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ジャズに興味がある人に贈る私的ジャズ論 その6 全てはここから始まった

今回はジャズ聴き始めの皆さんに送る4枚目のご紹介になります。

noteには投稿者が自身の記事の閲覧回数を確認できる画面が用意されていますが、その閲覧回数から皆さんがジャズに関心が高いことがわかりました。

そんなジャズがジャンルとしては超有名なのにパッとしないのは脱落者が多いからではないか?ジャズは古臭くて気難しそうなおじさんの音楽って感じなんでしょうか。なので、ちょっと聴いて「あぁやっぱり難しいね」でやめてしまう若い世代を減らせば、もう少し盛り上がるんじゃないかと思ってます。

これからも少しずつ書いていけたら良いなと思いますので、応援よろしくお願いします。あと私はジャズだけを好きな人間ではないので、他のジャンルやアーティストも書きたいななどと考えたりしています(他には書評も書いています)。

ちなみに過去のおススメ記事はこちらです。ご覧ください ↓

<3枚目>

<2枚目>

<1枚目>

今回の聴き始めの方おススメアルバムはこちらです ↓

4枚目:アートブレイキー 「A Night at Birdland Vol.1」
   (邦題:バードランドの夜 Vol.1)

Art Blakey

このアルバムはタイトルからもわかるようにVol2もあるのですが、私は断然Vol1をおススメします。Vol2も人気盤なのですが、なぜVol1なのかは後程説明します。

このアルバムはこれからジャズを聴く人だけでなく、ジャズファンの中でも既に超名盤扱いなのですが、なぜそこまで人気があるんでしょうか?

このアルバムの良さを内容で表現すると、

・この音感が「ハードバップ」という黄金期のスタイルとして確立
・演奏が素晴らしい。特にトランペットのクリフォードブラウンは秀逸
・全てがいかにもジャズで、今後のジャズ人生の基本ボキャブラリーになる

と言う感じ。

初回の記事で、" ビッグバンド形態のダンス音楽であったジャズが少ない人数のバンド形式に変わっていった" と書きました。少人数のバンド形式になった直後の音楽スタイルはビバップと言われています。ですが、このアルバムの形式はハードバップ。なんかハードバップの方がノリも圧も強そうですね。その通りなんです。何が起きたかわかりませんが、明らかにビバップよりもこちらの方がノリも圧も強いんです。でもそれがウケた。当時の迷えるジャズメンが「よし、これだ!これで行こう!」と思ったでしょうし、レコード会社も同じことを思ったに違いありません。

つまり、あえて言い切ると「この作品こそがモダンジャズ黄金期の幕開けでありハードバップそのもの」なんです。例えるならプログレでいうキングクリムゾンの「クリムゾンキングの宮殿」、グランジで言えばニルヴァーナの「ネヴァーマインド」。

残念ながら現代人は当時の空気を直接感じ取ることはできないのですが、頭の中で理解しながら聴いていくと、良さがどんどんとしみ込んできます。

先ほど、Vol2よりもVol1が良いと書きました。理由は、Vol2はビバップっぽいからです。演奏が小粒に聴こえますし、スウィング感や独特のノリがVol1よりも薄い。全体的に大人しく何かのBGM的な感じ。私個人はそんな感じがしてVol2をほとんど聴きません。

でも、ここに大きな事実が隠れていると思っています。レコードが2作に分かれたのは、レコードだとライブ全体を収めることができなかったからに違いないですし、2枚組で発売すると価格も高くなる(当時は特に)ので別売にしたというのは想像できます。でもこのアルバムは、ライブを前半後半で切ってVol1と2にしたんではないんです。レーベル側で曲順はバラバラにされているんです。

じゃぁどういう感じで、ある曲はVol1に、別の曲はVol2にしたんでしょうか?解説を書いている(故)行方|《なめかた》氏(ジャズ普及に尽力された評論家)は、ビバップっぽい曲がVol2に収められているのではと書いていますが、私は違うと思っています。

