アープ “ARP ODYSSEY”
ARP ODYSSEY (1972)
ARPオデッセイについては、以前にAXXEのところで触れているので、今回は、僕と、このアープ・オデッセイというシンセサイザーの個人的な関係について書こうと思う。
僕は、ブレイクビーツというジャンルの音楽を作っていて、長らくサンプリング音源などを使って、再構築するというスタイルで曲を作っていた。
PCのデスクトップ上で、音楽制作ソフトを使って、プラグインと呼ばれるソフト音源も多用していた。
今はクラウド化が進んでいてだいぶ状況は変わっているのだろうが、当時は、日々アップデートに追われることや、ソフト同士の互換性や、メーカー都合のマイナーチェンジやサポート終了などの問題にいちいち振り回されることがかねてからのストレスになっていた。
で、ある時、思い切って、制作環境を、PCとソフトウェア主体から、ハードウェアとアナログ中心にガラリと変えてみることにしたのだ。
そんな矢先に手に入れたのがアープ・オデッセイのリイシュー。
今はなきアープ社に変わって、コルグが企画・製造したもので、全体のサイズは80%縮小されているものの、オリジナルのアナログ回路を再現した完全復刻版だ。
それまでソフトシンセでの音作りの経験はあったものの、アナログシンセのことは全くの無知だった僕は、以来、アナログシンセのについての情報を検索しまくり、基本的な知識を集めていったのだ。
同時に、シンセサイザー黎明期のアーティストたち、クラフトワークやYMOが当時アナログシンセを使って作った曲を研究し、自分で音を再現するという作業を行っって、音づくりを研究しまくった。
たとえば、YMOの『シムーン』なら、SEからドラム、パーカッション、ベース、メロディー等ピアノ以外で鳴っている音色を一つ一つオデッセイで合成し、それぞれのデータをパッチシートに記録する、などと。
単純な電気信号音をイメージの音に近づけてゆく作業は、音楽機材に初めて触れた頃のような楽しさがあったし、何より発見の連続。
例えば、キックは2種類の音を重ねて出来ているとか、カウベルは微妙にピッチをずらすことで再現しているとか。
オデッセイを触っていて感じるのは、とても操作がしやすいということ。
パネルのレイアウトは音作りの基本(左から右のセクションに向かって順につまみをいじる)に忠実でストレスがない。スイッチを入れればすぐに音が出る。わかりやすさを追求した設計思想が感じられる。
仕組みはシンプルなだけに、操るのはテクニックが必要になるが、それを模索することもまた楽しい。
アナログシンセに触れる喜びを僕に教えてくれたオデッセイ。
僕にとってアープ・オデッセイは、音楽、そして人生を愉しむ相棒であり、特別なシンセサイザー。
ちなみに、オリジナルのオデッセイは生産時期によってフィルター回路が違う3つのバージョンがある。今回描いたのは、カラーのスライダーが差し色になって白いパネルが映える最初のモデル、rev.1だ。
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