きょしょくしょうの人
あたしは、誰もがうらやむ人気者。ストイックにトレーニングしてキープした美しいスタイル。ツヤツヤの髪はいつもトレンドのカラーリング。今のイチオシのキャラメルブラウン。鏡に映るあたしは、ホントに最高。
今日も一等地のタワーマンションから、中心部のオフィス街へ仕事に行く。え? 家の場所を教えろですって? そんなにあたしのこと、気になるのね。無理もないわ。でも、ひみつ。あたしEXILEプロジェクトの元メンバーなの。やめちゃったから、あたしはそんなに有名じゃないけど、誰もが知ってるような人たちと知り合いなんだから。それにあたしのパパはK建設の社長なの。迷惑かけたくないわ。パパは業界ではトップクラスだからいつも引っ張りだこ。家ではゆっくりさせてあげたいの。だから、押しかけようなんて考えないでほしいわ。
あたしの仕事はジョブカウンセラー。主に、あたしの会社に派遣されたスタッフさんと派遣会社さんを仲介する仕事をしている。派遣の人って、雇用元から離れていて、いろんなことすぐに相談できないのよね。だから派遣スタッフさんのお話を聞いて、心のケアをしてあげるの。みんなあたしと話すのが好きで、いっつも面談予約で一杯よ。今日は書類整理があるから、デスクに座りっぱなしだけどね。こういう日もあるわ。でも、みんなあたしとお話したいみたい。今日も、派遣スタッフを受け入れている現場から、ひっきりなし電話、電話、電話。みんな、派遣の人が~って言いつつあたしと話したいのね。相談しつつ、こっそりご飯行かないなんて、そんなにあたしと一緒にいたいんだ。フリーの人も既婚者も、あたしに首ったけ。モテる女はたいへんね。この間なんか、リーダーのYさんに、告白されそうになったわ。はっきり言われなかったけど、そうでよかった。
実はあたし、彼氏がいるの。同じ会社の宣伝部で働いてる超イケメン。みんなにはひみつ。だって、あたしは彼の浮気相手だから。今、彼女と頑張って別れようとしてるんだけど、そのこ、メンヘラらしくって、別れるなら死んでやるって言うらしいの。大変よね。今、彼は一時間おきのLINEと家に帰ったら寝るまでビデオ通話させられてる。ホントかわいそう。だから今日もあたしが癒してあげる。
仕事が終わった。邪魔にならないように、エントランスで彼を待つ。今日はどこへ行こうか、何をしようかって考えたら、待ってる間も楽しくなる。だけれど、今日はなんだか遅いみたい。二時間待っても彼がこない。心配だからLINEしてみる。
「お疲れ様! 今日も残業?」
「遅番なのでまだ少しいます」
「じゃあもうすぐ? いい感じのレストラン見つけたんだ~」
「あの、仕事以外で連絡しないでもらえませんか?」
「え~いでしょ~」
「よくないです。やめてください」
「だれかが見るわけでもないんだし、いいじゃん。ここくらいオープンにやろう?」
「いくら会社が連絡手段をLINEにしてるからって、やっていいことと悪いことがあると思いますよ」
「???別になんにも悪いことしてないよ??」
あたしのメッセージを最後にLINEは途切れちゃった。ま、気が乗らない時もあるよね。それに、まだ彼女と別れてなくて浮気状態。安心して一緒にいられるわけないよね。
明日になったら、みんなに言おう。あたしたち付き合ってますって。
そうしたら、彼も落ち着いてあってくれるはず。みんなもちゃんと理解してくれるはず。だって、あたしは人気者だから。
~虚飾症の人 終
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