レーベルの考えを邪推すれば、デキが良い曲をVol1に、そうでもない曲をVol2に持ってきているはずなんです。だって、Vol1が売れなかったらVol2は買ってくれないから。同時に2枚買う人がいるほど、ジャズもここのアーティストも当時は売れていません(このあと売れますが)。

つまり、良い曲や良い演奏を集めた曲集(Vol1)が、ハードバップと呼ばれのちのジャズの模範となったということを言いたいんです。アーティストはライブを通しで演奏しているので、この曲はハードバップであっちの曲はビバップなんて意識していないはずです。でも、あとで他人が聴いてみると良い曲とそうでもない曲があることに気づくんです。それがハードバップとビバップとの違い。アーティストすら気づかないような微妙だが絶対的な違いがレコード会社の選別でハードバップを生んだとすれば嬉しい誤算です。

このアルバムの構成はドラム、ベース、ピアノ、トランペット、アルトサックスという5人編成。ベースのカーリーラッセルはそうでもないですが、ベース以外は後に大人気になるジャズメン達です。

特にトランペットのクリフォードブラウンは凄い。この流れるようなフレージングとほとんど同じフレーズを吹かないんじゃないかと思えるほどのバリエーション、フレーズに溢れる歌心。トランペット吹きの一つの理想郷ではないかなと思います。若くして交通事故で亡くなっていますが、今なお人気の天才トランぺッター。録音当時は24歳です。

余談ですが、ラッツアンドスター(旧シャネルズ)のトランペットの桑野氏が尊敬するトランぺッターはこのクリフォードブラウンだそうです。タモリの番組でそう答えているYoutubeの映像を観たことがあります(ややこしいですが)。

アルトサックスのルードナルドソンも上手い。ただ、上手いんだけどあまり記憶に残らない。ちょっと本人的には損しているかも。クリフォードブラウンが凄すぎるからか。ただ、彼ものちに全く違う踊れるジャズ路線で大ヒットをかまします。

ピアノのホレスシルバーも上手い。彼ものちに人気者になるわけですが、ここでもすでにその片鱗がうかがえます。程よくブルージーでファンキーだし、アドリブでの早いパッセージもノリノリで弾き切っている。前回のウェスのおススメではピアノのウィントンケリーは控えめでしたが、こちらのホレスシルバーはもっと押しが強めで結構音も大きく、ソロもしっかりとっていて聴かせどころになっているのが分かります。

ドラムはリーダーのアートブレイキーです。この人のドラムは恐ろしく際立ってますね。前回のおススメアルバムでのジミーコブは小味を利かせた、曲中で何度も味付けを変えるテクニックが光りましたが、この人は逆(笑)。" ドロドロドロ、ドスンドスン、バーン、バーン" とこれでもかとドラムを強打。でもこれが凄いバンドメンバーを奮い立たせるし、聴いていてノッてくるものがある。「リーダーは若き天才クリフォードじゃなくて、俺なんじゃーい!」と思って強打していたかどうかは分かりませんが、でもそんな感じで奥に引っ込んでいる感じは皆無。

アルバム全体を通して、曲調も演奏も全てがハードバップ期のジャズ。というか、彼らが切り開いた音楽がハードバップになった。これを仮に100回聴いたとしたら、今後の人生でどんなジャズを聴いても結構分かってくるはずです。

全盛期で言えばハードバップ黄金期も10年も無かったかなと言う感じです。つまりこの感じのジャズが凄い流行ったんだけど、どこかで「もうこれじゃないよね」と違うジャズに変化していきました。1960年の中期以降のジャズを聴いた時に、このアルバムを聴いておくと「なるほど、こういうジャズに変わっていったわけね!」となるに違いありません。

今日はちょっと観念的な説明が多かったかもしれませんが、それぐらいこのアルバムがジャズの基本なので、ジャズに慣れるために10回と言わず100回聴いて欲しいなと思います。

ということで、このアルバムは気に入る気に入らないに限らず、ジャズに興味を持った方は全員必ず聴いてください(笑)。筋トレならぬ耳トレアルバムです。

次回はこのシリーズの最終回の予定で、最後に少し毛色の違うアルバムをご紹介する予定です。

またお会いしましょう。

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