍人さんが乗るときは優先してそこに乗せるらしい。(事故があったときに危ないのもその席だからJICA的には微妙だが)


ムズングがバスに乗ると、「あっち(助手席)に座りな」と、優先していい席に座らせようとしてくれることがある。

乗るのがぎりぎりで、定員最後の一人でしたー。ドア付近の補助席でーす。 

ってときも、

「このムズングが困ってるでしょうが!」

みたいな勢いで他のお客さんに呼びかけてくれることもある。(全然困ってない)

また、自ら席を代わってくれるお客さんもいる。



③ムズングは不正を見逃される特権

首都キガリから私の任地であるニャンザに帰るとき、私たちが使うのは「ニャブゴゴバスパーク」というバス停だ。通称ニャブゴゴ。

このバス停は、ルワンダでは珍しく、アフリカらしいゴミゴミ感を味わうことができる場所である。人が多く常に混雑していてる。乗客と物売りが行き交い、徐行するバスのすれすれを歩く。トイレは臭く、空気が悪い。そして何故だかいつも暑い。



このニャブゴゴで、いつもバスチケットを買うのに苦労する。

まずチケット窓口にたどり着くまでが一苦労。


年末のニャブゴゴ(これは異常)



そこに「並ぶ」という秩序はない。郷に入っては郷に従えの精神で、「我先に」と客同士のおしくらまんじゅうに突入しないと窓口まで辿り着けない。

割り込みしようとしてきた人をひじでブロックし、強気に進むことでようやく「ニャンザ(私の任地)に行きたいんやけど次のバス何時?」と聞くことができる。


そんなに混雑しているわけだから、当然早い時間のチケットを買うのは難しい。16時に聞いても次のチケットは17時半とか。19時なんて言われることも多い。

人は多いし、暑いし、座る場所ないし、でも荷物多いし。

できればここで長時間待ちたくない。



そこで、自分が持っているチケットは17時半だが、一か八かで16時のバスの前に行ってみる。空きが出てるかもしれんし。(バスに乗る前にチケットをチェックされる)

当然、「おいおい、お前が持ってるのは17時半やないか。」と運転手に言われる。


「ですよね」と思い、しばらくその場で待つ。


すると、運転手が「乗れ」と。


「え。」と思いつつ、1時間半早く帰れるのはラッキーなので乗り込む。

バスが満席になった出発間際、16時のチケットを持っているが乗り込めないという人が出てくる。(空きが出たから乗れたわけではなかったみたい)


運転手が仲間と共に一人一人のチケットの時間を確認する。

「やばいやばい、怒られるやつや。え、でも乗れっていったのあなたやん」

と思いながらびくびくしていると、私の近くに座っていた男性が追い出された。なにやら言い返していたが、渋々降りていった。


「え、私は?」みたいな顔で運転手と仲間を見ていると、

「あのムズングの小娘はいいんだよ」みたいなニュアンスで他の仲間に言っているのが聞こえた。


少し気まずい思いでそこに居続け、無事に任地に帰ることができた。



というわけで、今までバスチケットが買えず任地に帰れなかったとか、長時間待たされたとか、そういう経験はない。一人だと融通が効くからか、ムズング特権が適用される確率はぐんと上がる。


ちなみにニャブゴゴでは、チケットを買うときだけでなく、バスに乗り込むのもおしくらまんじゅうだ。ここで激しく体力を使う。それは、そのうち窒息者が出るんじゃないかと思うほどの勢い。その戦いで私はこの間スカートが破れた。

その日のニャブゴゴの様子ではないが、こんな感じ




【ムズング特権 病院編】


私はルワンダに来てから体調が安定しないことがあり、病院に行く機会が数回あった。

首都キガリで受診することが多かったが、待ち時間は大変長く、いつもそれだけで疲れ果てていた。14時に予約をとっていたのに病院を出たのが17時半ということもあった。



一度、キガリに来るほどでもないということで、ニャンザの病院で受診することがあった。

待ち時間に怯えていた私は、できるだけ朝の早い時間をねらって病院に向かった。2〜3時間の待ち時間は覚悟で、スマホをフル充電にして。



受付には既にたくさんの人が順番を待っていた。

「足を診てほしいんですけど、内科ってどこですかね(何の病気)」ととりあえず窓口で聞くと、少し待つように言われた。

すぐにマダムがやってきて、「私があなたのお世話をするわ」と言った。

そのマダムは英語が話せて、病院内を案内してくれるという。

ルワンダの病院での流れは以下の通りである。


  1. 受付

  2. 血圧・体重測定

  3. 診察

  4. 支払い

  5. 薬の受け取りと支払い


その項目ごとに行く場所が変わるので、慣れていないとややこしい。私はニャンザでの病院は初めてだったので助かった。



マダムが来るやいなや、そこに並んでいる大勢の人をすっとばし、受付の次のステップである「血圧、体重測定」の部屋に案内された。



それをスムーズに終え、次は診察だという。

診察室の前に着いたら、「あなたは今入っている人が出てきたら行きなさい」と。

周りを見ると、他にも待っている人が数人いた。

しばらく待って、診察室にいた患者が出てきた。

本当に次私が入っていいものかと周りの様子を伺っていると、

私より早くからそこにいたおじいさんが「行きなさい」と言った。(実際には「ほれほれ、あんたの番やで、はよお行き」みないな感じ)

お言葉に甘えて診察室に入る。

スムーズに終え、無事に「診察」のステップをクリア。



次は支払い。支払いゾーンに着くと、ここも大勢の人。それぞれの窓口に6〜7人は並んでいた。

マダムは窓口に行かずに立ち止まり、レシートに記された金額を渡すように言った。マダムにお金を渡すと、スタッフ専用のような部屋に入っていった。

しばらくするとマダムが出てきて、「支払いが完了した」と言って領収書をくれた。

あとは近くの薬局に行って薬をもらうだけ。



病院に来てから1時間も経っていない。

驚きだった。キガリのときと全然違う。早すぎる。

正直嬉しかったし、とてもありがたかったけど、違和感も大きかった。





この対応の違いは何だ。


ムズング特権の恩恵を受け入れておいて言えることじゃないかもしれないが、これは差別だろうと。


「外国人を大事に」「困っている外国人に親切に」

そういう意図があるのかもしれないが、少しずれていると感じた。



そして、なぜ誰も文句を言わない。


現地の人はみんな黙って受け入れていた。

ふつう、自分が長時間待たされているのに他の人が横入りしてきてきたら腹が立つだろう。「ムズングだから」という理由で。


歴史的な背景から、声を挙げない国民性だということは聞いたことがあるが、それが関係しているのかなんなのか。



ありがたいけど、なにかがおかしい。


そんな風に感じたニャンザの病院だった。




以上、この1年間ルワンダで過ごして感じたムズング特権でした。

他の国でもこういうことはあるのかな?


もしあればぜひぜひ教えてください(^^)




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