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ショートムービー
久しぶりに会う同僚と食事に行った。
長身を黒で包んだ彼は普段のフリースやつなぎ姿とは程遠くてなんだか面白くて変な感じがする。カウンターと座敷がある昔ながらの日本の居酒屋でタイ人のおばちゃんがタイ料理を振る舞う独特な店の雰囲気のせいなのか知ってるけど知らない人みたいだった。
シンハーにガイトート、ヤムウンセンをつまみながらいろんな話をした。会わない間のお互いの生活。知らない街の話や最近の事。ガイトートにスイートチリをつけた方が美味しいのか、スパイシーな衣が美味しいのからつけない方がいいのか、そんな事を考えながら耳を傾ける。
「いいと思っても縁がなければその街には住めないんです。この街いいなあと思っても縁がなければ住めないんです。だからたまたま住んだだけでも縁があったんですよ。今いる街も沖縄も。」
どの流れでその話になったのかは忘れたけれど、その言葉がやけに耳に残っている。縁かあ。確かに、日本だけとっても48都道府県あって、さらに市町村で考えると約1700もの選択肢がある。全ての市町村に1ヶ月ずつ住もうとすると140年以上必要だ。ここにいるタイのおばちゃん達はどんな縁があってこの町にいるんだろう。
一緒に働いている時は毎日顔を合わせて3食をともにし、生活を共にしていた。しかし、距離が縮まることはなかった。それでも長い時間を過ごしたからかいろんな話が口を出る。私は将来に対する不安を溢していた。
「やりたいことをやればいいんですよ。
今はやりたいことをとにかくやって、
それがいつか繋がっていくから。
今は点を打つ。
いつか点と点が繋がって線になる。
関係ないと思ってたことや
無駄だと思ったことも
意外な時に繋がったりするんですよ。
でも点を打たないと繋がらないから
たくさん点を打った方がいいんです。
スティーブ・ジョブズの受け売りですけど。」
私は大好きだった場所、仕事を辞めて“空っぽ”だった。今まではその仕事を中心に人生や生活を考えていたから、それを失って自分の芯を抜き取られたようだった。これからどう生きていけばいいのか何もわからなかった。そんな私にとってはどこか刺さる言葉だった。
やりたい事はたくさんあるけど、でも将来的に無駄かもしれないと思ったこと。時間もお金も有限な中、やるべきじゃないと思ったこと。とりあえずやってみればいっかって思えた。きっとこの人は思わぬ点と点が繋がる瞬間を見てきたのだろう。
お客さんが引戸をがらがらと開けてお店に入ってくる。訛りの強いこんばんわで出迎えるタイのおばちゃん。ほろ酔いで喋りながらトムヤムクンをよそう同僚。全てがエモーショナルで映画を観ているようだった。