雀の落下とドアの声(短篇小説)
貴方は遠くなかった。家の前に佇んでいた。
私は悶えていたが、静かにいれば邪魔にならないからそれでいいと思った。そして貴方を道路の真ん中から見詰めながら心に息が通っていないことを忘れようとした。
それでも貴方は佇み続けた。それは日常に欠かせない礼儀かのように。
死んだ人を待つのはどうも不要なこととはそこまで思わないが、それが死を待つことになってしまう恐ろしさが貴方に感じることができないのを私は知っていた。だから悶えを静かに乗り越えてみる。車が私を吹き飛ぼしてもいいが、もしこの道路で何もが起こらなければ貴方へ行こうと決心してみた。貴方は死んだ人を待ちながら私は決心を待つことにした。
雀が私の存在を許せないものだと思ったかもしれない。
私の周りだって乾燥したアスファルトばかりだったのに、私の頭に雀が落ちた。軽い激突だった。雀が空で死んだからなのか、元々雀があれほど軽い生き物からなのか、雀についての無学を思いながら頭の亡骸を取った。髪から液体が現れた。私と雀の間の、血だったかもしれない。
貴方の遠くない姿から雀のくちばしへ視線を移してみた。私の血、私の存在を許さなかった雀の血。でも私から血が出ることがあり得るでしょう。とてもそう思えない。
血に決心が私を見詰めた。車は聞こえていなかった。貴方の遠くない息と血の呟きだけが耳に優しく入った。
貴方へ歩いていった。雀から温かみを味わった。私の手に生命が入ろうとしていると信じてみた。
そこに私のドアがあった。あのドアが随分色褪せていた。そして何かをくぐもる貴方もいた。
雀を貴方の背中に投げた。あの微かな温かみにさよならを唱えた。
もういいから、かえって、かえって。もういい。
それを口にするのは難しくなかった。とはいえ、貴方の耳に届くことが疑わしい。
それは貴方が実際に振り向き、雀の亡骸を見ずに私の家から離れていった。
貴方に、私の声が、聞けたでしょうか。
人気のない、今のここをぼんやりと見つめていく。時々雀たちがここを訪れ、亡骸になる。それでも、日光の暖かさに包まれることがたまにある。