ドラマ遠足
この世界では『ドラマ遠足』というドラマの世界に入り込んで、ドラマでは放送されていない裏で起きている出来事を見ることができるというものが流行っている。現在では高校の校外学習や大学での授業に取り入れられているほど影響が大きい。しかし、非常に依存性が問題視されている。
私はそんなドラマ遠足の研究者の一人である。私の仕事は遠足に行かれるお客様をドラマの世界に案内をすること、ドラマの世界とその依存者の研究・管理をするというもの。今日は初めてのお客様、私とは別の視点でドラマ遠足について研究している坂上様がいらっしゃいます。
「いらっしゃいませ。ご予約されていた坂上様でいらっしゃいますね。」
「はい。今日はよろしくお願いします。」
「こちらのドラマですね。それではご説明いたします。ドラマの世界に行くのはいたって簡単で、この扉をくぐることで行くことができます。」
「はい。そんなに簡単に行けるものなのですね。」
「そうなのですが、いくつかルールがありますので、気を付けてください。」で
ルール
1,必ず複数人で世界を行き来すること。
2,ドラマの進行にかかわる重要人物に絶対かかわらないこと。
3,ドラマへの解釈が同じ人としか入れないこと。
お客様にルールを説明した後、ドラマの消滅そして最悪の場合ご自身の消滅のリスクがあることに同意してもらった。
「それでは行ってらっしゃいませ。」
そういうと扉を開きお客様を送り出した。
坂上様は、好奇心と少しの不安を抱えながら、ゆっくりと扉をくぐった。扉の向こう側には、彼が幼い頃から何度も観ていた大好きなドラマ『永遠の夏』の世界が広がっていた。このドラマは、夏休みを舞台にした青春物語で、多くのファンを持つ名作だ。坂上様もその一人で、この遠足を心待ちにしていた。
ドラマの世界に足を踏み入れると、目の前に広がるのは懐かしい風景だった。海岸線が続く小さな町、砂浜、そして夏の強い日差しが照りつける。坂上様は一瞬、現実と非現実の境界が曖昧になる感覚を味わった。彼は胸を高鳴らせながら、ドラマの世界を探索し始めた。
彼が最初に向かったのは、主人公たちがよく集まるカフェだった。坂上様は静かにカフェの扉を開け、中に入った。そこには、ドラマの登場人物たちがリアルに存在していた。カウンターでコーヒーを淹れているのは、主人公の友人であり、物語の中で重要な役割を果たす青年だった。坂上様は息を飲みながら、その光景を見つめていた。
「ここに来るのは夢だった」と、坂上様は心の中でつぶやいた。彼はドラマの進行にかかわる重要人物に接触しないよう注意しながら、カフェの片隅に座り、静かに観察を続けた。登場人物たちの会話や表情は、放送されたドラマそのものであり、リアリティに満ちていた。
その時、カフェのドアが再び開き、もう一人の訪問者が入ってきた。彼は坂上様と同じく『ドラマ遠足』の参加者であり、この世界に共に来ることになったパートナーだった。二人は静かにうなずき合い、それぞれの視点からドラマの世界を楽しむことにした。
カフェでの時間を過ごした後、坂上様とパートナーは次の目的地へと向かった。それは、ドラマのクライマックスシーンが撮影された美しい海岸だった。二人は海岸線を歩きながら、ドラマの名シーンを思い出しては感慨にふけった。
突然、遠くから見覚えのある人物が歩いてくるのが見えた。それは、ドラマのヒロインである少女だった。彼女は海岸を歩きながら、何かを探しているようだった。坂上様は一瞬、彼女に話しかけたい衝動に駆られたが、ルールを思い出して自制した。重要人物との接触は禁止されているのだ。
しかし、その時、思わぬ出来事が起きた。海岸に近づくと、ヒロインが何かを見つけたようで、小さな箱を拾い上げた。それはドラマでは見たことのない場面だった。坂上様は驚きとともに、この瞬間を記憶に焼き付けた。ドラマの裏側で起きている出来事を目撃することこそ、『ドラマ遠足』の醍醐味であり、研究者としても非常に興味深いものだった。
ヒロインが箱を開けると、中には古びた手紙が入っていた。彼女は手紙を広げて読み始めた。その表情は次第に変わり、驚きと感動が入り混じったものに変わっていった。坂上様とパートナーは息を飲んでその様子を見守った。
手紙の内容は、ドラマの設定とは異なる、ヒロインの知られざる過去に関するものだった。それは、彼女の家族に関する秘密を明かすものであり、ドラマの展開に大きな影響を与えるものだった。坂上様はこの発見に興奮しながらも、これがどのように物語に影響を与えるのかを考えた。
しかし、ここで一つの疑念が生まれた。もしこの手紙の内容がドラマの本筋に影響を与えるものであるならば、彼らがこの場面を目撃したこと自体が、ルールに反しているのではないかということだ。坂上様はパートナーと目を合わせ、無言のうちにこの疑念を共有した。
「ここから離れよう」と坂上様は静かに言った。「ドラマの進行に影響を与える可能性がある。私たちがここにいること自体がリスクになるかもしれない。」
二人は慎重にその場を離れ、他の観光客に気づかれないようにドラマの世界を後にした。現実世界に戻ると、坂上様は胸をなで下ろしたが、同時に大きな発見をしたことへの興奮も感じていた。彼はこの経験をもとに、さらに『ドラマ遠足』の研究を深めることを決意した。
「これからも、多くの人々にこの素晴らしい体験を提供し続けるために努力しよう」と、坂上様は心に誓った。そして、ドラマの世界と現実の境界を探求し続けることに、研究者としての情熱を燃やし続けた。